賃借人がいる貸家は売れる?立ち退きの要否と売り方

雨戸が閉ざされたままの木造アパートの外壁

入居者がいる貸家は、そのまま売ることができます。賃借人は出ていく必要がなく、貸主の立場(賃貸人たる地位)が買主に移るだけです。

この記事では、賃借人付きで売るときに引き継がれるもの、売却を理由に立ち退きを求められるかの考え方、入居者に出てもらってから売る場合との違いを整理します。

「親が亡くなって空き家になったと思っていたら、実は人に貸していた」「戸建ての離れや一部屋に、昔からの借主が住み続けている」という形で、この問題に気づくこともあります。

相続した実家でも、誰かが借りて住んでいれば、売るときは賃借人がいる建物として扱います。空き家として売り出す前に、まず賃貸借が続いているかどうかを確かめてください。

そのまま売れるのか:賃借人が住んでいれば、新しい所有者にも賃貸借の効力が及びます(借地借家法31条)。売る前提で退去してもらう必要はありません。
引き継がれるもの:賃貸人たる地位と、預かっている敷金の返還債務です(民法605条の2)。
立ち退き:売却は、それだけで退去を求める理由にはなりません。退去を求めるには借地借家法28条の正当事由が要ります。

目次

賃借人がいる貸家を売ると、何が買主に移るか

まず、貸家が売られると賃貸借契約がどうなるのかを確認します。結論は、契約は終わらず、買主に引き継がれるです。

民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた場合に不動産が譲渡されたとき、賃貸人たる地位は譲受人に移転すると定めています。建物の賃貸借では、登記がなくても、建物の引渡しがあれば対抗要件になります(借地借家法31条)。

つまり、賃借人が住んでいる貸家は、通常この条件を満たしている、ということです。

条文で確かめた範囲を、表にまとめます。

条文内容売主にとっての意味
民法605条の2第1項対抗要件を備えた賃貸借では、譲渡で賃貸人たる地位が譲受人に移る貸主の立場を、買主に渡す形になる
民法605条の2第3項この地位の移転を賃借人に主張するには、所有権移転の登記が必要買主は登記を済ませてから、賃借人に主張する
民法605条の2第4項敷金の返還債務などは、譲受人が承継する預かっている敷金の扱いを、売買の精算で決める
民法605条の3譲渡人と譲受人の合意で、賃借人の承諾なく地位を移せる賃借人の承諾書は、条文上は要らない
借地借家法31条建物の賃貸借は、引渡しがあれば後から取得した人に対抗できる住んでいる賃借人は、買主にも契約を主張できる

出典:民法、借地借家法(いずれもe-Gov法令検索)

なお民法605条の2第2項には、譲渡人と譲受人が合意すれば、賃貸人たる地位を譲渡人に残したままにする方法もあります。この場合、買主は売主に建物を賃貸する形になります。ただし使い方が複雑になるため、この記事では取り上げません。

必要なら司法書士や弁護士にご確認ください。

賃借人付きで売るとき、移るもの・残るもの
貸主の立場は買主へ。賃借人の住む権利は、そのまま続く

売ることを理由に、立ち退きを求められるのか

ここが、いちばん誤解の多い点です。所有者が代わったから出ていってほしい、ということは、条文の上でできません。

賃借人に出てもらうには、賃貸借を終わらせる必要があります。借地借家法は、建物の賃貸借を終わらせる方法を2通りに分けています。

契約の種類終わらせる方法条文
期間の定めがある期間満了の1年前から6か月前までに、更新しない旨を通知する。しなければ、同じ条件で更新されたものとみなされる借地借家法26条1項
期間の定めがない貸主が解約を申し入れ、申入れから6か月が経つと終了する借地借家法27条1項
どちらも共通貸主の通知・申入れには、正当の事由が必要借地借家法28条

28条が挙げている判断の材料は、貸主と借主が建物を使う必要、これまでの経過、建物の利用状況と現況、そして立退料などの財産上の給付の申出です。条文は、「売却したい」という事情を、単独の理由として挙げてはいません。

実際にどこまでの事情が正当事由と認められるかは、事案ごとの判断になります。ここで断定的に書けるのは、「売りたいから出てほしいと伝えるだけで、賃借人が退去する義務を負うわけではない」というところまでです。

