買主から「ハザードマップで色が付いている場所ですよね」と言われて、話が止まってしまった。浸水想定区域の家が売れないとき、買主は区域の説明を受けたうえで、実際に浸水したことがあるか、建物がどんな状態かも見て判断します。
想定だけの家と浸水歴のある家では、聞かれることが違います。
浸水した直後の手続きは浸水したときのり災証明で書きました。ここでは「売る」段階に絞ります。
売れるのか:売ること自体は禁じられていません。買い手が付くかには、区域の説明に加えて、実際に浸水した実績と建物の状態も関わります。
最初にやること:市町村のハザードマップで位置を調べ、過去に浸水したことがあれば、その記録を一か所に集める。
現況のまま手放す道:修繕や乾燥・消毒を先にせず、現況のまま引き受けられるかを相談する道があります。
水防法の指定だけで、建築が禁じられるわけではない
第十四条 国土交通大臣は、次に掲げる河川について、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、国土交通省令で定めるところにより、想定最大規模降雨(想定し得る最大規模の降雨であつて国土交通大臣が定める基準に該当するものをいう。以下同じ。)により当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定するものとする。
目的は「避難を確保し、被害の軽減を図る」ことで、この条文は建築を禁じる内容ではありません。条文が想定しているのも、想定し得る最大規模の降雨で氾濫した場合です。ハザードマップの色が付いていても、実際に浸水する頻度とは別の話です。
浸水想定区域は、水防法の上では原因ごとに3種類あります。
川の氾濫を想定した洪水浸水想定区域(14条)、排水施設が雨水を排除できなくなる場合を想定した雨水出水浸水想定区域(14条の2、いわゆる内水)、高潮による氾濫を想定した高潮浸水想定区域(14条の3)です。
ハザードマップでは、自分の土地がどの原因の想定に入っているかを見てください。
なお、市街化調整区域の家は別に見る必要があります。
調整区域の11号・12号区域には、令和4年4月1日施行の改正で、一定の浸水想定区域などの災害ハザードエリアが原則として含まれなくなりました(都市計画法施行令29条の9(11号)・29条の10(12号)。大阪府の概要資料、江南市の案内)。
調整区域の家を売る場合の見方は、当社の都市計画法34条11号の記事で触れています。
川から離れた土地でも、雨水出水や高潮の想定に入っていることがあります。売るときに「川が近くにないから大丈夫」と考えず、地図の凡例で原因を見ておくと、買主への説明が正確になります。
市町村長は、浸水想定区域を含む市町村で、避難に関する事項などを住民に周知するため、印刷物の配布などの措置を講じることが水防法15条3項で定められています。これが一般にいう水害ハザードマップです。
一方で、似た名前の区域に、建築の制限がかかるものが2つあります。
建築基準法39条(e-Gov法令検索)の災害危険区域は、地方公共団体が条例で「津波、高潮、出水等による危険の著しい区域」として指定できます。区域内の住居用の建築物の建築を禁じるなどの制限は、条例で定められます。
もう1つは、特定都市河川浸水被害対策法56条(e-Gov法令検索)の浸水被害防止区域です。都道府県知事が指定でき、区域内で住宅を建てるとき(66条)や、自分が住む家を除く住宅などのために一定の開発をするとき(57条)は、あらかじめ許可を受けます。
自分の土地が浸水想定区域だけなのか、こうした区域にも入っているのかで、話はまったく変わります。市区町村の建築の担当窓口に問い合わせてください。町村で担当の課が見当たらないときは、役場の総合窓口で聞き先を尋ね、役場で分からなければ都道府県の建築担当に当たります。

売るときに、買主に伝わること
不動産会社が関わる売買では、重要事項説明で水害ハザードマップ上の位置が説明されます。
宅地建物取引業法施行規則16条の4の3(e-Gov法令検索)は、水防法施行規則11条1号の規定により市町村長が提供する図面に宅地・建物の位置が表示されているときは、その所在地を説明するよう定めています。
この規定を加える改正は、国土交通省の発表のとおり2020年8月28日に施行されました。
つまり、ハザードマップ上の位置は、不動産会社が関わる売買では買主も知ることになる情報です。売主が隠すかどうかの問題ではなくなっています。
もう一つ、法令の説明項目とは別に、売主が知っている事実があります。過去に浸水したことです。民法572条(e-Gov法令検索)は、売主が知りながら告げなかった事実については、契約不適合責任を負わない特約をしていても責任を免れないとしています。
