市街化調整区域の農地を相続したがいらないという場合、最初に知っておきたいのは、この土地には農地法と都市計画法の2つの規制が重なっており、片方の許可だけでは転用も売却も進まないという点です。
出口は大きく3つに分かれます。農地のまま農業をする人へ渡す、転用が通る使いみちの相手へ渡す、宅地とまとめて動かすの3つです。どれが使えるかは、農用地区域に入っているか、農地の区分はどれか、都市計画法34条に当たる使いみちがあるか、でほぼ決まります。
この記事では、持ち続けるあいだにかかるものを先に確かめ、そのうえで3つの出口を順に見ていきます。
使っていない農地を持ち続けると、何がかかるか
手放す方法の前に、持ち続けた場合の負担を整理します。農地は宅地にくらべて税額が小さいことが多く、「とりあえずそのまま」になりやすい土地です。ただし、かかるのは税金だけではありません。
| かかるもの | 内容 |
|---|---|
| 固定資産税 | 農地として評価されているあいだは、宅地より小さいのが一般的です |
| 草刈り・見回り | 雑草や病害虫は隣の農地に影響するため、遠方に住んでいても年に数回の手入れが要ります |
| 農業委員会への届出 | 相続で取得したときは、農地法3条の3の届出が必要です |
| 相続登記 | 取得を知った日から3年以内の登記が義務になっています |
耕作されていない農地には、農業委員会が毎年行う利用状況の調査が入ります。遊休農地と判断されると、これからどう使うつもりかを尋ねる利用意向調査が届きます。
農林水産省の資料によると、農業振興地域内の遊休農地で、農地中間管理機構と協議すべきことの勧告を受けたものは、固定資産税の課税が強化されます。通常の農地は売買価格に0.55を乗じて評価するところ、これを乗じないこととなり、「結果的に1.8倍になる」とされています。
出典: 農林水産省「遊休農地の課税の強化」
同じ資料には、勧告が行われるのは、機構への貸付けの意思を表明せず、自ら耕作の再開も行わないなど、遊休農地を放置している場合に限定されると書かれています。利用意向調査で貸付けの意思を表明していれば、機構側の事情で貸付けが行われていなくても勧告は行われません。
つまり、届いた調査票に返事をしないことが、いちばん不利に働きます。実家あての郵便が誰にも読まれていない、という状態になっていないかを先に確かめてください。
調整区域×農地は、2つの規制が重なる
市街化調整区域とは、都市計画法で「市街化を抑制すべき区域」と定められた区域のことです。建物を建てることが原則として制限されています。
一方の農地法は、農地を農地以外のものにすること(転用)と、農地の権利を動かすことを制限しています。この2つは別の法律で、窓口も別です。

| 農地法 | 都市計画法 | |
|---|---|---|
| 何を制限しているか | 農地の売買・貸借と、農地以外への転用 | 調整区域での開発と建築 |
| 主な窓口 | 農業委員会(転用の許可は都道府県知事等) | 市町村や都道府県の都市計画・開発指導の担当課 |
| 市街化区域なら | あらかじめ農業委員会に届け出れば許可は不要 | 用途地域に合えば建てられる |
| 調整区域では | 許可が必要 | 34条のどれかに当たらないと許可されない |
市街化区域の農地は、届出だけで転用できます。「畑を売ってアパート用地にした」という話の多くは、この市街化区域の話です。調整区域の農地には、この近道がありません。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
農地法の許可と都市計画法の許可は別。ただし、つながっている
「農地転用の許可さえ取れれば、あとは何とかなる」と考えてしまいがちですが、実際にはその順番では進みません。
農地転用の許可基準には、立地基準と一般基準があります。このうち一般基準について、農林水産省の通知「農地法の運用について」は、許可できない場合のひとつとして次を挙げています。
申請に係る事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされなかったこと又はこれらの処分がされる見込みがないこと(則第47条第2号)。
調整区域で建物を建てるには、都市計画法の開発許可か建築許可が要ります。したがって、都市計画法の許可が下りる見込みがなければ、農地転用の許可も下りません。
実際、農林水産省が示している転用許可申請書の記載要領には、申請地が市街化調整区域内にある場合、開発許可を要するときは都市計画法34条の該当する号を書くように、とあります。農地の窓口でも、都市計画法の見通しを聞かれるということです。
出典: 農林水産省「農地転用許可制度について」(農地法の運用について/農地法関係事務処理要領の様式例)
買い手が「家を建てたい」と言ってくれても、その人が調整区域で家を建てられる立場かどうかは別の問題です。34条に当たるかどうかは買い手の属性で変わることがあり、売主の側では決められません。分家住宅のように、建てた人にしか使えない属人性のある許可もあります。
転用が通る場合・通らない場合
転用の可否は、農地の区分(立地基準)と、都市計画法の見込みの掛け合わせで決まります。
