施設に入った親の家が傷んできた。屋根の瓦がずれ、庭木が隣の敷地に出ている。壊してしまえば楽になる気がするけれど、壊す決断を誰がしていいのかが分からない。
先に答えを言うと、決めるのは名義人です。親の名義のままなら親で、子が決められるのは親の委任か、後見人などの権限がある場合だけです。
解体を決められるのは、名義人
建物を壊すのは、所有者が決めることです。所有物を処分する権利は所有者にあります(民法206条)。親が施設に入っても、家の名義は親のままなので、子が自分の判断で業者に頼むことはできません。
親に判断力が残っていれば、親の意思を確かめて、親が契約者になるのが基本です。子が代わりに進める場合は、親から委任を受けます。その委任も、頼んだ時点で親に意思能力がなければ無効になります(民法3条の2)。
| 家の状況 | 解体を決める人 | 必要なもの |
|---|---|---|
| 親の名義で、親の判断力がある | 親 | 親の意思。子が進めるなら親からの委任 |
| 親の名義で、判断力が十分でなく、後見人もいない | 子は決められない | 家庭裁判所への後見開始の申立てが入口 |
| 親の名義で、成年後見人が付いている | 後見人 | 家庭裁判所の許可 |
| 親が亡くなり、兄弟で共有している | 共有者全員 | 他の共有者の同意 |
認知症などで判断力が十分でなく、後見人もいない場合は、子の一存では壊せません。入口は後見開始の審判で、民法7条は、本人、配偶者、四親等内の親族などの請求で家庭裁判所が審判できると定めています。
判断力の見方や、任意後見の契約があるときの道は、親が認知症になった実家は売れる?に書いています。
後見人が付いているなら、取り壊しにも家庭裁判所の許可
成年後見人が付いている場合、取り壊しは売却と同じ扱いになります。
裁判所の案内では、本人の居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要で、処分の例として売却、抵当権の設定、賃貸借契約の締結や解除と並んで「建物取り壊し」が挙がっています(裁判所:居住用不動産の処分の許可)。許可を得ないでした処分は無効です。
施設に入る前に住んでいた家も、この居住用不動産に含まれます。範囲の詳しい話は施設入所で空いた実家は、誰がいつまでに売る?に書きました。
申立手数料は収入印紙800円分で、郵便料が別にかかります(額は裁判所ごとに違います)。それに加えて、処分の必要性を示す資料と登記事項証明書を添えます。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
兄弟の共有なら、同意が要る
親が亡くなって兄弟で共有している家なら、話はまた変わります。民法251条は、共有者は他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えられない、と定めています(軽微なものを除く)。建物を壊すのは、この変更に当たると考えられます。
同意が取れないまま進めると、あとで揉めます。壊すかどうかより先に、家の持分をどう分けるか、誰かが買い取るか、という話をつけておくほうが近道です。
決まるまでの間、瓦と庭木は誰が手当てする
壊すかどうかが決まらなくても、傷みは待ってくれません。瓦が落ちて人にけがをさせれば、賠償するのはまず占有者で、占有者が必要な注意をしていたときは所有者です(民法717条)。
枝が境界を越えていれば、隣の人は木の所有者に切るよう求められ、相当の期間内に切らなければ自分で切ることもできます(民法233条)。
手配する人は立場で分かれます。親に判断力があれば親が決め、子は委任を受けて業者に頼みます。後見人が付いていれば、財産を管理する後見人の役目です(民法859条)。
修繕は裁判所の案内の処分の例に挙がっていませんが、例の末尾に「等」とあるので、迷う工事は家庭裁判所に尋ねてください。
兄弟の共有なら、瓦を戻す程度は各自でできる保存行為と考えられ(民法252条5項)、共有の木の枝は各共有者が切れます(民法233条2項)。
判断力が十分でなく後見人もいない間に子が手を出すなら、落ちかけた瓦を押さえるような、親の利益に最も合う応急の手当てにとどめます(民法697条の事務管理の考え方)。
壊す前に、固定資産税と3,000万円控除を見る
壊したあとのことも、先に見ておきます。
固定資産税には、住宅が建っている土地の税を軽くする特例があります。地方税法349条の3の2は、専ら人の居住の用に供する家屋の敷地を住宅用地としています。
家を壊して更地にすると、この住宅用地に当たらなくなり、翌年度から土地の税額が上がることがあります。どれだけ変わるかは土地の広さと自治体で違い、役所の資産税の窓口で分かります。
