公費解体は相続が壁になる|マニュアル第7版の要点と申請期限

木立の奥に沈み込むように残る朽ちた建物

公費解体は、災害で壊れた家を自治体が所有者に代わって解体する制度ですが、申請の入り口でつまずく最大の理由は相続です。建物の名義人が亡くなったままだと、相続人全員の同意が集まらないうちに受付期間が終わってしまいます。

費用の心配が要らない仕組みであるだけに、ここで止まってしまうのは惜しいところです。

この記事は、環境省の公費解体・撤去マニュアル(2026年9月時点で第7版)と、能登半島地震のときに実際に何が起きたかを踏まえて、申請の前に何を確かめ、何から手をつければよいかを順にまとめたものです。

公費解体の申請が相続人の同意で止まっている家は、壊さずに現況のまま手放す方法を相談できます。売却にも相続人の合意は要るので、いま誰の同意までそろっているかを教えてください。

申請が止まっている家を相談する

目次

公費解体と、平時の除却補助金は何が違う?

使える場面が違います。公費解体は自然災害で被災した建物、除却補助金は平時の老朽化した危険な空き家が対象です。窓口も要件も別なので、取り違えると話が通じません。

使える場面中身
公費解体自然災害で被災した建物自治体が所有者に代わって解体・撤去する
除却補助金平時の老朽化した危険な空き家解体費用の一部を自治体が補助する

公費解体は、自治体が災害等廃棄物処理事業を実施すると決めた災害に限って行われます。各自治体の運用の下敷きになっているのが、環境省の公費解体・撤去マニュアルです。

対象は、り災証明書で一定以上の被害と判定された建物です。ただし「一定以上」の線は、災害によって変わります。

全壊だけか、半壊まで入るか

環境省の質疑応答集(問1・問2)は、次のように整理しています。

災害の種類解体費が補助対象になる家屋
原則全壊の家屋だけ
特定非常災害に指定された災害全壊に加えて半壊の家屋も

ここでいう「半壊」は、り災証明の4区分のうち「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」の3つをまとめた呼び方です。中規模半壊と判定された家も、特定非常災害であれば対象に入り得る、ということになります。

石川県の案内が「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」を対象としていたのも、熊本市の案内が「半壊以上」を対象としているのも、それぞれの地震が特定非常災害に指定されたためです。

「半壊でも公費解体できた」という話は、どの災害にも当てはまるわけではありません。
特定非常災害の指定がない災害では、原則として全壊の家屋に限られます。
自分の物件が被災した災害で、どの判定から対象になるかは、市区町村の案内で確かめてください。

解体費用を全部出す前に確かめる順番
当てはまる道があるかを、上から見ていく

公費解体・撤去マニュアルには何が書かれているか

窓口で言われたことの根拠を確かめたいとき、たどり着く先がこのマニュアルです。ただし、これは自治体の担当者向けに書かれた事務手続きの文書で、住民向けの申請案内ではありません。

本編は受付体制や工事の進め方が中心で、住民が知りたいことの多くは別冊の質疑応答集のほうに入っています。

2026年9月時点の最新版は第7版(令和8年8月)です。本編と別冊は、環境省のページからどれも無料で読めます。

資料中身
公費解体・撤去マニュアル(第7版・令和8年8月)受付体制、同意の取り方、建物性の判断、施工の留意点
<別冊>公費解体・撤去に関する質疑応答集(令和8年3月)「これは対象になるか」を問答形式で整理
<別冊>参考事例集過去の災害で実際にどう運用したか
<別冊>参照条文根拠になる条文
自費解体・撤去(解体費用の立替えと払戻し)の手引き(第2版・令和8年7月)先に自分で壊した場合の払戻し

対象になるもの・ならないもの

別冊の質疑応答集には、判断に迷いやすいものの扱いが並んでいます。よく聞かれるものを抜き出します。

扱い
家屋の一部だけの解体対象とならない。建物全体を解体・撤去する場合のみ
敷地内の倉庫・車庫だけ市町村が全壊と判定すれば対象。被災証明書や写真など判定を証する書類が要る
浄化槽・便槽家屋と一体で解体・撤去するなら対象
ブロック塀・よう壁原則は対象外。倒壊のおそれ、または工事の支障になる場合は対象となり得る
残された家財・家電損傷して処分せざるを得ないものは、家屋の解体と併せてなら対象
罹災証明書が出ない空き家市町村が全壊と判定すれば対象。被災証明書や写真が要る
応急修理制度を使った家屋原則として併用できない。修理したのに住み続けるのが難しくなった場合(液状化で被害が広がり、改めて全壊と判定された場合など)は対象となり得る

