土地の所有権放棄はできない?いらない土地を合法的に手放す3つの道

山に囲まれた川と船着き場

土地の所有権放棄は、「放棄します」と届け出る窓口がなく、裁判で争われた例では権利濫用として退けられています。いらない土地を持ち続けたくないとき、放棄という一方的な手続きは選べません。この記事では、民法と法務省の資料をもとに「なぜ放棄できないのか」を整理し、そのうえで合法的に手放す3つの道——相続放棄・相続土地国庫帰属制度・誰かに譲る——のどれがあなたの土地に当てはまるかを振り分けます。

先に結論を言うと、単独で持っている土地を「放棄」だけで手放す方法は、現在の法律にはありません。手放すには、必ず誰か(国・他の共有者・譲渡の相手)が受け取る形が要ります。

目次

「放棄します」と届け出る窓口はない

民法には、動産と不動産について「所有者のないもの」の扱いが書かれています。

第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。

2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

——民法 第239条(e-Gov法令検索)

この2項を読んで「放棄すれば所有者のない土地になり、国のものになる」と考える方がいます。しかし、土地の所有権を放棄できるかどうかを定めた条文はありません。法務省の法制審議会(民法・不動産登記法部会)の資料は、次のように整理しています。

土地所有権の放棄の可否については,現行民法に規定がなく,確立した最高裁判所判例も存在しない。(中略)土地所有権の放棄の可否は判然としない。

——法制審議会 民法・不動産登記法部会資料2「土地所有権の放棄」(法務省)

規定がない以上、法務局には「所有権放棄」を原因として登記を消す手続きがありません。書面を持ち込んでも、登記を動かす根拠がないため受理されない、というのが実務です。

この検討の結果として作られたのが、令和5年4月に始まった相続土地国庫帰属制度です。つまり国は「放棄を自由に認める」のではなく、要件を満たした土地だけを、負担金と引き換えに引き取るという形を選びました。

裁判で争われた例——「押し付け」は権利濫用

放棄を認めた最高裁判例はありませんが、放棄を主張して国を相手に登記を求めた裁判はあります。法務省の同じ資料は、その裁判例を次のように紹介しています。

土地の所有権を放棄したと主張する者が,土地の所有権放棄を原因とする所有権移転登記手続を国に対して求めた事案において,原告の行為につき,土地に関する負担ないし責任を国に押し付けようとしたなどと認定して,当該土地の所有権放棄は権利濫用に当たり許されないと判示した裁判例がある(広島高松江支判平成28年12月21日)。

——同・部会資料2(法務省)

ここで押さえておきたいのは、裁判所が「放棄は一切できない」と言ったのではなく、管理の費用や責任を国に転嫁するための放棄は、権利の濫用として認めないと判断した点です。売れない土地を手放したい人の放棄は、まさにこの「費用と責任を国に移す」場面に当たります。

「放棄の意思表示をして、その旨を内容証明で国に送れば足りる」といった情報を見かけることがありますが、裁判で退けられた例がある以上、有効な手段とは言えません。書面を送っても固定資産税の納税義務者は変わらず、管理の責任も残ります。

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「放棄」と名の付く3つの言葉は、まったく別のもの

相談の中で混ざりやすいのが、「所有権放棄」「相続放棄」「持分放棄」の3つです。名前は似ていますが、根拠も効果も違います。

言葉根拠できるか土地の行き先
所有権放棄(単独所有)規定なし手続きがない。裁判では権利濫用とされた例行き先が決まらない
相続放棄民法939条できる。ただし土地だけは選べない他の相続人へ。全員が放棄すれば相続財産清算人の手続きへ
持分放棄(共有)民法255条できる。登記には他の共有者の協力が要る他の共有者へ
「放棄」という言葉の3つの意味と、土地の行き先
同じ「放棄」でも、行き先が決まっているものと決まらないものがある

相続放棄は「土地だけ」を選べない

親の土地を相続する前なら、相続放棄という道があります。ただし、いらない土地だけを外すことはできません。

第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

——民法 第939条(e-Gov法令検索)