立退料を提示して話し合う場合も含め、個別の対応は弁護士にご相談ください。

賃借人に黙って鍵を交換する、荷物を出す、といった行為は避けてください。契約が終わっていない段階でこうした行為をすると、争いの原因になります。

例外として、定期建物賃貸借(定期借家)があります。契約で更新がないと定め、書面で契約し、あらかじめ書面を渡して説明していれば、期間が満了すれば契約は終了します(借地借家法38条1項)。

契約の前に、更新がなく期間満了で終わることを書いた書面を賃借人に渡して説明することは38条3項で定められており、説明をしなかったときは、更新がないとする定めは無効になります(同条5項)。

期間が1年以上のときは、期間満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了で終わることを賃借人に通知しなければ、終了を賃借人に対抗できません(同条6項)。この期間を過ぎてから通知した場合は、通知の日から6か月が経てば対抗できます。

定期借家でも、通知を忘れていれば期間満了日に出てもらえるとは限らない、ということです。契約書を見て、普通の賃貸借か定期借家か、事前の書面と通知があったかを最初に確認してください。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。

入居者付きで売るか、出てもらってから売るか

では、どちらで売るのが良いのでしょうか。それぞれの特徴を、表で比べます。

賃借人付きのまま売る退去してもらってから売る
買主の用途賃貸を続ける前提の買主が中心。自分で住む目的には引き渡せない住む目的でも、更地にする目的でも選べる
売主がやること賃貸借契約書・賃料・敷金などの資料を渡し、地位の移転を進める契約の終了を成立させる(更新拒絶・解約・合意解約など)
時間契約の終了を待たない通知から6か月などの期間がかかる。話し合いが長引くこともある
費用立退料は要らない話し合いの内容によっては、立退料や引越費用が出ることがある
気をつける点契約書の内容が、買主の判断材料になる退去の合意は書面に残す

どちらが良いかは、物件の傷み具合と賃料の水準、賃借人が住み続けたいかで変わります。一般の買主向けの仲介で売るか、買取会社に売るかの違いは、買取と仲介の違いで整理しています。

賃借人付きだと、売値はどう決まるか

賃借人付きの貸家を買う人の多くは、そこに住むためではなく、賃料を受け取るために買います。そのため買主は、周辺で自分が住む前提の家がいくらで売れているかよりも、年間の賃料収入に対して価格がどのくらいか(利回り)で値段を考えます。

自分で住む前提の相場より、低い価格になりやすいのはこのためです。

影響が大きくなりやすいのは、次のような場合です。

  • 賃料が相場より低い:買主が受け取れる収入が少ないため、利回りから逆算した価格も下がります
  • 契約が古い:何十年も前の条件のまま続いていると、賃料の見直しや退去の見通しが立てにくくなります
  • 建物の傷みが大きい:買主が修繕費を見込む分、価格から差し引いて考えます

賃料の見直しは、税金の負担や経済事情の変化、近隣の同種の建物との比較で賃料が不相当になったとき、賃貸人・賃借人のどちらからでも請求できます(借地借家法32条1項)。

ただし効力は請求した時から先に向かってのもので、話し合いがまとまらないこともあります。売る直前に賃料を上げて価格を上げる、という進め方は簡単ではありません。

具体的な価格は、賃料・契約の内容・建物の状態で大きく変わるため、ここでは数字を示しません。

売却で利益が出る場合の税金は、相続した不動産を売ったときの税金をご覧ください。賃借人がいても、譲渡所得の考え方自体は変わりません。

売る前に、そろえておく書類と確認

賃借人付きで売ると、買主が最初に見るのは契約書と、現在の賃貸の状況です。売主が準備しておくと話が早くなります。

  • 賃貸借契約書(期間、更新の定め、賃料、特約)
  • 預かっている敷金の額と、これまでの精算の記録
  • 賃料の入金状況が分かる通帳や台帳
  • 修繕の依頼や、過去に直した箇所のメモ
  • 建物の登記事項証明書(所有者、持分、抵当権の有無)

特に確認してほしいのが、賃貸人が誰になっているかです。相続した貸家で、名義が亡くなった方のままでは、売買による所有権移転の登記ができません。相続登記を先に済ませる必要があります。登記の義務については相続登記の義務化で整理しています。

