災害救助法が適用されても、公費解体は自動では始まりません。災害救助法が動かすのは避難所・食料・住宅の応急修理までで、被災した家を市町村の費用で解体する「公費解体」は、環境省の補助金を使って市町村が別に実施を決める制度です。この記事では、適用と解体が別の判断である理由、適用日が2つある理由、り災証明の申請期限、そして空き家の所有者が先に壊してはいけない理由を一次情報で整理し、最初にすることを順番に書きます。
結論を先に言うと、「適用された」は救助が始まる合図であって、「壊してもらえる」の合図ではありません。解体の可否と時期は、災害ごと・市町村ごとに違います。
災害救助法の「適用」で始まるのは、救助であって解体ではない
災害救助法は、都道府県知事が政令で定める程度の災害が起きた市町村の区域で、被災者に救助を行う法律です。適用の基準は施行令1条にあり、4つの号に分かれています。
四 多数の者が生命又は身体に危害を受け、又は受けるおそれが生じた場合であって、内閣府令で定める基準に該当すること。
1号〜3号は「住家が滅失した世帯の数」を基準にしますが、4号は被害が出る前の「おそれ」の段階で適用できる規定です。2026年9月に千葉県の15市8町1村と東京都の1町に適用された台風の例は、この4号適用でした(内閣府 令和8年9月21日公表PDF)。県の第1報の時点で住家の全壊は1棟です。
つまり、適用されたからといって、その地域に壊すべき家が多数あるとは限りません。そして、適用で始まる救助の種類は法律に列挙されています。
| 災害救助法4条の救助の種類 | 家屋の解体は? |
|---|---|
| 避難所・応急仮設住宅の供与 | 含まれない |
| 炊き出し、飲料水の供給 | 含まれない |
| 被服・寝具・生活必需品の給与 | 含まれない |
| 医療・助産、被災者の救出、福祉サービス | 含まれない |
| 被災した住宅の応急修理 | 修理まで。解体・撤去は別 |
| 生業資金、学用品、埋葬 | 含まれない |
| 政令で定めるもの(死体の捜索、日常生活に支障がある土石・竹木の除去) | 家屋そのものの解体は含まれない |
災害救助法は「命をつなぐ応急の救助」の法律です。家を壊して片付ける費用は、この法律ではなく、環境省の災害等廃棄物処理事業費補助金を使って市町村が行う「公費解体」で賄われます。根拠になる法律も、動く役所も別です。
公費解体は、市町村が別に「やる」と決めてから始まる
公費解体の国側の基準は、環境省の「公費解体・撤去マニュアル」(第7版・令和8年8月)にあります。
生活環境保全上の観点から、明らかに廃棄物と観念できる全壊家屋の解体・撤去費を、災害等廃棄物処理事業費補助金の対象としている。半壊家屋の解体・撤去費については、大量の災害廃棄物の発生が見込まれ、当該災害が「特定非常災害」に指定された場合には、補助対象としている。
原則は全壊のみで、半壊が対象になるのは特定非常災害に指定された場合です。同じマニュアルは、受付の立ち上がりについて「発災後1か月以内に公費解体・撤去制度の申請受付体制の立ち上げが行われ、発災2か月以内に解体工事開始となることが一般的」とも書いています。逆に言えば、適用の翌日に窓口が開くことはなく、実施しない災害もあるということです。
実際に、2026年8月〜9月の災害で確認できた動きを並べます。
| 災害・地域(一次情報) | 救助法の適用 | 公費解体の状況(確認日) |
|---|---|---|
| 8月の大雨・千葉県市原市 | 2026-08-13 適用 | 9月11日に実施を発表。対象は全壊と判定された家屋のみ5件、申請期間は公表せず対象者へ個別案内(市原市プレスリリース) |
| 8月の大雨・福井県6市町 | 適用 | 適用から2週間の時点で、県の支援メニューにあるのは災害ごみの受入れ・り災証明・応急修理まで。解体の案内なし(福井県 緊急支援メニュー、9月13日確認) |
| 9月の台風・名古屋市 | 9月8日適用(公示9月9日) | 適用から6日の時点で、市の支援ページにあるのは災害ごみの収集と応急修理まで(名古屋市、9月14日確認) |
| 7月の地震・熊本県の各市町 | 適用 | 半壊以上が対象。受付開始は熊本市9月10日、宇土市9月14日、氷川町9月15日、宇城市9月24日、八代市9月28日と市町で異なる(八代市ほか) |
同じ「適用」でも、全壊のみ5件で個別案内の市があれば、半壊以上を対象に受付期間を公表する市もあり、適用から数週間たっても案内が出ていない県もあります。適用の有無だけを見て「壊してもらえる」「もらえない」を判断することはできません。

「熊本では半壊でも壊してもらえたのに、うちの市では全壊だけ」という違いは、市町村の不親切ではなく、特定非常災害に指定された災害かどうかで国の補助対象が変わるためです。半壊で対象外になった場合こそ、自費で壊すか、壊さずに手放すかの判断が要ります。
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適用日が「2つ」あるのは誤りではない