最後の行は、空き家を持っている方には大きい話です。
住んでいないので罹災証明書が出ない、だから対象外だ——と自分で判断してしまうケースがあります。
市町村が全壊と判定すれば対象になり得る、というのが環境省の整理です。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。

能登で実際に起きたこと

制度があることと、実際に解体が進むことは別でした。

2024年5月末の時点で、石川県の公費解体は申請15,614件に対し、完了227件。約1.5%です。
2016年の熊本地震が5か月時点で14%だったのと比べても、大きく遅れていました。

原因はいくつも重なっています。道路が寸断されて現場に入れない、作業員の宿泊先がなく県外の業者が受けられない——そうした事情もありました。そのうえで、手続き自体を止めていた最大の要因が、相続です。

相続登記が済んでおらず、登記の名義人が何代も前に亡くなった方のままになっている。そうなると相続人が枝分かれして何人にもなり、全員の同意を集めることが現実的に難しくなります。建物が壊れてから相続人を探し始めることになるので、間に合いません。

同じ入口に、いま別の災害の被災者が立っている

これは過去の話ではありません。2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震では、各市町村の公費解体の受付が2026年9月から順に始まりました。

そしてどの市町村の案内を見ても、所有者が亡くなっている場合は「相続人全員の戸籍」と「相続人全員の同意書」を求める建て付けになっています(熊本市・宇土市・氷川町の各案内)。

能登で申請の入り口を塞いだものが、そのまま次の災害の申請書類になっている。災害が変わっても、詰まる場所は変わりません。このあとの節では、この直近の実例を使って「同じ制度でも自治体ごとに運用が違う」ところを具体的に見ていきます。

石川県(能登)の公費解体は、いつまで申請できますか?

石川県の案内ページ(2026年10月7日更新)では、掲載されている16市町すべてが「受付終了」と表示されています。対象は令和6年能登半島地震と令和6年奥能登豪雨で被災した建物です。ページの冒頭には「多くの市町で申請期限を迎えています。

公費解体を希望される方は、まずは、各市町の窓口に相談してください」とあります。

  • 受付終了の一覧は、ページ上で令和8年2月2日時点と付されています。市町ごとの終了日は、このページには書かれていません
  • 「詳しくは各市町にご確認ください」と注記されています。期限後に相談できるかどうかは、県のページからは分かりません
  • 自費解体については、申請の期限のほかに、解体の契約期限がある市町があるとされています
  • 県の担当は生活環境部資源循環推進課(076-225-1471)です

令和8年熊本地震の被災地の受付期間は、下の「公費解体の申請は、いつまでに出せばいい?」の表にまとめています。

どちらの災害でも、手続きの入口は同じです。申請の前に、建物の名義人が誰かと、相続人がだれかを確かめます。以降の節は、その順番で読んでください。

相続人全員の同意が取れないときは、どうなりますか?

建物が倒壊などで建物性を失っていれば、共有者・相続人全員の同意書は要りません。連絡がつかない相続人がいる場合も、所有者不明建物管理制度や宣誓書方式が用意されていることがあります。

能登では、この壁を外すために運用そのものが変えられました。そしてそのときの工夫が、いまは環境省のマニュアル本編に書き込まれています。現場の急場しのぎではなく、手順として整理されたものになったということです。

分かれ道は、建物が壊れている程度です。マニュアルはこれを建物性と呼び、①土地に定着している、②屋根と周壁がある、③その用途に使える状態、の3つで判断するとしています。

建物性の有無で必要な同意が変わる
同じ災害でも、建物の状態で手続きの重さが変わる
  • 建物性が失われている場合……倒壊、全焼、柱だけになった、傾いて自立できない、土台から離れた——こうした状態なら、不動産としての所有権の整理は不要。共有者・相続人全員の同意書は要りません
  • 所在が分からない相続人がいる場合……所有者不明建物管理制度(民法264条の8)を使い、裁判所が選んだ管理人から同意をもらう方法があります
  • 連絡はしたが返答が得られない場合……宣誓書方式。所有権をめぐる争いが起きたら申請者の責任で解決する、という書面を出して進める扱いです

