私道の持分がない土地や家は売れない、と言われて止まることがあります。売ろうとして初めて、前面の私道の持分が自分に無いと分かる。何十年も普通に通ってきた道なのに、買主が付きません。
理由は単純です。通れてきたことと、通る権利があることは別だからです。
この記事では、なぜ持分が失われるのか、何が必要になるのか、2023年の改正民法で何が変わって何が変わらなかったのか、そして承諾が無い状態のままでも動かせる場合があることを、実際に当社が扱った案件を交えて説明します。
通れていたのに、売れない
私道に接している土地を売るとき、買主側からほぼ必ず求められるものがあります。通行掘削承諾書です。
- その道を通ってよい
- 水道管やガス管を引くために掘ってよい
この2つを、私道の所有者が書面で認めたものです。

なぜ書面が要るのか。買主は普通、住宅ローンを使います。金融機関は「通れなくなるかもしれない土地」「水道工事ができないかもしれない土地」に融資したがりません。承諾書が無いというだけで、審査が止まります。
ここが厄介なところです。売主は困っていません。
今まで通り通れているし、水道も出ている。売ろうとした瞬間に、初めて問題になります。
持分は、静かに動く
「なぜ持分が無いのか」を調べていくと、多くは代替わりに行き着きます。
共有の私道の持分は、相続や売買で所有者が変わります。前の代で「お互い様だから」と交わした了解は、新しい所有者を拘束しません。悪意があったかどうかとは関係なく、制度としてそうなっています。
そして厄介なことに、当事者は気づきません。登記を見なければ分からないうえ、日常の通行は何も変わらないからです。変化が表に出るのは、売却や建て替えのときだけです。
関係が良かった間柄ほど、書面を作っていないことがあります。
信頼で回っていたので、必要が無かったからです。
その信頼は、次の代には引き継がれません。引き継がれるのは登記だけです。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
法律上の権利と、売買で求められる書面は別
「民法に通行の権利があるはずだ」と言われることがあります。あるにはあります。ただし範囲が限られていて、それだけでは売買が進まないのが実情です。
民法210条は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者に、公道に出るために周りの土地を通ることを認めています。通る場所と方法は「他の土地のために損害が最も少ないもの」を選ぶ必要があり(211条1項)、原則として償金を払うことになります(212条)。
そしてもう一つ、2023年4月1日に施行された改正民法で、ライフラインについての規定が新しく設けられました。民法213条の2です。他の土地に設備を設置するか他人の設備を使わなければ電気・ガス・水道水の供給を受けられない土地の所有者は、必要な範囲でそれができる、と条文に書かれました。それ以前に書かれた解説記事には載っていない内容です。
| 民法210条〜213条(通行) | 民法213条の2(ライフラインの設備) | |
|---|---|---|
| 何ができるか | 公道に出るために他の土地を通る | 他の土地に水道管などを設置する/他人の設備を使う |
| 前提 | 他の土地に囲まれて公道に通じない土地であること | 他の土地や他人の設備を使わなければ供給を受けられないこと |
| 場所と方法 | 他の土地のために損害が最も少ないものを選ぶ(211条1項) | 同じく損害が最も少ないものを選ぶ(213条の2第2項) |
| お金 | 償金を払う(212条) | 土地の損害に償金(5項)。他人の設備を使うなら費用を負担(7項) |
| 事前の通知 | 条文上の定めなし | 目的・場所・方法をあらかじめ通知する(3項) |
条文ができたことと、売買が進むことは別です。
213条の2は事前の通知や償金を前提にした権利であって、隣に黙って工事をしてよいという話ではありません。そもそも自分の土地がこれらの条文に当てはまるかどうかは、道の形や接し方によって個別に判断されます。そして買主と金融機関が見るのは条文ではなく、承諾書という紙が手元にあるかどうかです。当てはまるかの判断は弁護士・司法書士へご確認ください。
私道の持分が無いまま何年も止まっていた家
関東圏の物件で、こういう相談がありました。
- 相談者の親の代で、私道の持分が別の人に移っていた
- 相談者本人はその経緯を知らなかった
- 隣同士の関係は悪くなく、葬儀に参列するような間柄だった
- 売ろうとしたところ、接道が満たせず買主が付かなかった
当社はこの状態のまま買い取り、取得後に私道の所有者と話をして、通行掘削の承諾を取得しました。
| 段階 | 誰が背負ったか |
|---|---|
| 持分が無いと判明 | 売主(売ろうとして初めて分かった) |
| 承諾の交渉 | 当社が取得後に実施 |
| 承諾の取得 | 完了 |
売主の側から見ると、「隣と話をつけてから持ってきてください」と言われずに済んだということです。
近隣との交渉は、金額の問題ではありません。気が重いという問題です。長く付き合ってきた相手に、自分の売却の都合で頭を下げに行く。そこで止まってしまう方は多いと思います。
なお、これは「必ず承諾が取れる」という話ではありません。私道の所有者が誰か、何人いるか、どういう関係かによって結果は変わります。当社が引き受けられるかどうかも、個別に見てからの判断になります。
売る前に確認しておくとよいこと
登記事項証明書と公図を取れば、自分の状況はすぐ分かります。法務局で取得できます。
| 見るところ | 分かること |
|---|---|
| 公図 | 前面の道が誰の土地か(地番が振られていれば私道) |
| 私道の登記事項証明書 | 所有者は誰か、共有なら持分は誰がどれだけ持っているか |
| 自分の土地の登記事項証明書 | 私道の持分を持っているかどうか |
