相続財産清算人を立てて不動産を売却する場合、申し立てる人が先に予納金を納めます。東京家庭裁判所の案内では、亡くなった方の預貯金や現金が十分にない場合、予納金は原則として100万円です。この記事では、清算人が不動産を売るまでの流れと期間、誰が申し立てるのか、そして放棄せず相続して現況のまま手放す道との比較を整理します。
相続人の1人が行方不明という場合は、清算人ではなく不在者財産管理人の制度になります。そちらは不在者財産管理人による不動産の売却をご覧ください。
相続財産清算人とは、誰のために何をする人か
相続人がいるかどうか分からないとき、相続財産は法律上「法人」として扱われます(民法951条)。この財産を管理し、債権者に支払い、残りを国庫に納める役目が相続財産清算人です。
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
「相続人がいるかどうか分からない」には、初めから相続人がいない場合だけでなく、相続人の全員が相続放棄をして、結果として誰も相続する人がいなくなった場合も含まれます。この場合、放棄した人が利害関係人として申立人になる形があります。
相続財産清算人=2023年4月の民法改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていました。古い記事や書式には旧名称が残っています。
利害関係人=債権者、遺贈を受けた人、特別縁故者など、その財産の処理に法律上の利害を持つ人。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(債権者・受遺者・特別縁故者など)または検察官 |
| 申立先 | 亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 申立費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円 |
| 予納金 | 相続財産から管理費用を賄えない見込みのとき、申立人が納める。金額は裁判所が事案ごとに決める |
出典: 裁判所「相続財産清算人の選任」
予納金は「原則100万円」と案内する裁判所がある
予納金は、清算人の報酬と、財産を管理するための費用に充てられます。裁判所のページには具体的な金額は書かれていませんが、各家庭裁判所の手引きには目安が出ています。
その他、官報公告料等の予納金が必要になります。具体的な金額は、申立てをしていただいた後に担当者からお知らせさせていただきますが、被相続人の流動資産(預貯金・現金)が十分にない場合には、原則として100万円です。
不動産しか残っていない相続ほど、予納金は高くなります。預貯金があれば清算人の報酬はそこから出せますが、売れるかどうか分からない家と土地だけでは、報酬の見込みが立たないからです。裁判所ごとに運用が異なるので、申立先の家庭裁判所で確かめてください。
予納金のうち使われなかった分をどう扱うかは、清算の過程で家庭裁判所の判断により精算されます。不動産が売れずに相続財産から費用を賄えなければ、予納金が報酬や管理費用に使われて戻らないこともあります。予納金を払う前に「その不動産は売れるのか」を先に確かめておく理由はここにあります。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
清算人が不動産を売るまでの流れ
清算人が選ばれても、すぐに売れるわけではありません。順番と期間を表にします。
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 選任と公告 | 家庭裁判所が清算人を選任し、相続人がいれば名乗り出るよう公告 | 公告から6か月以上(民法952条2項) |
| 2 債権者・受遺者への公告 | 清算人が2か月以上の期間を定めて請求の申出を求める。1の期間内に満了させる | 1と並行(民法957条) |
| 3 権限外行為許可と売却 | 清算人が家庭裁判所の許可を得て不動産を売却し、代金を弁済に充てる | 買主が決まってから申立て |
| 4 特別縁故者への分与 | 1の期間満了後3か月以内に請求があれば、家庭裁判所が判断(民法958条の2) | 3か月 |
| 5 国庫帰属 | 残った財産は国庫に帰属(民法959条) | 清算の終了 |
清算人の権限は財産の保存が中心で、不動産の売却は権限を超える行為なので、家庭裁判所の許可がもう一度要ります(民法953条で準用する28条)。この許可は買主と契約条件が固まってから申し立てる形になるため、先に買主が要ります。この仕組みは不在者財産管理人と同じです。