宣誓書方式は例外的な救済に見えますが、実際には使われています。マニュアルは、令和6年能登半島地震で全体の約5%程度が宣誓書を使った公費解体・撤去であり、それによるトラブル等も報告されなかったと記しています。

ただし、宣誓書方式はどの自治体にもあるわけではない

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。マニュアルに手順として載ったことと、目の前の自治体がそれを採ることは別です。

令和8年熊本地震の熊本市の案内を、2026年9月10日の受付開始に合わせて確認しました。

  • 市のチラシ「被災した家屋等の解体・撤去制度のご案内」全6ページと市ページの本文に、「宣誓書」「誓約書」の語が1つもありません
  • Q&Aに「共有者や相続人等の同意書は必須か」という問いがあり、答えは「必須です。個別の状況によりご対応が異なりますので、申請時にご相談ください」
  • さらに同意は、添付書類の1つではなく対象になるための要件そのものとして書かれています。チラシ「1 解体・撤去の対象」に、り災証明の判定と並べて「相続人など所有権を持った方全員の同意が取れていること。」とあります

つまりこの市では、同意が揃っていない家は、そもそも制度の対象に入っていません。同じ地震の宇土市・氷川町・宇城市の案内にも、宣誓書にあたる様式は公表されていません(2026年9月21日時点)。

宇城市の空き家に関わる制度と窓口は、宇城市の空き家・訳あり物件のページにまとめています。

一方で、同じ地震・同じ県内の八代市は、宣誓書の様式を用意しました。2026年9月19日更新の市の案内に載っている必要書類チェックリストには、こう書かれています。

全員からの同意書を取得することが困難であると認められる場合、公費解体・撤去に関する宣誓書(様式第 9 号)の提出があれば、C、E-2~3、F、H の書類の添付を省略することができます。

C は共有者全員の同意書、E は相続人全員の同意書、F は抵当権者などの同意書、H は借家の居住者の同意書です。

宣誓書の本文は、同意書を取れない事情と建物の状況を申告したうえで、あとで紛争が起きた場合は「私の責任において解決することを宣誓いたします」と約束する内容になっています。

同じチェックリストには、建物性が失われている場合の扱いも載っています。滅失の登記が行われた場合か、「建物性に関する申告書(様式第8号)」にもとづいて市長が建物性がないと判断した場合は、同じ同意書を省略できるとされています。

宣誓書の様式建物性に関する申告書同意書に求めるもの
熊本市無い(同意は対象の要件)案内に記載なし実印+印鑑登録証明書(交付から3月以内)
宇城市無い案内に記載なし実印+印鑑登録証明書(発行後6か月以内)
八代市ある(様式第9号)ある(様式第8号)自署+本人確認書類
千葉市(令和8年8月の大雨)ある(様式第7号)ある(様式第6号)自署+本人確認書類の写しで実印・印鑑登録証明書を省略できる

地震の被災地とは別に、令和8年8月の大雨で公費解体を始めた千葉市の要綱(令和8年9月8日制定)も同じ型です。

全員の同意書を取るのが困難と認められる場合は宣誓書(様式第7号)で同意書を省略でき、滅失登記が済んでいるか建物性がないと判断されれば、共有者・相続人・抵当権者などの同意書そのものが要らないとしています(千葉市 公費解体要綱(PDF))。

一方、同じ熊本地震の嘉島町・甲佐町は申請相談の窓口を開いていますが、ページに締切日を書いていません。いつまでと思い込まず、町に直接確かめてください(嘉島町/甲佐町)。

ただし、「困難であると認められる場合」がどういう場合かは、八代市の案内にも書かれていません。出せば通る書類ではなく、市が事情を見て判断するものです。

相続人と連絡がつかないときは、まず自分の市町村の「様式一覧」を見てください。
そこに「宣誓書」「建物性に関する申告書」があるかどうかで、その市町村がどこまで道を用意しているかが分かります。
無い場合でも、国のマニュアルに載っている方式なので、担当課に「宣誓書での申請はできないか」を聞く意味はあります。

