相続した実家を売ろうとして、はじめてそれが未登記建物(未登記家屋ともいいます)だと知らされる。固定資産税は毎年払ってきたのに、法務局に記録がない。そういう家は珍しくありません。
そして、そこから先で止まります。仲介会社に断られ、自治体の空き家バンクにも登録できないと言われ、どこに持っていけばいいのか分からなくなる。
答えから書くと、登記がなくても売買契約は結べます。止まるのは買主が登記できない点で、それを引き受ける買主なら現況のまま売れます。

なぜ未登記の建物が生まれるのか、登記するといくらかかるのか、そして登記をしないまま手放す道があるのかを、実務の側から説明します。
固定資産税が来ていても、登記があるとは限らない
まずここを整理します。固定資産税と登記は、別の制度です。
市町村は、現地調査や建築確認の情報、航空写真などから建物の存在を把握しています。登記がなくても、家屋補充課税台帳に登録して課税することができます。
納税通知書が届いていることは、登記があることの証明にはなりません。
「税金を払っているのだから登記はされているはず」という思い込みが、相続の場面ではじめて崩れます。
未登記の建物が生まれる経緯は、だいたい4つです。
いちばん多いのは、新築のときに登記しなかった家です。現金で建てて、住宅ローンを使わなかった。母屋は登記済みでも、後から足した部屋や車庫だけ登記していない家もあります。
建て替えたのに登記を直さず、古い建物の登記が残ったまま実物は別の建物、という形もあります。何代か前から未登記のまま相続で引き継がれ、事情を知る人がいない家もあります。
住宅ローンを使う場合、金融機関は抵当権を設定するために登記を求めます。裏を返すと、ローンを使わずに建てた家は、登記されないまま残りやすいということです。
増築部分だけが未登記という家は、たいてい本人も気づいていません。母屋の登記事項証明書には載っていないため、売却の直前に判明することが多い箇所です。
自分の家が未登記かどうか、どう調べるか
「未登記家屋」と「未登記建物」は同じものを指します。固定資産税の世界では家屋、登記の世界では建物と呼ぶだけの違いです。
調べるときは、法務局で建物の登記事項証明書を請求します。所在と家屋番号が分からなければ、窓口で土地の番地から探し方を聞いてください。該当する建物が出てこなければ、未登記の可能性が高くなります。
母屋は登記されていて、増築した部屋だけ未登記という家もあります。この場合は、登記事項証明書に載っている床面積と、毎年届く固定資産税の課税明細にある家屋の床面積を見比べてみてください。
ずれていたら、増築部分が登記に反映されていない目安になります。確かめるには土地家屋調査士に現地を見てもらいます。増築だけが未登記の家の売り方は、増築部分が未登記の家は売れる?にまとめています。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
相続した時点で、1か月以内の登記義務が生じている
ここは知られていません。
表題登記のない建物の所有権を取得した人は、取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならないと定められています(不動産登記法47条1項)。正当な理由なくこれを怠った場合、10万円以下の過料の対象になります(同法164条)。
「新築したとき」だけの話ではありません。相続で引き継いだ時点でも、この義務は生じます。
2024年4月に義務化された相続登記は、すでに登記がある不動産の名義を変える手続きで、これとは別の制度です。そもそも登記が存在しない建物は、その手前の表題登記から始めることになります。
実際に過料が科された例は多くないとされますが、義務がある状態を放置していることに変わりはありません。相続人が複数いる場合、時間が経つほど関係者が増え、手続きは重くなっていきます。
登記したあとも、義務は続く(2026年4月から)
登記を済ませたあとにも、守る期限があります。2026年(令和8年)4月1日から、所有権の登記名義人の住所・氏名が変わったときの変更登記が義務化されました(法務省)。
変更があったときから2年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象になります。
施行日より前に住所などが変わっていた場合も対象で、令和10年(2028年)3月31日までに登記することとされています。
実家を相続して登記だけ済ませ、自分は別の場所に住んでいる——という方は、住所の届出が漏れやすい形になります。
つまり、登記して持ち続けるという選択には、表題登記の費用だけでなく、その後も名義を管理し続ける手間が伴います。手放すか持ち続けるかを比べるときは、ここも含めて考えたほうが実態に合います。
どこで断られるか
未登記のままだと、次の場面で止まります。
仲介会社
買主が所有権の移転登記をできないため、取引としての形が整いません。買主に住宅ローンを使わせることもできません。扱えないというより、買主に引き渡せる状態になっていないという判断です。