なお、売却の代金が申立人の手に入るわけではありません。代金は債権者への支払いに充てられ、残れば特別縁故者への分与か国庫帰属です。放棄した人が申し立てた場合でも、清算の結果を受け取る立場にはありません。
誰も申し立てないと、家はどうなるか
相続人の全員が放棄しても、家は自動的に国のものにはなりません。誰かが清算人の選任を申し立て、清算を終えて初めて国庫に帰属します。申し立てる人がいなければ、名義は亡くなった方のまま残り続けます。
そして、放棄した人には次の義務が残ることがあります。
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
同居していた、鍵を預かって管理していた、という場合はこの「現に占有している」に当たる可能性があり、清算人に引き渡すまで保存義務が続きます。放棄した人が予納金を払ってまで申し立てるのは、この義務から抜けるためです。詳しくは相続放棄と不動産の管理義務にまとめています。
2023年12月に施行された空家法の改正で、市町村長も「空家等につき、その適切な管理のため特に必要があると認めるとき」に清算人の選任を家庭裁判所へ請求できるようになりました(空家等対策の推進に関する特別措置法第14条)。放棄した家が近隣に迷惑をかけている場合、市町村の空き家担当課に相談する道があります。ただし市町村が請求するかどうかは市町村の判断です。
放棄して清算人を立てるか、相続して現況のまま手放すか
ここまでが制度の話です。実際に迷うのは、「予納金を払って放棄を完結させるか、いっそ相続して自分で手放すか」の分かれ目です。
| 道 | 先に出る費用 | 最後に誰の手に残るか | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 相続放棄して、清算人を申し立てる | 予納金(裁判所により原則100万円など)+印紙・公告料 | 債権者への弁済後、特別縁故者への分与か国庫。申立人は売却代金を受け取らない | 借金など負の財産が大きい |
| 相続放棄して、申し立てない | なし | 名義は亡くなった方のまま。占有していれば保存義務が残る | 占有しておらず、負の財産が大きい |
| 相続して、現況のまま手放す | 相続登記の費用 | 買取なら代金は相続人へ。売れにくい家と土地では、相続人が費用を負担する形になる場合もある | 負の財産が小さく、家と土地だけが残っている |
放棄は相続財産の全部が対象で、家だけ放棄して預貯金は受け取る、ということはできません。また放棄には相続を知ってから3か月の期限があります(民法915条)。「予納金が惜しいから」という理由だけで放棄をやめると、借金まで引き継ぎます。負債の有無を確かめてから決めてください。
市街化調整区域の土地のように買い手が限られる不動産だけを切り離したい、というご相談は多いのですが、土地だけ放棄するという選び方はできません。放棄するなら、預貯金も含めた相続財産の全部が対象になります。

負の財産が小さく、残っているのが売れにくい家と土地だけ、という場合は、放棄せずに相続して手放す道が現実的なことがあります。家財が残っていても、片付けてから売る必要はありません。当社は現況のまま取り扱うことを基本にしていて、片付け・解体・測量を売主にお願いすることはなく、役所や登記の調査も当社で行います。
他で断られた物件も、お引き受けできる場合があります。
ただし、条件によっては成立しないことがあります。他で断られた物件も、お引き受けできる場合があります。現地と資料を確認したうえでの個別の判断になります。
査定で見ているのは「放棄の前か後か」
清算人に関わるご相談で、当社が先に確かめるのは家の状態ではありません。相続放棄の申述をすでに済ませたかどうかです。
– 放棄の前……相続して現況のまま手放す道と、放棄して清算人を立てる道の両方を比べられる。負債の調査が先
– 放棄の後、清算人が未選任……当社が買主になるには清算人の選任と権限外行為許可が要る。予納金は申立人の負担
– 放棄の後、清算人が選任済み……清算人と条件を詰め、許可の申立てに必要な契約書の案を用意する形になる
– 建物の状態と築年数、土地の条件……売れる見込みが薄い不動産ほど、予納金が戻らない可能性が高い