浸水の履歴は、知っているなら伝えるのが前提です。現況渡しの責任の範囲は現況渡しとはで整理しています。
書くのは、分かっている事実だけです。日付を添え、「たぶん床下まで」「そのあと直したはず」のような推測は記録と分けて「不明」とします。
民法572条が問題にするのは「知りながら告げなかった」事実なので、知らないことは知らないと伝えるほうが、あとの争いを避けやすくなります。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
「想定だけの家」と「浸水した家」は、別の問題
買主に問われそうなことは、状況によって次のように分かれます。
| 状況 | 買主に聞かれそうなこと | 売主ができること |
|---|---|---|
| 想定区域内だが、浸水した実績はない | 将来のリスク、火災保険の水災補償、住宅ローン | ハザードマップの内容と、周辺の過去の状況をまとめて示す |
| 過去に浸水した | 浸水の深さ、修繕の履歴、カビや設備の状態 | 浸水の記録を書き出して渡す |
| 災害危険区域・浸水被害防止区域内 | 建て替えの可否、条例や許可の制限 | 制限の内容を建築の担当窓口に問い合わせる |
想定だけの家なら、まず地図の色を読みます。色が示すのは、氾濫したときに想定される浸水の深さです。東京都の洪水浸水想定区域図Q&Aは目安を、0.5mで1階の床の高さ程度(床下と床上の境目)、3.0mで2階の床下程度、5.0mで2階が水没する程度としています。
色と区分は地図ごとに違うので、凡例の数字で読んでください。前提の雨も見ます。同じQ&Aによれば、想定最大規模の図は発生頻度の極めて小さい雨を、計画規模の図はそれより発生頻度の高い雨を前提にしています。
同じ地図で、家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないかも見ます。国土交通省の説明では、家屋の倒壊・流失をもたらすような激しい氾濫流や河岸侵食が想定される区域で、浸水の深さとは別の情報です。
地図は、国土交通省と国土地理院のハザードマップポータルサイトで開けます。「重ねるハザードマップ」は洪水などのリスクを重ねて表示でき、「わがまちハザードマップ」は市町村が公開した図面へつながります。
配信データの説明のとおり都道府県管理の河川はデータが一部の都道府県に限られるので、市町村の図面も開いてください。
過去に実際に浸水したかどうかは、想定の地図だけでは分かりません。実績は別の図で公開している自治体があり、さいたま市の浸水履歴マップ、半田市の浸水実績図、東京都の浸水実績図のように名前も範囲も違います。
さいたま市は市に報告があった情報をもとにしており全被害を網羅しないと、東京都はおおよその位置を示したものと断っています。図に色がないことは、浸水がなかった証明にはなりません。
図が見当たらなければ、市町村の防災担当課に「この住所の浸水の実績が分かる資料はありますか」と聞き、り災証明の控えや近所の話と合わせて書き出します。
火災保険の水災補償や住宅ローンの扱いは、保険会社や金融機関によって異なります。売主が用意しておくと話が早いのは、加入中の火災保険の証券(水災補償の有無が分かるもの)と、ハザードマップの該当ページの写しです。
補償の中身を売主が断定する必要はなく、買主が自分の保険会社に聞けるよう、資料を渡せる状態にしておきます。
浸水した家は修繕の状態と費用を問われることが考えられるので、次の記録を整理しておくと答えやすくなります。
- 浸水した日付と、水が来た高さ(床上・床下の別)
- 浸水直後の写真(片付ける前の写真が特に重要)
- り災証明書の有無と、被害の区分
- 修繕・乾燥・消毒をした内容と業者
- 給湯器や配電盤など、設備の交換の有無
記録が揃っていれば、買主は「どこまで直っていて、何が残っているか」を判断しやすくなります。記録がなければ、判断の材料はそれだけ減ります。片付ける前の記録の残し方は、り災証明の記事で説明しています。
「いつ・どこまで」に答えられるか
浸水した家を売るときは、いつ、どこまで水が来て、何を直したのかを買主から問われることが考えられます。床上か床下かが分からなければ、修繕費の見込みは立てにくくなります。保険の水災補償を使ったかどうかも、修繕費を何で賄ったかの手がかりになります。
どれも、これから工事をしなくても集められます。手元にある記録だけで構いませんので、そのまま教えてください。
浸水に限った数字は持っていませんが、当社の相談全体では、解体費が出せずに動けない方や「手放したい」と話される方が多くいます。水に浸かった家で修繕費の見通しが立たないときも、同じところで止まりかねません。