同じ制度でも、災害ごと・自治体ごとに運用は違います。
能登で約5%が使った救済の道が、次の災害の自治体では用意されていない。逆に、案内に書かれていなくても、個別に相談すると扱いが変わることもある。
「マニュアルにあるから使えるはず」とも「案内に無いから無理」とも決めつけず、自分の物件がある市町村の担当課に聞くしかありません。

倒れた建物の滅失登記は、法務局が被災市町村と連携し、不動産登記法28条に基づいて登記官の職権で行う取り扱いがあります。
滅失登記がまだでも、市町村が建物性は失われていると判断すれば、上の扱いを受けられます。

ただし、どの方法を採るかを決めるのは市町村です。
所有者不明建物管理制度は、申立てから公費解体の申請までに通常3か月程度かかるとされています。
宣誓書方式のほうは、建物の状態や意向確認の経過を総合的に見て判断されます。
「全員の同意が要る」と一度言われても、そこで終わりにしないでください。
建物がどういう状態かを伝えたうえで、扱いが変わらないかを担当課に聞く価値があります。

同意が取れない相続人がいる、連絡先が分からない。その状況のまま書いて送ってもらって構いません。受付期限がある場合は、期限の日付も添えてください。

相続人がそろわない家を相談する

名義人が亡くなっていても、相続登記なしで申請できる?

できます。環境省の質疑応答集は、公費解体の申請にあたって事前に相続登記の申請をする必要はない、としています。求められているのは登記を直すことではなく、誰が権利を持っているかの確認と、その人たちの同意だからです。

  • 相続登記……申請の前に済ませる必要はない
  • 未登記の家屋の表題登記……申請の前に済ませる必要はない。市町村の固定資産課税台帳で所有者を確認する
  • 抵当権・根抵当権の抹消登記……申請の前に済ませる必要はない

建物性が残っている場合に法定相続人全員の情報が要るときは、戸除籍謄本や、法務局が発行する法定相続情報一覧図で確認できるとされています。

抵当権が付いている場合は、建物性が残っていれば担保権者が解体に同意していることを書面で確かめるのが原則ですが、建物性が失われていれば、その同意も不要です。

「まず相続登記をしてから来てください」と言われたら、根拠を確かめてください。
公費解体の申請の要件と、相続登記そのものの義務は、別の話です。
登記を先に直そうとすると、それだけで受付期間が終わってしまうことがあります。

相続登記の義務のほうにも、間に合わないときの逃げ道があります。相続登記そのものは2024年4月1日から義務になり、不動産登記法76条の2で3年以内の申請が求められています。

話し合いがまとまらない場合は、同法76条の3の相続人申告登記を先にしておけば、登記の義務だけはいったん果たしたものとみなされます。

相続人の一人と連絡が取れないときの進め方は、相続人が後から出てきたときの進め方に書きました。所在が分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。

登記の名義が古い住所のままになっているだけでも、書類の突き合わせで止まることがあります。住所変更登記も2026年4月1日から義務になりました。詳しくは住所変更登記の義務化にまとめています。

公費解体の申請は、いつまでに出せばいい?

受付の開始も締切も市区町村ごとに決められ、同じ災害でも隣り合う市町で3か月半ちがいます。災害が起きれば自動的に始まるものではなく、市区町村が受付を始めて、はじめて申請できます。

令和8年熊本地震で、実際にどれだけずれたかを並べます。いずれも各市町の公式ページで確認したもので、日付は例です(2026年9月21日時点)。

自治体申請受付の開始申請期限出典
熊本市2026年9月10日(予約は8月25日から)2026年12月10日市の案内
宇土市2026年9月14日(事前相談は8月28日から)2026年12月28日市の案内
氷川町2026年9月15日2027年3月31日(12月25日から延長)町の案内
宇城市2026年9月24日(最初の2週間は地区ごとに受付日を指定)2027年1月29日市の案内
八代市2026年9月28日(予約制。Web予約は9月18日、電話予約は9月24日から)2027年3月31日市の案内