費用はわずかです。窓口での書面請求は、登記事項証明書が1通600円、公図(地図等情報)が1通500円(2025年4月1日改定)。オンラインで請求すればもう少し下がり、登記事項証明書は郵送520円・窓口交付490円、地図等情報は郵送470円・窓口交付440円です。

持分の持ち方には2通りあります。私道1筆を数人で共有しているものと、私道が筆で分かれていてそれぞれが1筆ずつ単独で持っているものです。後者は登記事項証明書に持分の記載が出てこないため、「持分が無い」ように見えて実は持っている、あるいはその逆ということがあります。公図で私道が何筆に分かれているかも合わせて見てください。
前面の道が「建築基準法の道路」かどうかも確認する
持分と並んでもう一つ、前面の私道が建築基準法上の道路に当たるかを確かめておくと、話が早く進みます。建物を建てるには、敷地が道路に2m以上接している必要があるからです(建築基準法43条1項。接道義務といいます)。
建築基準法42条1項は、幅員4m以上(特定行政庁が指定する区域では6m以上)のもののうち、次のような道を「道路」と定めています。私道でも、ここに当たれば建築基準法上の道路です。
| 条文 | よくある呼び方 | どんな道か |
|---|---|---|
| 42条1項1号 | 公道 | 道路法による道路 |
| 42条1項3号 | 既存道路 | この章の規定が適用されるようになった時点で、既にあった道 |
| 42条1項5号 | 位置指定道路 | 土地を建物の敷地として使うために築造し、特定行政庁から位置の指定を受けた道 |
| 42条2項 | 2項道路・みなし道路 | 幅員4m未満でも、規定の適用時に建物が立ち並んでいて特定行政庁が指定した道。中心線から2m下がった線が道路の境界とみなされます(セットバック) |
どれにも当たらない通路であれば、持分の有無以前に、建て替えができない土地として扱われます。道路種別は役所の建築指導課などで教えてもらえます。
特定行政庁とは、建築確認などの事務を扱う自治体の長のことです。同じ制度でも、どこまで認めるかの運用は自治体ごとに違います。
なお接道義務には例外があり、幅員4m以上の道に2m以上接する建築物で特定行政庁が支障がないと認めたもの、あるいは建築審査会の同意を得て許可されたものには適用されません(建築基準法43条2項1号・2号)。ただし許可は個別の判断で、当然に下りるものではありません。
持分が無い、あるいは共有者が多数いる場合は、売却の前に承諾が取れるかどうかが焦点になります。
「気が重い」で止まっているなら
この種の案件で本当の障害になるのは、法律論ではありません。隣に頼みに行くのが気まずいという一点です。
仲介で売るなら、売主が自分で交渉するのが原則になります。相手が複数いれば全員です。相続で共有者が増えていれば、面識のない人にも連絡することになります。
買取であれば、その部分を引き受けられる場合があります。承諾が無い状態のまま引き受け、交渉は買主側で行うという形です。当社が扱うのは再建築不可・未登記・境界不明といった「何かが引っかかっている」物件が中心なので、私道の問題もその一つとして見ています。
まずは公図と登記事項証明書の写しだけでも構いません。それを見れば、承諾が要る相手が何人いるのか、現実的に進みそうかの見当はつきます。「隣に言いに行かないと売れない」と思い込んだまま止まっているとしたら、その前に一度ご相談ください。
よくある質問
何十年も通ってきた道です。それでも権利がないのですか。
通れてきたことと、通る権利が認められることは別の問題です。長年の使用が権利として扱われる場合もありますが、それを主張するには裁判などの手続きが必要になることがあります。買主や金融機関は、そうした不確かな状態を嫌います。
通行掘削承諾書とは何ですか。
私道を通行することと、水道管やガス管の工事のために掘削することを、私道の所有者が認める書面です。売買では買主側から求められることが多く、これが無いと住宅ローンの審査が通りにくくなります。
隣が承諾してくれない場合はどうなりますか。
話し合いで解決しない場合、囲繞地通行権など法律上の主張を検討することになりますが、時間も費用もかかります。現実には、承諾が取れないまま売却が止まってしまう例が少なくありません。
持分が勝手に動くことがあるのですか。
共有の私道の持分は、相続や売買によって所有者が変わることがあります。前の代で交わした口約束は新しい所有者を拘束しないため、代替わりをきっかけに前提が崩れることがあります。
民法が改正されて、承諾がなくても水道工事ができるようになったと聞きました。
2023年4月1日に施行された民法213条の2で、他の土地に設備を設置しなければ電気・ガス・水道水の供給を受けられない土地の所有者が、必要な範囲で設置できることが明文化されました。ただし目的・場所・方法を事前に通知することや、土地の損害への償金が定められており、黙って工事してよいという内容ではありません。当てはまるかどうかは道の形や接し方によって個別に判断されるため、弁護士・司法書士へご確認ください。
前面の私道が建築基準法の道路かどうかは、どこで分かりますか。
役所の建築指導課などで道路種別を確認できます。建築基準法42条1項5号の位置指定道路や42条2項のいわゆる2項道路であれば建築基準法上の道路にあたり、敷地が2m以上接していれば接道義務を満たします。どれにも当たらない通路の場合は、持分の有無以前に建て替えができない土地として扱われます。
この状態でも売れますか。
仲介では買い手が付きにくくなりますが、買取であれば承諾の取得を含めて引き受けられる場合があります。当社でも、承諾が無い状態のまま買い取り、取得後に通行掘削の承諾を取り直した案件があります。ただし私道の所有者の状況によるため、個別の判断になります。
この記事の監修者
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