空き家バンク
多くの自治体が、登録申込の際に所有権を示す書類として登記事項証明書の提出を求めています。登記がなければこの書類は出せません。
「登記を整理してから来てください」と案内され、登記の費用が出せない方はそこで止まります。
要件は自治体ごとに異なるため一律ではありませんが、所有権を書類で示せることを前提にしている点は共通しています。
金融機関
抵当権を設定する登記ができないため、買主が住宅ローンを組めません。結果として、買える相手が現金で買える人に限られます。売れにくさの実質的な理由は、ここにあることが多いです。
登記がないと、権利を第三者に主張できない
もう一段深いところに、法律上の理由があります。不動産に関する権利の移動は、登記をしなければ第三者に対抗することができないと定められています(民法177条)。「対抗できない」とは、当事者以外の人に対して「これは自分のものだ」と主張できない、という意味です。
つまり未登記物件の売買では、買主は代金を払っても、その建物が自分のものだと外に向かって示せる状態になりません。現金で買える相手であっても慎重になるのは、このためです。
売買契約そのものが無効になるわけではありません。売主と買主の間では、契約は成立しています。問題になるのは、その外側に対して権利を示せるかどうかです。
登記するといくらかかるか
表題登記は、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
| 目安 | |
|---|---|
| 新築の木造2階建て住宅の表題登記(調査士の報酬) | 中央値 82,500円(税抜) |
| 母屋の登記に増築部分を足す表題変更登記(同) | 中央値 87,665円(税抜) |
| 表題登記の登録免許税 | かからない |
| 古い建物・建築時の書類なし | 調べる手間が増え、上の想定より高くなりやすい |
報酬の数字は、日本土地家屋調査士会連合会が令和4年度(2022年度)に会員へ行ったアンケート(回答3,487通)の全国集計です。業務報酬統計資料として公開されています。
設問の想定は、表題登記が新築の木造2階建て居宅、表題変更登記が木造2階建て居宅の増築で、どちらも建築確認済証と工事完了引渡証明書を預かっている場合です。交通費などの実費は別にかかります。
登録免許税は、登録免許税法の別表第一に掲げられた登記に対して課される税です(同法2条)。建物の表題登記はそこに掲げられていないため、この登記自体に税はかかりません。税が発生するのは、次に述べる所有権保存登記のほうです。
注意したいのは、古い建物ほど高くなりやすいことです。建築時の図面や確認済証が残っていない、増築を繰り返していて現況と資料が合わない、といった場合は調査に手間がかかります。相続で引き継いだ家は、まさにこの条件に当てはまりやすいものです。
さらに、表題登記のあとに所有権保存登記(誰のものかを登記記録に載せる手続き)が必要になります。ここでかかる登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%(1,000分の4)です(国税庁タックスアンサーNo.7191)。
評価額300万円の建物なら1万2,000円ほど、という見当になります。司法書士に依頼する場合の報酬は、これとは別です。
未登記の建物は、そもそも登記に使える評価額が出てこないことがあります。その場合は、法務局が定める基準表(新築建物課税標準価格認定基準表など)から価格を算定して課税標準とする扱いになります。建物の種類・構造・築年で変わるため、金額は管轄の法務局に聞いてください。
「登記さえすれば売れる」と言われても、費用を調べたところで手が止まる。当社に届く相談で多いのは、解体費用が出せずに止まっている方です。登記の費用も、売る前に手元から出すという点で同じ構造です。
登記をしないまま手放す方法
冒頭に書いたとおり、買主側が登記の手続きを引き受ける形であれば、未登記のまま売買することは可能です。
売買契約そのものは、登記がなくても成立します。問題は「買主が登記できない」ことなので、買主が取得後に自分の負担で表題登記と所有権保存登記を進めるのであれば、売主の持ち出しで登記をする必要はありません。
これができるのは、現金で買い、登記の実務に慣れている買主に限られます。一般の個人の買主に同じことを求めるのは現実的ではないため、未登記物件の売買は仲介では話が進みにくいのです。
当社は、登記のない建物を現況のまま買い取ることがあります。家屋そのものが未登記、あるいは増築部分だけが未登記という物件は、訳あり不動産では日常的に出てきます。特殊な事例ではありません。
ただし、すべての物件を買い取れるわけではありません。建物の状態、権利関係の複雑さ、再販の見込みによって判断が変わります。「未登記だから買えない」ではなく、未登記であることを前提に見る、という違いだとお考えください。