親の代からの貸家で、売主がまず確かめること

相続した貸家や、長く貸したままの家では、契約書どおりに整っていないことがよくあります。条文の一般論より先に、手元の状況を次の表で確かめてください。

状況まず確かめること押さえておく点
親の代からの口約束で、契約書がない誰に、いつから、月いくらで貸しているか。賃料の入金記録が通帳に残っているか賃貸借は書面がなくても約束で成立します(民法601条)。契約書がないことは、賃貸借がない理由にはなりません
賃料を受け取っていない本当に無償か。固定資産税相当額などを受け取っていないか無償で貸している場合は、賃貸借ではなく使用貸借(民法593条)にあたることがあり、扱いが変わります
賃料が長年据え置き最後に賃料を決めた時期と、周辺の同じような貸家の賃料買主は今の賃料で価格を考えます。見直しの請求はできますが、先に向かってのみ効力があります(借地借家法32条1項)
滞納がある滞納の月数と金額、督促した記録、預かっている敷金の額売買の精算で滞納分をどう扱うかを、買主と決めます。賃借人との話し合いは弁護士にご相談ください
建物が古く、修繕を求められているいつ、どこの修繕を求められたか。直したもの・直していないもの賃貸人は、使用に必要な修繕をする義務を負います(民法606条1項)。依頼の内容と対応を記録にして、買主に渡せるようにします

どの場合も、契約の性質によって扱いが変わります。判断に迷うときは、契約書のあるなしを含め、司法書士か弁護士にご確認ください。

建物の中に入居者の荷物があるとき、勝手に片付けることはできません。退去後の残置物の扱いは、残置物の処分費用で触れています。

売る前に確かめる順番
契約書と名義を見てから、買主に渡す資料を整える

入居者がいる貸家を、そのまま手放すという選択

「入居者がいるから、売りにくいはず」と思われがちです。ただ、ここまで見てきたとおり、賃借人がいること自体が売却の障害になるわけではありません。出てもらう手間と時間をかけずに、そのまま次の貸主へ渡すという道があります。

当社の訳あり物件の買取相談では、入居者がいる貸家のご相談も受け付けています。賃貸借契約書、賃料、敷金、建物の状態を拝見し、引き受けられるかどうかを物件ごとに個別に判断します。

賃借人に先に退去していただく必要があるかどうかも、契約の内容によって違います。拝見した結果、当社が買い取る場合と、お引き受けする場合があり、どちらにも当たらずお断りする場合もあります。

なお、借地の上の建物を貸している、土地の借主が建物を持っている、といった借地権が関わる場合は、話が別になります。借地権は借地権の買取で整理しています。

相談への返事は翌営業日までにお返しします。まずは、契約書の写しと、今の賃料・敷金が分かる資料があれば、そのままお知らせください。

出典(本文で引用した条文):民法/借地借家法

よくある質問

入居者がいる貸家は、そのまま売れますか。

売れます。賃借人が建物の引渡しを受けて住んでいれば、その後に建物を取得した人にも賃貸借の効力を主張できます(借地借家法31条)。買主は、賃借人が住み続ける前提で建物を取得することになります。ただし、自分で住むための買主には引き渡せないため、売り先は絞られます。

貸家を売ると、賃借人は出ていかなければなりませんか。

売却だけを理由に、賃借人が出ていかなければならなくなるわけではありません。賃貸人たる地位は買主に移るため(民法605条の2)、契約は引き継がれます。出てもらうには、更新拒絶の通知や解約の申入れが必要で、借地借家法28条の正当事由がなければできません。

賃借人に、売ることの承諾を取る必要はありますか。

賃貸人たる地位を移すだけなら、賃借人の承諾は要りません。不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、譲渡人と譲受人の合意で地位を移せるとされています(民法605条の3)。ただし、賃借人に伝えずに進めるとトラブルになりやすいため、早めに知らせたほうが安全です。

預かっている敷金は、売ったあとどうなりますか。

賃貸人たる地位が買主に移ったとき、敷金の返還に係る債務は買主が承継します(民法605条の2第4項)。売買代金の精算で敷金相当額をどう扱うかは、売買契約で決めます。金額の扱いは、不動産会社や司法書士にご確認ください。

この記事の監修者

小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)

不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。

ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号

このような物件のご相談は、訳あり不動産の買取相談のページへ。

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資料が手元になくても、物件の所在地さえ分かればお答えできます。

どこで断られたかを伺うことはしません。断られた理由の方が、判断に必要です。

お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp

ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

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