| 農地の区分 | どんな農地か | 転用の方針 |
|---|---|---|
| 農用地区域内農地 | 市町村の農業振興地域整備計画で農用地区域とされた農地 | 原則不許可 |
| 甲種農地 | 調整区域内で、おおむね10ha以上のまとまりがあり、高性能な機械での営農に適した農地 | 原則不許可 |
| 第1種農地 | 集団的にまとまった農地、土地改良事業の対象になった農地 | 原則不許可 |
| 第2種農地 | 土地改良事業の対象になっていない、小集団の生産力の低い農地など | 第3種農地に立地することが難しい場合に許可 |
| 第3種農地 | 市街地にある農地など | 原則許可 |
甲種農地は、定義そのものに「市街化調整区域内にある」ことが入っています。調整区域の中でも条件のよい農地ほど、転用は通りにくくなります。
- 農用地区域に入っていない
- 区分が第2種農地か第3種農地である
- 買い手の使いみちが都市計画法34条のどれかに当たる(34条11号の区域指定の中にある、など)
- 買い手に、その事業を行う資力と確実な計画がある
- 農用地区域に入っている(先に農振除外の手続きが要ります)
- 甲種農地・第1種農地に当たる
- 建物を建てる計画なのに、34条に当たる理由がない
34条11号や12号の区域を条例で定めているかどうか、その範囲がどこまでかは、自治体ごとに運用が異なります。同じ「調整区域の畑」でも、区域指定の内か外かで話がまったく変わるため、都市計画の担当課で先に確かめておく価値があります。
建物を建てない使いみちなら
資材置場や駐車場のように建物を建てない使いみちは、都市計画法でいう開発行為(主として建築物の建築などのために行う土地の区画形質の変更)に当たらないのが一般的です。このため、都市計画法の関門は通らずに済むことがあります。
ただし、農地法の転用許可は同じように必要で、立地基準もそのままかかります。農用地区域や甲種・第1種農地であれば、建物を建てなくても原則として許可されません。扱いは自治体の条例や運用でも変わるため、窓口でご確認ください。
農地のまま渡せる相手
転用の見込みが立たない農地でも、農地のまま農業をする人に渡すなら、関門は農地法だけになります。農地法3条の許可で、許可を出すのは農業委員会です。
審査されるのは、買い手が取得後に農地のすべてを効率的に利用して耕作するか、必要な農作業に常時従事するか、といった点です。かつてあった下限面積の要件は2023年4月1日に廃止されており、小さな畑でも面積だけを理由に外れることはなくなりました。
当たる先として現実的なのは、次のような相手です。
- 隣接する農地を耕作している方
- その地域で規模を広げている農家や農業法人
- 農業委員会や市町村の農政担当課(あっせんや、地域の担い手の情報を持っていることがあります)
農地中間管理機構(農地バンク)は、農地を借り受けて担い手に貸し付ける仕組みです。所有権が手を離れるわけではないので、固定資産税や相続の問題は残ります。それでも、貸付けの意思を示しておくことには前の章で触れた意味があります。
農地のまま売る場合の手続きの細かいところは、農地の売却の記事にまとめています。
宅地とまとめてなら動く場合
調整区域で相続した土地は、実家の宅地と、その脇や裏にある畑がひとまとまりになっていることが多くあります。この場合、畑だけを切り離して考えないほうが進みやすくなります。
先に宅地だけを売ると、農地だけが手元に残ります。単独では買い手がつきにくい畑が、固定資産税と草刈りの負担と一緒に残る、という形です。農地付きの実家の売却で詳しく書いていますが、分けて動かす前に、全体でどう出すかを決めておくほうが安全です。
もうひとつ確かめたいのが、その畑が現況でも本当に農地なのかです。登記の地目が畑のままでも、何十年も前から庭や通路、物置の敷地として使われている土地は少なくありません。現況が農地でないと農業委員会が判断すれば、非農地証明を受けて地目を直せることがあり、その場合は農地法の手続きそのものが要らなくなります。
「現況が農地でない」かどうかを決めるのは農業委員会です。耕作をやめて草が生えているだけでは、農地として扱われるのが通常です。また、許可を受けずに農地を造成したり砂利を敷いたりすると違反転用になりますので、先に形を変えてしまうことは避けてください。
売る以外の道と、その費用
相手が見つからないときに名前が挙がるのが、相続土地国庫帰属制度、自治体に寄付、相続放棄の3つです。農地に当てはめると、次のようになります。
| 方法 | 農地での使いどころ | 費用・注意点 |
|---|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 農地でも申請はできる。建物がなく、境界が明らかであることなどが要件 | 審査手数料は1筆14,000円。負担金は、農用地区域内・土地改良事業などの区域内の農地は地積に応じた算定、それ以外の農地は20万円が原則 |
| 自治体への寄付 | 行政目的の利用予定があるときに限られる | 費用はかからないが、農地は受け取られないことが多い |