「初めから相続人でなかった」ことになるので、預貯金も自宅も、土地と一緒に手放すことになります。しかも家庭裁判所への申述は、原則として自分のために相続があったことを知った時から3か月以内です(民法915条)。相続財産の一部でも処分すると単純承認とみなされ、放棄できなくなることがあります(民法921条)。

放棄した後の管理についても、令和5年4月施行の改正で条文が整理されました。

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

——民法 第940条第1項(e-Gov法令検索)

つまり、実家に住んでいる・鍵を持って出入りしているといった「現に占有している」状態なら、放棄しても保存の義務は続きます。詳しくは相続放棄と不動産の管理義務にまとめています。

  • 土地だけを放棄して、預貯金は受け取る
  • 3か月を過ぎてから「やはり放棄したい」と申し出る
  • 放棄する前に、土地の草刈り業者と契約して費用を相続財産から払う(処分と見られるおそれ)

制度として用意されているのは、相続土地国庫帰属制度だけ

単独で持っている土地を国に渡す唯一の制度が、相続土地国庫帰属制度です。「放棄」ではなく「承認申請」であり、入口の条件と費用があります。

見る点内容出典
誰が使えるか相続または相続人への遺贈で取得した土地の所有者法 第2条第1項
入口で却下される土地建物がある/担保権や使用収益権が付いている/他人の通路を含む/土壌汚染/境界が明らかでない・争いがある同 第2条第3項
審査で不承認になる土地崖/地上の工作物・車両・樹木/地下の埋設物/隣地との争訟が要る/その他管理に過分の費用同 第5条第1項
審査手数料土地一筆あたり14,000円。却下・不承認でも返らない法務省「制度の概要」
負担金国有地の種目ごとに10年分の管理費用を考慮して算定。通知を受けた日から30日以内に納付同 第10条
期間標準処理期間8か月法務省Q&A

「放棄」との違いは明らかです。国が引き取るのは、自分で買った土地ではなく相続した土地で、建物がなく、境界が明らかで、しかもお金を払った場合に限られます。要件と公表されている実績は相続土地国庫帰属制度の解説にまとめています。建物が建っている土地は、先に解体しない限り入口で却下されます。

建物があると国庫帰属できないため、先に解体する方もいますが、解体費用に審査手数料と負担金を足すと、壊さずに引き取り手を探したほうが安く済むこともあります。更地にしてから国庫帰属を目指す前に、両方の金額を並べて比べてください。

「放棄したい」と考えている土地が相続で取得したもので、建物がなく、境界がはっきりしているなら、まず法務局の事前相談を受けてください。相談は無料で、見込みが薄ければ手数料を払う前に引き返せます。

共有なら持分放棄はできる——ただし相手が受け取る

土地が親族との共有になっている場合は、話が少し変わります。

第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

——民法 第255条(e-Gov法令検索)

持分の放棄は一方的な意思表示でできますが、登記は他の共有者と共同で申請することになり(不動産登記法60条)、相手の協力がなければ名義は動きません。相手からすれば、望まない持分を押し付けられる形になります。放棄された側に贈与税の問題が生じることもあるため、税理士へご確認ください。

共有者と連絡が取れない、所在が分からないという場合は、所在が分からない共有者の持分取得の制度が別にあります。共有持分そのものを手放す考え方は共有持分の売却を参照してください。

残る道は、誰かに引き取ってもらうこと

放棄という手続きがない以上、単独所有の土地を手放すには、必ず受け取る相手がいる形を取ることになります。相手は国・自治体・個人・買取業者の4種類です。

相手形引き受けられる条件自分の費用負担
国相続土地国庫帰属制度上の表の要件をすべて満たす審査手数料+負担金
自治体寄付自治体に使い道がある土地に限られ、断られることが多い受け入れられれば少ない
隣地所有者・知人無償譲渡(贈与)相手が受け取る意思を持つこと相手側に贈与税・不動産取得税・登記費用
買取業者売却(0円や費用負担ありの形を含む)場所・状態・権利関係による原則なし。条件によって費用負担の合意が要ることも

