相続放棄をすれば不動産の管理から解放される、と考える前に確かめておくことがあります。相続放棄をしても、その財産を現に占有していた場合は保存義務が残ります。2023年施行の改正で範囲が限定されましたが、ゼロになったわけではありません。この記事では、何がどこまで残るのかを条文で整理します。
放棄すると、はじめから相続人でなかったことになる
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
ただし「不動産だけ放棄する」ことはできません。預貯金も自宅も、まとめて手放すことになります。
期限もあります。
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
調査が終わらないときは、期限が来る前に伸長を申し立ててください。

残るのは「現に占有している」場合
ここが2023年に変わった部分です。
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は(中略)相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
「現に占有している」に限定されました。
遠方に住んでいて、一度も行ったことがない家については、この義務は生じません。
改正前は放棄者に広く管理義務があるとされ、そこが不安の種でした。
一方で、その家に住んでいた、鍵を持って出入りしていたという場合は、義務が残ります。引き渡すまで続くのが要点です。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
引き渡す相手がいないと、終わらない
義務が終わるのは、他の相続人か相続財産清算人に引き渡したときです。
- 他の相続人が全員放棄していれば、引き渡す相手がいません
- その場合、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てることになります
- 申立てには費用がかかります(予納金を求められることがあります)
「放棄すれば費用がかからない」とは限りません。清算人の選任まで進むと、まとまった負担が生じることがあります。
放棄の前に、売れるかを確かめる
これがいちばん伝えたいことです。
| 放棄した場合 | 売って手放した場合 | |
|---|---|---|
| 他の財産 | 一緒に失う | 残る |
| 費用 | 清算人の予納金がかかることがある | 通常はかからない |
| 期限 | 原則3か月 | 期限に追われない |
| 手元に入るもの | 無し | 売却代金 |
「値が付かない」と思っている土地でも、現況のまま引き受けられることがあります。
売れるなら、放棄する理由がなくなります。
金額を確かめずに3か月の期限で決めてしまうのは、もったいない判断です。
判断の順番
- 相続財産を洗い出す(不動産、預貯金、借金。プラスとマイナスを並べる)
- 不動産を現況のまま売った場合の金額を確かめる
- 借金が上回るなら → 放棄を検討する
- 上回らないなら → 売って手放すほうが手元に残る
- 調査が間に合わないなら、3か月の期限の伸長を申し立てる
2を飛ばさないでください。ここを確かめずに放棄すると、他の財産まで失うことになります。
当社は値が付きにくい不動産も現況のまま扱っています。相続放棄を検討されている段階でのご相談も受けています。まず所在地をお知らせいただければ、扱えるかどうかをお答えします。期限がある話なので、早めにご連絡ください。
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よくある質問
相続放棄をすれば、空き家の管理から完全に解放されますか。
解放されない場合があります。民法940条1項は、放棄の時にその財産を現に占有しているときは、他の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないと定めています。逆に、占有していなければこの義務は生じません。
「現に占有している」とは、どういう状態ですか。
実際にその財産を支配している状態を指します。2023年施行の改正でこの限定が加わりました。改正前は放棄者に広く管理義務があるとされていたため、遠方に住んでいて一度も行ったことがない家についてまで責任を負うのか、という不安がありました。現在は占有していない場合まで及ばない整理になっています。
不動産だけを放棄することはできますか。
できません。相続放棄は相続財産の全部について行うもので、預貯金や自宅など他の財産も一緒に手放すことになります。民法939条により、はじめから相続人でなかったものとみなされます。不動産の負担だけを理由に決めると、他の財産まで失います。
期限はいつまでですか。
民法915条1項により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内が原則です。ただし利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所で期間を伸ばせる場合があります。財産の調査が終わらない場合は、期限が来る前に伸長を申し立ててください。
放棄する前に確かめることはありますか。
不動産の価値と、売って手放せる見込みです。値が付かないと思っていた土地でも、現況のまま引き受けられることがあります。売れるなら放棄する理由がなくなり、他の財産も守れます。金額を確かめずに決めないでください。
この記事の監修者
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