この表から分かることは、日付そのものより次の3つです。

  • 同じ地震でも、締切が市町によって3か月半ちがう……いちばん早い熊本市は2026年12月10日、いちばん遅い八代市は2027年3月31日です。開始も熊本市の9月10日から八代市の9月28日まで開きがあります。実家と自宅が別の市町にある方は、自分の物件がある市町村の日付を見るしかありません
  • 受付期間の長さも揃っていない……熊本市・宇土市は3か月あまり、宇城市は4か月あまり、氷川町と八代市は6か月あまりです(氷川町は当初の12月25日から延長されました)。相続人の同意集めに時間がかかる案件ほど、期間の短い市町では間に合わなくなりやすいので、先に締切を確かめてください。受付の初めに地区ごとに日を割り振る市(宇城市)もあります
  • 「事前相談」と「本申請」は別物で、日付も別……宇土市は事前相談の窓口が8月28日に開き、本申請は9月14日からでした。相談窓口が開いた=申請が始まった、ではありません。遠方の相続人が一度帰省して「相談だけ」で終わるのは、この型です

八代市の2つの制度(被災した建物の公費解体と、平時の老朽危険空き家の除却補助)の違いは、八代市の空き家を解体したい|2つの制度、どちらに当たるかにまとめています。

申請書類の受付は、3か月ほどしかないことがあります。
一方で、戸籍を集めて相続人を確定させる作業は、それだけで数か月かかることが珍しくありません。
受付が始まってから名義を調べ始めると、間に合わない可能性があります。

「相続の壁」は、申請書の様式として現れる

各市町村が公表している様式を見ると、能登で問題になったことがそのまま書類の形になっています。同意書は1種類ではなく、相手ごとに3系統あります。熊本市・宇土市・氷川町の3つの案内で、同じ分け方を確認できました。

同意を求める相手どんな家で要るか
共有者・相続権者の全員名義人が亡くなっている家、共有名義の家
賃借人(入居者)の全員貸家、アパート、テナントが入っている建物
債権者(抵当権者)の全員住宅ローンなどの抵当権が残っている家

1行目が、相続の壁そのものです。所有者が亡くなっている場合は、戸籍で相続人全員を確認したうえで、遺産分割協議書か相続人全員の同意書が必要になります。ただし2行目・3行目も見落とせません。

相続人全員の同意が揃っても、抵当権が残っていれば債権者の同意で、借家人がいればその同意で、もう一度止まります。

様式の番号は自治体ごとに違います。ある市で「様式第3号」が共有者・相続権者の同意書でも、隣の市では同じ番号が被災状況の写真だったりします。
番号ではなく「誰の同意書か」で探してください。

共有者・相続権者の同意書の中身は、熊本市の様式では次のとおりです。

  • 共有名義人・相続権利者が、実印で署名押印する
  • 印鑑登録証明書の原本を添える(交付から3か月以内のもの)
  • 同意する内容は、解体後に原状回復や損害賠償を請求しないこと、および事後に紛争が生じたときは自分を含む共有者で解決すること

遠方の相続人が押印をためらうのは、面倒だからというより、責任を負う書面だからです。印鑑登録証明書に3か月の期限があるので、海外在住の相続人や、印鑑登録をしていない相続人がいる時点で日程が動きます。

締切は1つとは限らない

締切に間に合わないと諦める前に、確かめてほしいことがあります。「申請の期限」と「書類が全部揃う期限」が別になっている自治体があります。

熊本市のQ&Aには、「同意書の取得等に時間がかかり、申請期限までに全ての書類が揃わないが、どうすればいいか」という問いがそのまま載っています。答えは「まずは申請期限までに提出可能なものを提出してください。

その上で、(翌年2月末までに)不足する書類を提出してください」という趣旨です。2026年の熊本市では、申請期限が12月10日、不足書類の提出期限が翌2027年2月28日で、2か月半の差があります。

申請期限は「窓口に行く期限」であって、書類が完璧になる期限ではないことがあります。
同意が全員ぶん揃っていなくても、まず出せるものを出して申請しておく。
自分の市町村にこの2段階があるかどうかは、案内に小さく書かれているか、Q&Aにしか無いことが多いので、担当課に「不足書類の提出期限は別にあるか」と聞いてください。

なお申請を予約制にしている自治体もあります(熊本市は電話予約が必須)。予約が取れる日も含めて逆算してください。

同意が全員から取れないときにどう扱われるかは、様式の一覧を見ても分かりません。
能登で運用が変わったのも、受付が始まったあとでした。
「全員の同意が必要です」と案内に書かれていても、そこで終わりにせず、担当課に個別の事情を伝えて聞いてみてください。

相続放棄をすると、公費解体はどうなる?