売ったあと、固定資産税の名義は法務局では変わらない
見落とされやすいのがここです。未登記の建物は登記記録がないため、売買しても法務局側では何も動きません。市町村の税務課に、未登記家屋の所有権移転届(名称は自治体によって異なります)を出す必要があります。
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課税されるため(地方税法359条)、届出をしないままだと、翌年度の納税通知書が売主に届き続けることになります。契約書や遺産分割協議書の写しなど、名義の移転を示す書類の添付を求められるのが一般的です。
届出の名称・様式・添付書類は自治体ごとに異なります。年の途中で届け出ても、その年度の納税義務者は変わらないという運用が多い点にも注意してください。
壊して土地だけ売る、という道もある
建物を取り壊し、更地にして土地だけを売るという選択肢もあります。買主が登記できないという問題は、建物が無くなれば消えます。
ただ、これには負担が2つ付いてきます。解体費用は売主の持ち出しで、売れる前に払うことになります。もう一つは土地の固定資産税で、住宅用地の特例が外れて税額が上がります。

住宅が建っている土地は「住宅用地」として、固定資産税の課税標準が200平方メートル以下の部分は価格の6分の1、それを超える部分は3分の1に軽減されます(地方税法349条の3の2)。建物を壊すとこの軽減がなくなります。
「更地にすると固定資産税が6倍になる」はよく聞く説明ですが、そのまま6倍になるとは限りません。宅地には負担調整の仕組みがあり、上がり方は土地ごとに異なります。
税務課で尋ねるときは、毎年届く土地の課税明細書(地番と評価額が載っているもの)を持って行き、「建物を壊した場合の翌年度の税額」と用件を絞ると話が進みやすくなります。
建物を残しておけば税は軽いまま、とも言い切れません。空家等対策特別措置法にもとづく勧告を受けた特定空家等・管理不全空家等の敷地は、住宅用地から除かれます(地方税法349条の3の2第1項)。放置したまま持ち続けることにも、税の面のリスクがあります。
なお、未登記の建物を取り壊した場合は、法務局への滅失登記ではなく、市町村の税務課へ「家屋滅失届」を出す流れになります。届け出ないと、無くなった建物に課税が続くことがあります。
当社への相談で最も多く止まっている理由が、この解体費用をまず出せないことです。壊してから売るという順番が取れないのであれば、建物が建ったまま引き受ける相手を探すほうが現実的です。
手放すかどうかを決める前に
未登記であることが分かった段階で、次の順に整理すると判断しやすくなります。
- 登記事項証明書を取ってみる(法務局。建物が出てこなければ未登記です)
- 固定資産税の納税通知書の家屋の欄を見る(家屋の欄に記載があれば、市町村は建物を把握しています)
- 増築部分だけの問題かどうかを見る(母屋が登記済みなら、範囲は限定されます)
- 登記費用を最初に負担できるかどうかを決める
- 負担できないなら、登記を引き受ける買主を探す
4番で止まる方が多いのですが、そこで諦める必要はありません。費用をまず出せないことと、手放せないことは、同じではありません。
よくある質問
固定資産税は毎年払ってるのに、登記がないと言われました
固定資産税と登記は別の制度です。市町村は登記がなくても、建物を家屋補充課税台帳に載せて課税できます。納税通知書が届いていても、登記がある証明にはなりません。
登記にお金をかけないと、売れないんでしょうか
売買契約そのものは、登記がなくても結べます。ただ買主は移転登記ができず、表題登記と所有権保存登記から始めることになります。その手間と費用を買主側が引き受けるなら、未登記のまま話は進みます。
表題登記って、いくらくらいかかるものですか
日本土地家屋調査士会連合会の令和4年度(2022年度)のアンケートでは、新築の木造2階建て住宅の表題登記で、土地家屋調査士の報酬の中央値が82,500円(税抜・実費別)でした。
建築時の書類が残っていない古い家は、調べる手間が増えるぶん、この想定より高くなりやすくなります。所有権保存登記の登録免許税と司法書士の報酬は、これとは別です。
役所の書類には「未登記家屋」とあります。未登記建物とは別のものですか
同じものです。固定資産税では家屋、登記では建物と呼ぶだけで、手続きも変わりません。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
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測量や登記を先にしていただく必要はありません。現況のまま確認します。
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ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