| 相続放棄 | 相続の手続きがまだ終わっていないとき | 農地だけを選んで放棄することはできない。知った時から3か月以内 |
法務省の統計(令和8年8月31日現在・速報値)では、国庫帰属制度の申請5,997件のうち田・畑が2,335件で、地目別では最も多くなっています。帰属した3,119件のうち農用地は989件です。農地を手放したい方がこの制度を実際に使っていることが分かります。
なお、申請の区分(田・畑)と帰属の区分(農用地)は呼び方が異なり、審査中の案件もあるため、この2つの数字から承認の割合を出すことはできません。制度の全体像は、市街化調整区域の土地を相続したときの記事で、4つの方法を並べて整理しています。
確かめる順番と、査定で実際に見ているところ
ここまでの内容を、確かめる順番に並べ直すと次のようになります。上から見ていくと、使える出口が自然に絞れます。

どこで聞けるか
- 現況地目 … 固定資産税の課税明細(手元の納税通知書に付いています)
- 農用地区域かどうか・農地の区分 … 市町村の農政担当課、農業委員会
- 34条に当たる使いみち・区域指定 … 都市計画、開発指導の担当課
- 名義 … 登記事項証明書(法務局)
当社にご相談をいただいたときも、見ているのはこの順番です。調整区域については、都市計画法34条の許可が下りる可能性、既存宅地にあたるか、分家住宅などの属人性が付いていないかを確認しています。建物が一緒にある場合は、その状態と築年数もあわせて確認します。
実務で困りやすいのは、相続した方ご自身が、どこが農地でどこが宅地なのかを把握していない場合です。納税通知書の課税明細には地番ごとに地目と面積が載っているので、お手元にあれば、それが最初の手がかりになります。名義が先代のままであれば、相続登記と農業委員会への届出がそこに加わります。
ごえん株式会社の取り扱い
当社では、市街化調整区域であることだけを理由に、査定や取扱いの対象外とすることはありません。農地が含まれる物件をお取り扱いすることもあります。
上に挙げた確認は当社で行いますので、売主様に役所を回って調べていただく必要はありません。草が伸びたままでも、建物に荷物が残っていても、測量ができていなくても、現況のままご相談いただけます。
ただし、すべてのご相談が成立するわけではありません。農用地区域の中で転用の見込みが立たない土地や、進入路がまったくない土地は、お断りすることもあります。ご希望額との開きがある場合や、費用のご負担にご同意いただけない場合、相続人の方々の間で合意ができていない場合も、条件がまとまらないことがあります。個別の判断になります。
農地法の手続きは農業委員会へ、登記については司法書士へ、税金の取り扱いについては税理士へご確認ください。
よくある質問
市街化調整区域の畑は、なぜ売れないのですか。
農地法と都市計画法の2つの規制が重なっているためです。農地のまま売るなら買い手は農業をする人に限られ、農地以外にして売るなら農地転用の許可に加えて、建物を建てる場合は都市計画法の許可の見込みも必要になります。買える人と使いみちの両方が絞られるので、値段を下げるだけでは動かないことが多くなります。
調整区域の農地は、転用の許可さえ取れれば家を建てられますか。
建てられるとは限りません。農地転用の許可は農地法の手続きで、建物を建てるための開発許可や建築許可は都市計画法の手続きです。農地法の側でも、ほかの法令の許可がされる見込みがないときは転用を許可しないことになっているため、都市計画法34条のどれかに当たる使いみちがあるかを先に確かめる必要があります。
耕作していない農地を放っておくと、固定資産税は上がりますか。
すぐに上がるわけではありません。課税が強化されるのは、農業振興地域内の遊休農地について、農業委員会から農地中間管理機構と協議すべきことの勧告を受けた場合です。農林水産省の資料では、通常の農地の評価で乗じている0.55を乗じないこととなり、結果的に1.8倍になるとされています。利用意向調査で機構への貸付けの意思を表明していれば、勧告は行われないとされています。
調整区域の農地は、相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえますか。
農地であることだけを理由に申請できないということはありません。ただし建物がないこと、境界が明らかであることなどの要件があり、審査手数料と負担金がかかります。負担金は、農用地区域内や土地改良事業などの区域内にある農地は地積に応じた算定、それ以外の農地は20万円が原則です。要件に当たるかどうかは法務局へご確認ください。
農地を相続したら、どこかに届け出る必要がありますか。
法務局への相続登記とは別に、農地法3条の3により、その農地がある市町村の農業委員会への届出が必要です。多くの農業委員会が、権利を取得したことを知った時からおおむね10か月以内と案内しています。届出をしなかったり虚偽の届出をしたりした場合は、10万円以下の過料の定めがあります。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
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