壊さなければ特例が続く、とも言い切れません。同じ条文は、空家法にもとづく勧告を受けた管理不全空家等・特定空家等の敷地も、住宅用地から除いています。
傷んでいるだけで外れるのではなく、勧告を受けた場合の話です。
ただし国の通知(総税固第42号)は、構造上住宅と認められない家や、使用の見込みがなく取り壊しを予定している家、必要な管理を怠り今後人が住む見込みがないと認められる家は、住宅用地の特例の対象になる「住宅」に当たらないとしています。
勧告がなくても外す市町村の例が、国土交通省の事務連絡(令和3年3月30日)に載っています。解体を予定している家は扱いが変わることがあるので、いまの課税の扱いも、同じ窓口で尋ねておくと安心です。
親が売主として売る予定なら、自宅を売ったときの3,000万円特別控除が解体の順番に関わります。
取り壊した敷地を売るなら、取り壊した日から1年以内に契約していることが要件の一つです(国税庁 No.3302)。買い手の見通しがないまま壊すと、この1年が足かせになります。
ほかの要件と期限は、施設入所で空いた実家の3,000万円控除の期限の表に載せています。
親が亡くなったあとに相続人が売るなら、この期限ではなく別の特例の要件で考えます(国税庁 No.3306)。詳しい条件は空き家の3000万円控除に書いています。
壊したあとは、建物の滅失の登記の申請もあります。不動産登記法57条は、建物が滅失したときは表題部所有者または所有権の登記名義人が、滅失の日から1か月以内に滅失の登記を申請しなければならない、と定めています。
壊さずに手放す道も、先に当たっておく
解体に費用がかかり、壊しても土地が売れる保証はありません。費用の考え方は空き家の解体費用は何で決まる?に、自治体の補助の対象外になりやすい例は空き家の解体補助金は条件が違うにまとめています。
古い家付きのまま土地として売る道もあります。更地にするかどうかで比べたいときは、古家付き土地は解体せずに売れる?が参考になります。
後見人が付いている家では、壊してから売るか家のまま売るかの違いが、手続きの数に出ます。売却も取り壊しも許可の対象なので、解体してから売れば、許可を求める処分が2つになると考えられます。家のまま売る形なら売却の1つです。
申立ての分け方は、申立先の家庭裁判所に聞いてください。
親に判断力があり、後見人も付いていないうちは、この許可の手続きは入りません。解体するか、家のまま売るかを、親本人の意思で選べます。
傷んだ家を、壊す前に見せてください
壊したいのに解体費が出せず、そこで話が止まっている。当社に届く相談でも、この形が目立ちます。
見積もりを取る前でも、瓦がずれたままの現況で聞いてください。他で断られた物件も、お引き受けできる場合があります。引き受けられるかどうかは物件ごとの判断で、ご相談への返事は翌営業日までにお送りします。
後見人が付いている家は、家庭裁判所の許可の段取りも含めて個別にお話しします。税の特例や固定資産税の変わり方は、税務署か役所の窓口が相談先です。
当社へは、家の名義が誰か、後見人が付いているかを、分かる範囲で教えてください。
よくある質問
母が施設に入って家が傷んできました。私の判断で解体業者に頼んでもいいですか。
頼む前に、母の決定か、委任や成年後見などの権限があるかを見てください。名義が母なら、処分を決める権利は母にあります(民法206条)。
どちらもないまま壊すと、子でも他人の建物を壊したことになり、損害賠償(民法709条)や建造物損壊(刑法260条)を問われるおそれがあります。
成年後見人が付いています。建物を壊すのにも許可が要りますか。
裁判所の案内では、本人の居住用不動産の処分に当たるものとして、売却、抵当権の設定、賃貸借契約の締結・解除、建物の取り壊しなどが挙げられています。許可を得ないでした処分は無効になります。申立先は後見開始の審判をした家庭裁判所です。
兄弟で相続した家を、私は壊したいのですが、兄が反対しています。
共有の家に大きな変更を加えるには、他の共有者の同意が要ります(民法251条)。建物の取り壊しはこれに当たると考えられます。同意が得られないときは、解体の前に、持分や分け方をどうするかの話に戻ることになります。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
このような物件のご相談は、相続した空き家の買取相談のページへ。
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お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp
ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