申請できる人がいなくなります。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされるため、相続人全員が放棄すれば、申請できる所有者が誰もいない家が残ります。しかも放棄を決める期限より先に、申請の締切が来ます。

公費解体の相談で意外に多いのが、「そもそも相続するかどうかを決めていない」という状態です。壊れた家と、それに付いてくる負債や管理責任。相続放棄するかどうかを迷っているうちに、公費解体の受付が始まり、終わります。

相続放棄や限定承認は、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述するのが原則です(民法915条)。この期間を熟慮期間と呼びます。

大きな災害では、この期間が政令で延ばされることがあります。特定非常災害特別措置法に基づく指定で、令和8年熊本地震も2026年8月7日の政令で特定非常災害に指定されました。

法務省の案内によれば、延長後の熟慮期間の期限は2027年3月31日で、対象は災害発生日(2026年7月28日)に災害救助法が適用された市町村の区域に住所を有していた相続人です(法務省)。

ここで気づいてほしいのは、2つの期限の順番です。

期限(令和8年熊本地震・熊本市の例)
公費解体の申請期限2026年12月10日(不足書類は2027年2月28日)
相続放棄・限定承認の熟慮期間2027年3月31日

相続するかどうかを決める期限より先に、公費解体の申請期限が来ます。「放棄するか決めてから解体を考えよう」という順番だと、決めた時点で受付は終わっています。

相続放棄をすると、公費解体の申請者がいなくなります。
放棄した人は、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。相続人全員が放棄すれば、公費解体を申請できる所有者が誰もいない家が残ります。
逆に、放棄を考えている人が先に解体を申請すると、相続財産の処分として単純承認したものとみなされるおそれがあります(民法921条。保存行為は除かれますが、当てはまるかは個別の判断です)。
放棄を迷っている方は、公費解体の申請の前に、法テラスの災害ダイヤルや弁護士に順番を確認してください。

この記事は相続放棄を勧めるものではありません。「迷っている」という状態のまま時間が過ぎることが、いちばん選択肢を減らす。それだけを覚えておいてください。

順番を待っている間にできること

申請を出しても、すぐには回ってきません。その間にやっておくと後が早くなることがあります。

  • 家財を回収しておく……石川県の案内は「家財が大量に残置されることで、大幅に解体日数が長くなる可能性」があるとして、できるだけ家財を回収しておくことを求めています。安全が確保できる範囲で
  • 被害の写真を残す……り災証明の判定でも、自費で解体した場合の払い戻しでも使います
  • 戸籍を集め始める……相続人が誰なのかを確定させる作業は、いちばん時間がかかります。制度の締切より、こちらのほうが長い
  • 自費解体の扱いを先に確認する……自分で先に壊した場合でも費用を負担してもらえる仕組みがあります。ただし順序と書類が決まっているので、壊す前に必ず自治体に確認してください

先に自分で壊したときの払戻し(自費解体)

順番を待てず、先に自費で解体した場合の払戻しについては、環境省が別の手引きを出しています(第2版・令和8年7月)。読むときの要点は次のとおりです。

内容
払戻しの上限その建物を公費解体したと仮定して市町村が算定した額(基準額)。基準額は延床面積に市町村が定める構造別単価を掛けて算定するのが基本
自己負担業者への支払額が基準額を上回ると、差額が自己負担になることがある
写真解体前・解体中・解体後の写真。罹災証明書より先に壊した場合は、全壊・半壊の被害が分かる解体前の写真
書類契約書・見積書・内訳の写し、業者が作る解体証明書、廃棄物のマニフェスト伝票の写し(これが無いと処分料を償還に含められない)
権利関係抵当権などの担保物権が付いていないこと、差押えを受けていないことを確認される
期限業者といつまでに契約したものを対象とするかを要綱で定めている市町村がある

同意の集め方については、自費解体のほうがむしろ軽くなります。
すでに解体が終わっているため、所有権を持っていた全員の同意書や宣誓書がなくても償還して差し支えない、というのが手引きの整理です(市町村が提出を求めることは妨げられません)。
ただし、先に壊してしまうと払戻しの上限に縛られます。壊す前に窓口で確かめる順番は変わりません。

