不在者財産管理人で不動産を売却|予納金と、買主が先に要る理由

朽ちた板塀に囲まれた木造の古い建物

不在者財産管理人を立てて不動産を売却することはできますが、管理人が選ばれただけでは売れず、家庭裁判所の許可がもう一度要ります。しかもその許可は、買主と売買契約書の案が決まってから申し立てる形になっています。この記事では、費用と予納金、手続きの順番、ほかの制度との使い分け、そして現況のまま手放す道を整理します。

「相続人の1人と何十年も連絡が取れない」「名義人の兄が家を出たきり戻らない」。こうした事情で、実家や土地が動かせないままになっていることがあります。持ち続けるあいだも固定資産税と管理の負担は続くため、先に全体の見通しを持っておくことが大切です。

目次

不在者財産管理人とは、何ができる人か

不在者財産管理人とは、従来の住所や居所を去って容易に戻る見込みのない人(不在者)に代わって、その財産を管理する人のことです。利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所が選びます(民法25条1項)。

従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に,家庭裁判所は,申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,財産管理人選任等の処分を行うことができます。

——裁判所「不在者財産管理人選任」

申立てができる利害関係人として、裁判所は不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者などを挙げています。不動産の場面で多いのは、次の2つです。

場面何が止まっているか管理人がすること
相続人の1人が行方不明全員がそろわず、遺産分割の協議ができない不在者に代わって遺産分割の協議に加わる
名義人本人が行方不明売主がいないため、売買契約が結べない不在者に代わって売買契約を結ぶ

どちらの場合も、管理人が自分の判断だけで進められるわけではありません。ここが次の節の話です。

選任されただけでは売れない。「権限外行為許可」が要る

不在者財産管理人の権限は、民法103条に定められた範囲にとどまります。中身は、保存行為と、物や権利の性質を変えない範囲での利用・改良です。平たく言えば、財産を減らさないように守ることが仕事です。

不動産を売ることも、遺産分割の協議をすることも、この範囲を超えます。そのため管理人は、家庭裁判所の許可を得てから行うことになります(民法28条)。この手続きを権限外行為許可といいます。

家庭裁判所の手続きは2回あります。1回目が管理人の選任、2回目が売却や遺産分割のための権限外行為許可です。1回目が終わった時点では、まだ何も売れません。

相続人の1人が行方不明という場面では、遺産分割の協議に加わるための許可と、その後に不動産を売るための段取りの両方を見通しておく必要があります。どの形で分けるのが通りやすいかは事案によるため、司法書士・弁護士へご確認ください。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。

売却までの流れと、買主が先に要る理由

全体の順番は次のとおりです。

不在者財産管理人で不動産を売却するまでの流れ
選任と権限外行為許可、家庭裁判所の手続きは2回ある

見落とされやすいのが3番目です。裁判所が公表している権限外行為許可の申立書の記入例を見ると、申立ての趣旨は「不在者所有の不動産を、特定の相手に対して、別紙売買契約書(案)のとおり売却することを許可する旨の審判を求めます」という形になっています。記入例の末尾にも、売買契約書(案)を別紙として添付する必要があると書かれています。

つまり、許可を求める時点で、誰に、どの条件で売るのかが固まっていなければなりません。「まず許可をもらってから買主を探す」という順番にはなっていないのです。

買主のあてが無いまま管理人の選任だけを先に進めると、2回目の手続きの手前で止まることがあります。そのあいだも管理人の職務は続き、管理の費用がかかります。申立ての前に、その不動産に買い手がつく見込みがあるかを確かめておくほうが安全です。

同じ記入例では、売却を求める理由として、不在者にほかにめぼしい財産がなく公租公課の支払いに窮していること、建物に誰も住んでおらず朽ちていて賃貸の収益も期待できないこと、が挙げられています。古い空き家を手放して税金の負担を無くしたい、という理由が、裁判所自身の例文になっているわけです。

費用は印紙800円。ただし「予納金」がある

裁判所が案内している費用は次のとおりです。

手続き裁判所に納めるもの
不在者財産管理人の選任収入印紙800円分、連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)
権限外行為許可収入印紙800円分、郵便切手
予納金管理の費用に不足が出る可能性がある場合に、申立人が相当額を納める
管理人の報酬管理人の請求により、家庭裁判所の判断で不在者の財産から支払われる