だから、工事の話より前に記録だけ集めておきます。
手放す道は、建物の修繕状況と事情で変わる
手放す道は大きく3つです。状況を説明して仲介で売る道は、想定だけの家や、修繕が済んでいる家に向きます。ハザードマップと浸水の記録を整理しておきます。
修繕してから売る道は、乾燥・消毒・設備の交換をしたあとの売値が見えている場合です。現況のまま相談する道は、手が回らない、遠方で行けないといった場合で、所在地と分かる範囲の状況を伝えるところから始まります。
水害の被害を受けた家は、直してから売る道のほかに、現況のまま手放す道があります。遠方の実家が被災したときの進め方は遠方の実家が被災したときの進め方にまとめています。

動く前に、手元でやる順番
- 市町村のハザードマップで、区域、想定浸水深、家屋倒壊等氾濫想定区域を見る
- 建築の担当窓口で、災害危険区域や浸水被害防止区域の指定がないかを尋ねる
- 過去に浸水したことがあるかを、防災担当課と家族や近所に聞く
- 浸水の記録を探して一か所に集める
- 修繕費と売値の見通しが立たなければ、現況のまま相談できる先に所在地を伝える
最初の数項目は、窓口への問い合わせと手元の書類でできます。区域に入っていることだけで売却を諦める必要はありません。記録があれば、買主の質問に答えやすくなり、売り方も選びやすくなります。
浸水した家の相談
当社は訳あり不動産を現況のまま扱う会社です。浸水の実績、建物の状態、権利関係を見て、引き受けられるかを物件ごとに判断します。災害リスクのある家を含めた全体の流れは、訳あり不動産の相談ページにまとめています。
調査は当社で行い、売主様に片付けや修繕、測量を先にしていただく必要はありません。遠方にお住まいで現地に行けない場合も、契約から決済まで現地にお越しいただかずに進められます。
他で断られた物件も、引き受けられる場合があります。ただし、どの物件でも引き受けられるわけではありません。お引き受けできるかは物件ごとの個別の判断で、条件によっては成立しないこともあります。ご相談への返事は、翌営業日までにお送りします。
法令の細かい適用は、弁護士や不動産会社へご確認ください。
よくある質問
水に浸かるかもしれない場所の家なんて、誰も買わないですよね。
売ること自体は禁じられていません。水防法の洪水浸水想定区域は、避難や被害軽減のための情報として指定されるもので、この指定だけで建築が禁じられる区域ではありません。買主は水害ハザードマップ上の位置の説明を受けたうえで、浸水の実績や建物の状態も見て判断します。
ハザードマップのことは、黙っていれば分からないのでは。
不動産会社が関わる取引では、買主も知ることになります。
宅地建物取引業法施行規則の改正が2020年8月28日に施行され、水防法施行規則に基づき市町村が提供する水害ハザードマップに物件の位置が表示されているときは、その所在地を重要事項として説明することになりました。
昔、水が入ったことがあります。買主に伝える必要がありますか。
はい。いつ、どこまで水が来て、何を直したのかを紙1枚に書き出し、契約前に渡してください。分からないことは「不明」と書けば足ります。民法572条では、知りながら告げなかった事実は、責任を負わない特約があっても責任が残ります。
浸水した家や浸水想定区域の家を、現況のまま相談できますか。
浸水の実績、建物の状態、権利関係を見て、引き受けられるかを物件ごとに判断します。調査は当社で行い、売主様に片付けや修繕、測量を先にしていただく必要はありません。まず所在地と、分かる範囲の浸水の状況をお知らせください。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
地域ごとの事情は、さいたま市の空き家の手放し方のページにまとめています。
「売れない」と言われた不動産を、どうするか
どこも引き受けない「訳あり不動産」を現況のまま買い取る、全国対応の買取再販会社です。
相続した空き家、ごみ屋敷、再建築不可、市街化調整区域、共有持分、未登記——他社で断られた物件こそご相談ください。全国対応です。
片付け・解体・測量を、先に済ませていただく必要はありません。建物が建ったまま、家財が残ったままの現況で査定します。役所調査も現地確認も当社が行いますので、遠方にお住まいでも、現地に行かずに手続きを終えられます。
資料が手元になくても、物件の所在地さえ分かればお答えできます。
どこで断られたかを伺うことはしません。断られた理由の方が、判断に必要です。
お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp
ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