平時の空き家なら、除却補助金

災害でなくても、老朽化して危険な空き家の解体費用を補助している自治体があります。内容は自治体ごとにまるで違います。

参考として、熊本県八代市の「老朽危険空き家等除却促進事業」(市の公式ページ)を挙げます。

  • 上限60万円、補助対象経費に3分の2を乗じた額
  • 概ね1年以上空き家で、常時無人のまま管理されていないこと
  • 構造や設備が著しく不良で、倒壊や外装材の落下のおそれがあること
  • 事前調査を受けて対象と判定される必要がある
  • 申請できるのは所有者本人・相続権利者・管理者、および土地の所有者等
  • 市税を滞納していると使えない
  • 令和8年度は一次受付(抽選)が終了し、二次受付(6月1日〜9月末・先着順)の期間も過ぎました。市のページ(2026年6月2日更新)には終了の表示も令和9年度の予定も出ていないので、次の募集は市の担当課に確かめてください(八代市 老朽危険空き家等除却促進事業)

「先着順」という点に注意してください。予算の枠があるため、年度の途中で締め切られます。

それでも使えない・間に合わないとき

受付が終わっていた、対象外と判定された、そもそも補助を出していない自治体だった——どれも実際に起こります。

その場合でも、壊すことを前提にしない買い手を探すという道が残ります。訳あり不動産を扱う会社の中には、建物が建ったまま、家財が残ったままの現況で引き受けるところがあります。当社もその一つです。

ただし建物の状態や権利関係によって引き受けられないこともあるので、制度が使えるかどうかを先に確かめてからで遅くありません。

災害のあとは、被災した方に近づく事業者が増えます。
急かす、その場で契約を求める、根拠を示さずに金額だけを口頭で伝える——
そうした相手とは、その場で決めないでください。
まず自治体の窓口に相談し、制度を使えるかどうかを先に確かめる。それが順番です。

確かめる順番

  1. 建物の名義人を確認する(登記事項証明書か、固定資産税の課税明細で分かる)
  2. 名義人が故人なら、その日のうちに戸籍集めに着手する。ここが最も時間がかかる
  3. り災証明を申請する(判定が公費解体の前提になる)
  4. 市区町村の公式ページで公費解体の受付期間を確認する。まだ案内が出ていない自治体もある。申請期限のあとに不足書類の提出期限が別にあるかも聞く
  5. 担当課に建物の状態を伝えたうえで、「全員の同意が取れない場合の扱い」を聞く。建物性が失われていれば全員の同意は要らなくなり得る。宣誓書方式があるかどうかは自治体による
  6. 相続放棄を迷っているなら、申請の前に法テラスや弁護士に順番を確認する。放棄の期限より先に申請の締切が来る
  7. 待っている間に家財を回収し、写真を残しておく
  8. 平時の空き家なら、除却補助金の有無と締切を市区町村に聞く

2を後回しにしないでください。制度の要件を調べるより先に、名義がどうなっているかを確かめる。能登で起きたことは、順番を逆にすると間に合わない、ということでした。

石川県の空き家の事情は、石川県の訳あり不動産のページにまとめています。

よくある質問

石川県(能登)の公費解体は、いつまで申請できますか。

石川県の案内ページ(2026年10月7日更新)では、掲載されている16市町すべてが「受付終了」で、「多くの市町で申請期限を迎えています」とされています。この一覧は令和8年2月2日時点のものです。

期限後は「まずは各市町の窓口に相談してください」と案内されており、県の窓口は生活環境部資源循環推進課(076-225-1471)です。

公費解体は、どんなときに使えますか。

自然災害で被災した建物のうち、自治体が災害等廃棄物処理事業を実施すると決めた災害に限られます。

環境省の質疑応答集によれば、解体費の補助対象は原則としてり災証明書で「全壊」と判定された家屋で、特定非常災害に指定された災害では「半壊」(大規模半壊・中規模半壊・半壊)の家屋も対象になります。

平時の老朽空き家には使えず、その場合は自治体の除却補助金が別にあります。

名義人が亡くなっていても申請できますか。

環境省の質疑応答集は、公費解体の申請にあたって事前に相続登記の申請をする必要はない、としています。未登記の家屋の表題登記や、抵当権の抹消登記も同じく事前には求められません。