内閣府の適用一覧を読むと、同じ市町村に2つの日付が並んでいます。法適用日と公示日です。たとえば鹿児島県屋久島町は「9月4日(9月5日)」と記載されており、法適用日が9月4日、公示日が9月5日という意味です(内閣府 令和8年9月9日公表PDF)。
自治体や支援制度のページはどちらを載せるかがバラバラなので、同じ災害・同じ市町村なのに日付が違って見えることがあります。どちらも正しい日付で、期限を数えるときの起算日はまた別(後述の「災害を受けた日」)です。
もう一つ、災害の呼び名も国と県で違うことがあります。福井県の大雨では、国が「令和8年8月27日からの大雨」と呼び、県は「令和8年8月29日からの大雨」としてページを立てていました。自分の被災地の情報は、国の発表名と県・市町のページ名の両方で探す必要があります。
| 迷いやすい点 | 実際 |
|---|---|
| 適用日が2つある | 法適用日と公示日。どちらも正しい |
| 災害の名前が国と県で違う | 起算日の取り方の違い。両方の名前で探す |
| 適用市町村の表に自分の市がない | 先行する災害で適用済みの市町は、新しい表に載らないことがある(内閣府PDFの留意事項) |
| り災証明の期限の起算日 | 適用日ではなく「災害を受けた日」(自治体の要綱による) |
り災証明には申請期限がある——放置した実家は入口に立てない
公費解体の申請には、り災証明書(または非住家の被災証明書)が要ります。り災証明書は、市町村長が申請に基づいて遅滞なく交付しなければならないと法律で定められています。
市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(中略)を交付しなければならない。
ただし、いつまでも申請できるわけではありません。期限は市町村ごとの要綱で定められています。福井市の例です。
申請は、災害を受けた日から6月以内に行わなければならない。ただし、福井市が災害対策本部若しくは危機情報センターを設置し、又は福井市に災害救助法(昭和22年法律第118号)若しくは被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)が適用された場合には、災害を受けた日から13月以内とする。
これは福井市の要綱であって、全国一律ではありません。月数を書いていない自治体もあります。それでも、起算日が「災害を受けた日」であることと、期限があることは、相談の中でいちばん見落とされている点です。
当社に多いのは「実家が被災したまま何年も放置していた」というご相談です。その時点でり災証明が取れず、公費解体の入口にも立てないことがあります。被災直後に片付けと写真を優先し、証明の申請を後回しにしないでください。浸水の場合の撮り方は浸水したときのり災証明にまとめています。
空き家・別荘は「被災証明書」になり、被害の程度が載らないことがある
住んでいない家(非住家)には、り災証明書ではなく被災証明書を発行する自治体があります。八代市の案内にはこう書かれています。
非住家に対して発行される被災証明書には、被災の程度(判定)が記載されていません。被災の程度が「半壊以上」と確認できないまま解体が行われると、費用が償還されなくなることがありますので、自費解体を実施する前に必ず市へご相談ください。
つまり、空き家の所有者が「早く片付けたい」と先に業者に壊させると、程度の判定が残らず、あとから公費の対象だったと分かっても償還されないことがあります。壊す前に、必ず市町村へ相談してください。なお、被災者生活再建支援金は住んでいない家には出ません(浸水したときのり災証明の「空き家・別荘は、支援金の対象外」を参照)。

最初にすること——適用の報道を見た日から
順番を間違えると、証明が取れない・同意が集まらない・償還されない、のどれかで止まります。
| 順番 | すること | なぜ |
|---|---|---|
| 1 | 被害の写真を撮る(外観全景・被害箇所・浸水の高さ) | 片付けると証拠が消える。り災証明の調査と公費解体の申請の両方で要る |
| 2 | 市町村にり災証明(非住家は被災証明)を申請する | 期限がある。公費解体・支援金・保険のすべての入口 |
| 3 | 市町村の公費解体ページと様式一覧を確認する | 実施の有無、対象(全壊のみか半壊以上か)、受付期間、同意書の種類が分かる |
| 4 | 同意が要る相手を洗い出す(共有者・相続人・抵当権者・借家人) | 同意が対象要件そのものの市がある。集めるのに時間がかかる |
| 5 | 自費で壊すなら、先に市町村へ相談する | 判定前の解体は償還されないことがある |
3で見る「様式一覧」には、市によって宣誓書(全員の同意が取れないときに申請者が責任を負う書面)や建物性に関する申告書(倒壊して建物でなくなった場合に同意書を省く書面)が用意されていることがあります。同じ災害・同じ県内でも、用意している市と用意していない市があります。相続人と連絡が取れない場合の進め方は、公費解体と相続の壁に市町村別の締切と一緒にまとめています。
遠方に住んでいて現地に行けない場合は、遠方の実家が被災したときの進め方も参考にしてください。