印紙代そのものは大きくありません。負担になりうるのは予納金です。裁判所は、不在者の財産の内容から管理に必要な費用(管理人の報酬を含む)に不足が出る可能性がある場合、申立人に相当額を予納金として納めてもらうことがある、と説明しています。

不在者の財産が「古い空き家と、その敷地だけ」というとき、報酬を支払えるだけの預貯金が無いことは珍しくありません。その場合は、申立てをする側が先に費用を出すことになります。金額は事案ごとに裁判所が決めるもので、一律の額は公表されていません。

このほか、申立書の作成を司法書士・弁護士に依頼する場合はその費用、戸籍や登記事項証明書の取得費用がかかります。管理人には、不在者との関係や利害関係を考慮して親族が選ばれることもあれば、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあります。

売れたお金は、ほかの相続人のものにはならない

もう一つ、先に知っておきたい点があります。売却の代金のうち不在者の取り分は、不在者の財産として、管理人が引き続き管理します。

裁判所は、管理人の職務がいつまで続くかについて、次のように説明しています。

不在者が現れたとき,不在者について失踪宣告がされたとき,不在者が死亡したことが確認されたとき,不在者の財産がなくなったとき等まで,不在者財産管理人の職務は続くことになります。申立てのきっかけとなった当初の目的(例えば,遺産分割など)を果たしたら終わりというものではありません。

——裁判所「家事事件Q&A」

管理人は財産目録を作って家庭裁判所に報告し、その後も定期的に報告を求められることがあります。親族が管理人を引き受ける場合は、この負担が続くことも含めて考える必要があります。

税金の面では、国税庁が、管理人は家庭裁判所の許可をあらためて得ることなく、不在者の代理人として譲渡所得の申告ができるとしています(国税庁 質疑応答事例)。申告が要るかどうか、税額がどうなるかは、税理士へご確認ください。

ほかの制度との使い分け

行方不明の人がいるときに使える制度は、不在者財産管理人だけではありません。何を対象にする制度なのかが、それぞれ違います。

行方不明の人がいるときに使える4つの制度の違い
人の財産全体を見る制度と、その不動産だけを見る制度がある
制度根拠向いている場面気をつける点
不在者財産管理人民法25条・28条遺産分割から進めたい。不在者の財産全体を整理したい売却後も職務が続く。予納金が要ることがある
失踪宣告民法30条生死が7年間明らかでない死亡とみなされ、不在者についての相続が始まる。官報公告の費用がかかる
所在等不明共有者の持分の取得・譲渡民法262条の2・262条の3すでに共有になっている不動産を動かしたい相続による共有は、相続開始から10年を経過していないと使えない
所有者不明土地・建物管理命令民法264条の2・264条の8その土地・建物だけを対象にしたい管理人による処分には裁判所の許可が要る

下の2つは、2023年(令和5年)4月に施行された改正民法でできた仕組みです。不在者財産管理人が「人」を単位に財産全体を管理するのに対し、こちらは「その不動産」だけを対象にします。

どれが使えるかは、不在になってからの年数、相続が始まってからの年数、共有かどうかで変わります。親が亡くなって数年、兄弟の1人と連絡がつかないという段階では、共有持分の制度はまだ使えず、不在者財産管理人が現実的な選択肢になることが多いといえます。

制度を選ぶ前に確かめること

  1. 戸籍の附票で、本当に住所がたどれないか(たどれるなら、どの制度も要りません)
  2. 最後に連絡が取れたのはいつか(7年が一つの目安になります)
  3. 相続が始まったのはいつか(10年が一つの目安になります)
  4. 対象の不動産に、買い手がつく見込みがあるか

現況のまま手放したい、というとき

この手続きでいちばん避けたいのは、予納金と専門家への費用を先に出したのに、肝心の不動産に買い手がつかず、許可の申立てまで進めないという形です。費用をかけずに手放したいと考えて動き出したはずが、先に出ていくお金だけが増えてしまいます。