放棄するつもりの家をすでに片付けてしまった、という場合は、放棄できるかどうかの線が先に問題になります。相続財産を処分すると単純承認をしたものとみなされることがあり(法定単純承認・民法921条)、片付けの中身によっては放棄が認められない可能性があるためです。どこまでが処分に当たるかは個別の判断になるので、放棄の申述の前に弁護士・司法書士へご確認ください。相続人の中に放棄した人と相続する人が混ざる場合は共同相続した不動産の売却を、家財が大量に残っている場合はごみ屋敷を相続したときの判断をご覧ください。
この記事の要点
- 相続財産清算人は、相続人がいない(全員が放棄した場合を含む)ときに家庭裁判所が選ぶ。申立人は利害関係人か検察官
- 予納金は裁判所が事案ごとに決める。東京家庭裁判所は流動資産が足りない場合は原則100万円と案内している
- 清算人が売るには権限外行為許可が要り、先に買主が要る。清算の終了までは、法律が定める期間だけで選任の公告から9か月以上
- 売却代金は債権者への弁済、特別縁故者への分与、国庫に向かい、申立人は受け取らない。予納金の精算は家庭裁判所が判断する
- 放棄した人が占有していれば保存義務が残る。市町村長も清算人の選任を請求できる
- 負の財産が小さければ、相続して現況のまま手放す道のほうが費用が小さく済むことがある。ただし不動産の条件により、成立しない場合もある
放棄の可否と期限、負債の調査、税務の扱いは、弁護士・司法書士・税理士へご確認ください。
放棄するかどうかを決めかねている段階なら、家の所在地と、預貯金・借金のおおよその状況をお知らせください。放棄して清算人を立てる場合と、相続して現況のまま手放す場合のどちらが現実的かをお伝えします。
よくある質問
相続財産清算人の予納金はいくらですか。戻ってきますか。
金額は家庭裁判所が事案ごとに決めます。東京家庭裁判所の案内では、被相続人の預貯金や現金が十分にない場合は原則として100万円です。清算人の報酬や管理の費用に充てられます。使われなかった分の扱いは清算の過程で家庭裁判所の判断により精算されるもので、財産が売れず費用を賄えなければ戻らないこともあります。扱いは申立先の家庭裁判所で確かめてください。
相続放棄をしたのに、なぜ私が清算人の申立てをしなければならないのですか。
義務ではありません。ただし民法940条は、放棄の時にその財産を現に占有している人に、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務を定めています。実家に住んでいた、鍵を持って管理していた、という場合、この義務から抜けるには清算人に引き渡す必要があり、そのために放棄した人が自分で申し立てることがあります。
清算人が選ばれれば、すぐに不動産を売ってもらえますか。
すぐには売れません。清算人の権限は財産の保存が中心で、売却には家庭裁判所の権限外行為許可が要ります(民法953条・28条)。また選任の公告から最低6か月は相続人を探す期間で、その間に債権者への公告も行います。さらに公告期間の満了後3か月は特別縁故者が分与を請求できる期間です(民法958条の2)。清算の終了までは法律が定める期間だけで9か月以上になり、実際の期間は買主探しや許可の手続きの進み方によって変わります。
誰も相続人がいない家を、隣に住む私が申し立てることはできますか。
申立てができるのは利害関係人と検察官です。債権者、遺贈を受けた人、特別縁故者などが利害関係人にあたります。単に隣に住んでいるだけでは利害関係人と認められないことが多いので、空家法14条により市町村長が請求できる道があることを、市町村の空き家担当課に相談してください。
予納金を払ってまで放棄する価値があるか、迷っています。
放棄して清算人を立てる道と、相続して現況のまま手放す道は、先に出る費用と最後に誰の手に残るかが違います。借金など負の財産が大きければ放棄が優先ですが、そうでなければ相続して手放す道で費用を抑えられることがあります。当社は建物や土地を現況のまま取り扱うことを基本にしていますが、当社が代金を払う買取になるか、お引き受けになるかは不動産の条件で分かれ、成立しないこともあるため個別の判断になります。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
このような物件のご相談は、相続した空き家の買取相談のページへ。
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ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