- 写真は「片付ける前」に撮った
- り災証明(被災証明)の申請期限を、市町村の要綱で確かめた
- 公費解体の対象が全壊のみか、半壊以上かを、市町村の発表で確かめた
- 同意が要る相手(共有者・相続人・抵当権者・借家人)を書き出した
- 自費解体の前に、市町村へ相談した
災害に便乗する業者に注意
災害のあとは、屋根修理や解体をめぐる訪問販売のトラブルが増えます。国民生活センターは、地震や台風の後に「屋根の点検をする」と業者が訪問して工事契約をさせられた例や、「火災保険で修理できる」と勧誘された例を挙げ、次のように呼びかけています。
契約を迫られても、その場では決めず、できれば複数社から見積もりを取って比較検討しましょう
公費解体は、所有者が市町村に申請し、市町村が業者を手配する仕組みです。業者が「今なら公費で無料で壊せる」と言って先に契約を取り付け、あとから公費の対象外だったと分かる、という形は制度上あり得ます。業者が申請を代行して無料にできる制度ではないことを覚えておいてください。困ったときは消費者ホットライン188へ相談できます。
壊さずに手放す、という道もある
半壊で公費解体の対象外になった、全員の同意が集まらない、り災証明の期限を過ぎていた——こうした家は、自費で壊すか、そのまま持ち続けるかの二択に見えます。ただ、建物が傷んだまま、残置物が入ったまま手放す道も残っています。
自費で壊す場合は、平時の空き家の解体補助金が使えないかを市町村に確かめてください。年度ごとの予算枠で動くため、解体補助金が終了していれば、次の年度の受付を待つか、壊さずに手放すかの判断になります。
当社は訳あり不動産を現況のまま取り扱っています。被災して住めなくなった実家や空き家についても、片付け・解体・測量を売主様にお願いすることはなく、調査は当社で行います。ただし場所や状態、権利関係によっては成立しないこともあり、個別の判断になります。公費解体の申請期限が迫っていて、同意が集まらない場合は、その事情も含めてお知らせください。
確かめる順番
- 適用の報道は「救助が始まる」合図。解体の実施は市町村の発表を待つ
- 写真 → り災証明の申請。期限は自治体の要綱で、起算日は災害を受けた日
- 市町村の公費解体ページで、対象(全壊のみ/半壊以上)と様式一覧を見る
- 同意が要る相手を洗い出し、宣誓書・建物性の申告書があるかを確かめる
- 自費で壊す前に市町村へ相談する。空き家は被災証明に程度が載らないことがある
- 対象外・同意不成立なら、壊さずに手放す道も比べる
制度の運用は市町村ごとに異なり、災害ごとに変わります。この記事の実例は2026年9月時点の各自治体・内閣府・環境省の公表内容によるもので、最新の情報は必ずご自身の市町村のページで確かめてください。
よくある質問
災害救助法が適用された地域なら、被災した家は必ず公費で解体してもらえますか。
いいえ。災害救助法が定める救助は避難所の供与、食品や飲料水の供給、住宅の応急修理などで、家屋の解体は含まれていません。公費解体は環境省の災害等廃棄物処理事業費補助金を使って市町村が実施を決める別の制度で、適用されても実施されない災害、対象が全壊だけの災害があります。自分の市町村の発表を待って確かめてください。
半壊の判定でも公費解体の対象になりますか。
災害によります。環境省の公費解体・撤去マニュアル(第7版)では、補助の対象は原則として全壊家屋で、半壊家屋は災害が特定非常災害に指定された場合に対象になるとされています。半壊以上を対象にした災害もあれば、全壊だけを対象にした災害もあるため、判定区分と自分の災害の扱いを市町村の案内で確かめてください。
り災証明書はいつまでに申請すればよいですか。
全国一律の期限はなく、市町村ごとの要綱で定められています。たとえば福井市の要綱では、災害を受けた日から6か月以内が原則で、災害救助法などが適用された場合は13か月以内とされています。起算日は災害を受けた日であって、救助法の適用日ではありません。何年も放置してから申請しようとしても取れないことがあるので、早めに申請してください。
住んでいない実家(空き家)が被災した場合、何に気を付ければよいですか。
非住家には、り災証明書ではなく被災証明書が発行される自治体があり、そこには被害の程度が記載されないことがあります。程度が半壊以上と確認できないまま自費で解体すると費用が償還されないことがあるため、壊す前に必ず市町村へ相談してください。また、被災者生活再建支援金は住んでいない家には出ません。
解体業者から「今なら公費で無料で壊せる」と訪問営業を受けました。
その場で契約しないでください。公費解体は市町村に所有者が申請し、市町村が発注する仕組みで、業者が勝手に申請を代行して無料にできるものではありません。災害後は屋根修理や解体をめぐる訪問販売のトラブルが増えると国民生活センターが注意喚起しています。困ったときは消費者ホットライン188に相談してください。
この記事の監修者
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