自治体への寄付が断られる理由と代わりの手段は、自治体への土地の寄付に書いています。無償で譲る場合も、0円だから税金も費用もかからない、ということにはなりません。受け取る側に贈与税・不動産取得税・登録免許税がかかり、誰が負担するかを決めておかないと話が壊れます。

いらない土地を「放棄したい」と思ってからの振り分け
相続の前か後か、共有か単独か、建物があるかで道が分かれる

当社は訳あり不動産を現況のまま取り扱っています。放棄できない、国庫帰属の要件に合わない、寄付を断られたという土地について、片付け・解体・測量を売主様にお願いすることはなく、調査は当社で行います。ただし場所や状態、権利関係によっては成立しないこともあり、個別の判断になります。

「放棄したい」と思ったときの順番

  1. 相続の前か後かを確かめる……前なら、3か月以内に相続放棄を検討できる。ただし他の財産も一緒に手放す
  2. 単独所有か共有かを確かめる……共有なら持分放棄(民法255条)はできるが、相手の協力と税務の確認が要る
  3. 相続で取得した土地で、建物がなく境界が明らかなら……法務局で国庫帰属の事前相談(無料)
  4. どれにも当てはまらないなら……寄付・無償譲渡・買取のいずれか。先に費用を出さずに進められる相手を選ぶ

「放棄」という言葉を頼りに動くと、内容証明を送っても税金は止まらず、時間だけが過ぎます。手放すには受け取る相手が要る——この前提から始めるのが、いちばんの近道です。相続放棄の判断は司法書士・弁護士へ、税金の扱いは税理士へご確認ください。売れない土地の処分もあわせて参考にしてください。

よくある質問

土地の所有権を放棄する書類を法務局に出せば、名義は消えますか。

消えません。土地の所有権放棄について民法には規定がなく、放棄を受け付けて所有権の登記を抹消する手続き自体が存在しません。法務局に「放棄します」と書いた書面を持ち込んでも、登記を変える根拠がないため受理されません。手放すには、相続放棄・相続土地国庫帰属制度・譲渡(寄付や売却)のいずれかの形を取る必要があります。

国が引き取る義務があるという判例はありますか。

確立した最高裁判例はありません。法務省の法制審議会資料でも、土地所有権の放棄の可否は現行民法に規定がなく判然としないと整理されています。逆に、広島高裁松江支部の平成28年12月21日判決では、負担や責任を国に押し付けようとする放棄は権利濫用に当たり許されないと判断されました。「放棄すれば国のものになる」という前提で動くのは危険です。

相続放棄で、いらない土地だけを手放すことはできますか。

できません。相続放棄は相続そのものを最初からなかったことにする手続きで、預貯金や自宅など他の財産も一緒に手放すことになります。また、家庭裁判所への申述は原則として相続を知った時から3か月以内で、期限を過ぎたり相続財産を処分したりすると放棄できなくなります。放棄後も、その土地を現に占有している間は保存の義務が残ります。

共有している土地なら、自分の持分だけ放棄できますか。

民法255条により、共有者の一人が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します。ただし登記を移すには他の共有者と共同で申請する必要があり、相手の協力が要ります。放棄された側は望まない持分を押し付けられる形になるため、話し合いなしに進めるともめやすく、贈与税の問題が生じることもあります。税理士・司法書士へご確認ください。

放棄も国庫帰属も無理なとき、費用をかけずに手放す方法はありますか。

誰かに譲る形しか残りません。自治体への寄付は使い道がないと断られることが多く、隣地所有者や知人への無償譲渡は相手側に税金と登記費用がかかります。当社は訳あり不動産を現況のまま取り扱っており、片付け・解体・測量を売主様にお願いすることはありません。ただし場所や状態によっては成立しないこともあり、個別の判断になります。

この記事の監修者

小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)

不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。

ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号

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ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

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