求められるのは登記を直すことではなく、誰が権利を持っているかの確認と、その人たちの同意です。建物が倒壊するなどして建物性が失われている場合は、相続人全員の同意書自体が不要になります。

公費解体のマニュアルはどこで読めますか。

環境省の災害廃棄物対策情報サイトで公開されています。2026年9月時点の最新版は「公費解体・撤去マニュアル」第7版(令和8年8月)です。

本編は自治体の担当者向けの事務手続きの文書で、住民が知りたい「これは対象になるのか」は別冊の質疑応答集にまとまっています。ほかに参考事例集、参照条文、自費解体・撤去(解体費用の立替えと払戻し)の手引き(第2版・令和8年7月)があります。

宣誓書方式とは何ですか。

共有者や相続人の意向を確認することが難しい場合に、所有権をめぐる争いが起きたら申請者の責任で解決するという書面を出して手続きを進める方式です。能登半島地震で使われ、現在は環境省のマニュアル第7版にも手順として整理されています。

同マニュアルによれば、能登では全体の約5%程度がこの方式によるもので、トラブル等は報告されなかったとされています。採るかどうかは市町村の判断なので、担当課に建物の状態を伝えて聞いてください。

申請してから解体まで、どれくらいかかりますか。

災害の規模と地域の事情によって大きく変わります。能登半島地震では、2024年5月末の時点で石川県の申請15,614件に対し完了は227件(約1.5%)でした。

2016年の熊本地震が5か月時点で14%だったのと比べても遅く、相続の未整理に加えて、道路の寸断や作業員の宿泊先不足も原因として挙げられています。

公費解体の申請は、いつまでに出せばいいですか。

受付の開始も締切も自治体ごとに決められ、同じ災害でも隣り合う市町で1か月以上ずれます。

令和8年熊本地震では、熊本市が2026年9月10日から12月10日、宇土市が9月14日から12月28日、氷川町が9月15日から2027年3月31日(当初12月25日から延長)、宇城市が9月24日から2027年1月29日、八代市が9月28日から2027年3月31日です。

締切だけで3か月半ちがいます。また、申請期限のあとに不足書類の提出期限を別に設けている自治体があります(熊本市は申請期限12月10日、不足書類は翌2027年2月28日まで)。

受付期間は数か月しかないことが多いので、物件がある市区町村の公式ページで日程を確認し、締切が2段階かどうかも担当課に聞いてください。

相続放棄するかどうか迷っています。公費解体との関係はありますか。

あります。相続放棄・限定承認の熟慮期間は原則3か月ですが、特定非常災害に指定された災害では政令で延ばされます。令和8年熊本地震では2027年3月31日まで延長されました(災害発生日に災害救助法の適用区域に住所があった相続人が対象)。

一方、公費解体の申請期限はそれより先に来ます。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされるので、全員が放棄すると申請できる人がいなくなります。

逆に、放棄を考えている人が先に解体を申請すると、相続財産の処分として単純承認とみなされるおそれがあります。放棄を迷っている方は、申請の前に法テラスの災害ダイヤルや弁護士に順番を確認してください。

解体を待っている間にできることはありますか。

家財の回収です。家財が大量に残っていると解体の日数が大幅に延びると石川県が注意喚起しています。安全が確保できる範囲で、貴重品や思い出の品を先に取り出しておくと、順番が回ってきたときに早く進みます。あわせて被害状況の写真を残しておいてください。

この記事の監修者

小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)

不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。

ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号

このような物件のご相談は、相続した空き家の買取相談のページへ。熊本県の窓口や制度は、熊本市・八代市の空き家・訳あり物件のページにもまとめています。

相続した家を、そのまま手放せるか

どこも引き受けない「訳あり不動産」を現況のまま買い取る、全国対応の買取再販会社です。

相続した空き家、ごみ屋敷、再建築不可、市街化調整区域、共有持分、未登記——他社で断られた物件こそご相談ください。全国対応です。

片付け・解体・測量の費用を、先にご負担いただく必要はありません。建物が建ったまま、家財が残ったままの現況で査定します。役所調査も現地確認も当社が行いますので、遠方にお住まいでも、現地に行かずに手続きを終えられます。

資料が手元になくても、物件の所在地さえ分かればお答えできます。

相続登記が終わっていなくても、名義が複数でもご相談いただけます。順番は当社でご案内します。

お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp

ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

目次