そのため、申立ての前に「この不動産を、いまの状態のまま買う相手がいるのか」を確かめておくことをおすすめします。仲介で一般の買主を探す方法もありますが、裁判所の許可を待つあいだ買主に待ってもらう必要があり、古い空き家や地方の土地では相手が見つかりにくいことがあります。

当社は自社で買い取る会社です。ご相談いただいた不動産については、次のように考えています。

  • 現況のままご相談いただけます。片付け・解体・測量を先にしていただく必要はありません
  • 調査は当社で行います。売主様に法務局や役所を回っていただくことはありません
  • 建物があれば、その状態と築年数を確認します
  • 再建築不可や市街化調整区域であることだけを理由に、取り扱いの対象外とはしません

一方で、すべてのご相談がまとまるわけではありません。これまで条件が折り合わなかった例としては、ご希望額と当社がご提示できる金額に開きがある場合、費用のご負担が必要となりご同意いただけない場合、相続人の方々の間で合意ができていない場合があります。加えてこの手続きでは、売却の条件を家庭裁判所が認めるかどうかという、当社にも売主様にも決められない要素があります。

管理人の選任や許可の申立てそのものは、司法書士・弁護士の仕事です。手続きの進め方は、そちらへご確認ください。

行方不明の人がいる不動産は、相続登記が済んでいない、共有持分のまま残っている、遠方の実家で誰も管理できていないといった事情と重なっていることが多くあります。ひとつずつ切り分けると、どこで止まっているのかが見えてきます。

相談の前に、手元でそろえておくとよいもの

専門家や当社に相談する前でも、次のものがあると話が早く進みます。

  1. 不在者の戸籍の附票 — 住所の移り変わりが載っています。ここで現住所が分かることもあります
  2. 不動産の登記事項証明書 — 名義人が誰のままになっているかを確かめます
  3. 固定資産税の課税明細書 — 毎年春に市町村から届くもの。持ち続けるコストが分かります
  4. 最後に連絡が取れた時期と、その後に試したこと — 手紙が戻ってきた、親族に尋ねた、など

裁判所は、選任の申立てに「不在の事実を証する資料」を求めています。4番目のメモは、その土台になります。

時間が経つほど、事情を知る親族が減り、相続人の数は増えていきます。急ぐ必要はありませんが、いまの状態で何が要り、先にいくら出ていくのかを一度並べてみると、次に取る手が決めやすくなります。

よくある質問

不在者財産管理人が選ばれれば、不動産はすぐ売れますか。

すぐには売れません。不在者財産管理人の権限は主に財産を保存することで、不動産の売却はその権限を超える行為にあたります。売るには、管理人が家庭裁判所に権限外行為許可を申し立て、許可を受ける必要があります(民法28条)。

不在者財産管理人の申立てには、いくらかかりますか。

裁判所が案内している申立費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。ただし不在者の財産の内容から管理の費用(管理人の報酬を含む)に不足が出る可能性がある場合は、申立人が相当額の予納金を納めるよう求められることがあります。金額は事案ごとに裁判所が決めるため、申立先の家庭裁判所や依頼する専門家へご確認ください。

売却の許可を申し立てるとき、買主は決まっていなくてもよいですか。

裁判所が公表している申立書の記入例は、売却先を特定し、売買契約書の案を別紙として添える形になっています。つまり許可を求める時点で、誰に、どの条件で売るのかが固まっていることが前提です。買主のあてが無いまま手続きだけを先に進めると、この段階で止まることがあります。

売れたお金は、ほかの相続人で分けられますか。

不在者の取り分にあたるお金は、不在者の財産として管理人が管理を続けます。裁判所は、管理人の職務は不在者が現れたとき、失踪宣告がされたとき、死亡が確認されたとき、財産がなくなったとき等まで続くと説明しており、売却が済めば終わりというものではありません。

古い空き家でも、不在者財産管理人を通して買い取ってもらえますか。

当社では、建物が古いことや片付いていないことだけを理由に、取り扱いの対象外とはしていません。現況のままご相談いただけます。ただし売却には家庭裁判所の許可が要り、条件によっては成立しないこともあるため、個別の判断になります。手続きそのものは司法書士・弁護士へご確認ください。

この記事の監修者

小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)

不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。

ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号

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ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

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