共同相続した不動産を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。兄弟のうち1人でも反対したり連絡が取れなかったりすると、そこで手続きが止まります。この記事では、同意が取れないときに1人でできること、止まっている理由ごとの対処、そして話し合いが本当に止まる原因である「費用の負担」の決め方を整理します。
「売る・売らないで兄弟の意見が合わない」「連絡先が分からない相続人がいる」というご相談は、訳あり不動産の現場では珍しくありません。

なぜ1人では売れないのか
相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで不動産は相続人全員の共有になります。共有物を売るという行為は「変更(処分)」にあたり、共有者全員の同意が必要とされているためです(民法251条)。
持分が10分の1でも9分の1でも、同意という点では同じ重さを持ちます。「自分が一番多く持っているから決められる」ということにはなりません。
共有(きょうゆう) — 1つの不動産を複数人で所有している状態。それぞれが持つ割合を持分(もちぶん)といいます。登記簿には「持分3分の1 ◯◯」のように記載されます。
一方で、何もかもが全員一致でなければ決められないわけではありません。2023年4月1日に施行された改正民法では、共有物の使用・管理のルールが整理され、軽微な変更や管理にあたる行為は持分の過半数で決められることが明確になりました(民法252条)。この過半数は人数ではなく、持分の割合で数えます。
止まっている理由を3つに分ける
「同意が取れない」とひとことで言っても、中身はまったく違います。ここを分けずに手段だけを探すと、遠回りになります。
| 止まっている理由 | 起きていること | 向かう先 |
|---|---|---|
| 反対されている | 売却そのものに納得していない、金額に不満がある | 話し合い、遺産分割調停、共有物分割請求 |
| 連絡が取れない | 住所が分からない、手紙を出しても返事がない | 戸籍・住民票での追跡、所在等不明共有者の制度 |
| 判断能力の問題 | 認知症などで意思表示が難しい | 成年後見制度の検討(家庭裁判所) |
判断能力が低下している方に代わって、家族が勝手に署名・押印をすることはできません。後から売買そのものが無効になるおそれがあります。「本人の名前で書けばよい」と考えないことが大切です。この場合は家庭裁判所での手続きが必要になるため、司法書士・弁護士へご相談ください。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
1人でもできる2つのこと
全員の同意が取れないまま動けるのは、次の2つです。どちらも権利として認められています。
- 自分の持分だけを売る — 持分は各共有者が自由に処分できます。他の共有者の同意は要りません
- 共有物の分割を請求する — 共有者はいつでも分割を請求できます(民法256条)。協議がまとまらなければ裁判所の手続きに進みます
ただし、どちらも良いことばかりではありません。
| 持分だけを売る | 共有物分割を請求する | |
|---|---|---|
| 相手の同意 | 不要 | 不要(ただし手続きに巻き込む) |
| かかる時間 | 比較的短い | 協議・調停・訴訟と進むと年単位になることがある |
| かかる費用 | 売主側の負担は少ない | 弁護士費用・裁判費用がかかる |
| 手残り | 不動産全体を売る場合より少なくなりやすい | 分割の方法によって変わる |
| 人間関係 | 第三者が共有者に加わり、関係が悪化しやすい | 争いとして表面化する |
持分だけの売却は、話し合いが完全に行き詰まったときの最後の手段と考えるのが現実的です。全員で1つの不動産として売るほうが、結果として手残りが多くなる傾向があります。持分そのものの扱いは共有持分の売却の記事でも整理しています。
なお、遺産分割がまだ済んでいない段階(遺産共有)では、まず家庭裁判所の遺産分割手続で決めるのが原則です。共有物分割請求とは入口が違うため、どちらの手続きに乗るのかは専門家に確認してください。
連絡が取れない相続人がいる場合
長く放置された空き家では、相続人が10人以上に増えていることがあります。会ったこともない親族が共有者になっている、という状態です。
2023年4月1日に施行された改正民法では、この行き詰まりに対応する制度が設けられました。
所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(民法262条の2、262条の3)共有者を知ることができない、または所在が分からない場合に、裁判所の決定によって、その持分を他の共有者が取得したり、不動産全体を第三者へ譲渡したりできる制度です。裁判所への申立てと、その持分に相当する金銭の供託が必要になります。
この制度は「連絡がつきにくい」だけでは使えません。戸籍や住民票をたどっても所在が判明しないことが前提です。まずは戸籍の附票などで住所を追う作業から始めることになります。手続きは司法書士・弁護士へご相談ください。
揉める原因は、金額より「費用の負担」

兄弟の話し合いが止まる理由は、「いくらで売るか」よりも「先に出ていくお金を誰が出すか」であることが多くあります。実際、当社に届くご相談でも、価格の希望より先に「解体費が出せない」「片付けの費用が出せない」という話が出てきます。
先に出ていくお金には、次のようなものがあります。
| 出ていく費用 | 誰が負担するかで揉めやすい理由 |
|---|---|
| 残置物の片付け | 実家の場合、量が読めず見積もりが膨らみやすい |
| 建物の解体 | 金額が大きい。売れる保証がないまま先に出すことになる |
| 相続登記の費用 | 手続きを進める人だけが負担しがち |
| 固定資産税 | 納税通知書は代表者1人に届くため、その人だけが払い続けている状態になりやすい |
| 遠方への交通費 | 現地に近い人だけが繰り返し足を運ぶことになる |
- 誰か1人が費用を立て替え、「あとで精算する」と決めないまま進める
- 片付けや解体を先に済ませてから、売り先を探す
- 固定資産税を毎年1人が払い続けているのに、その分担を話題にできないままにする
立て替えた人の負担感が積み上がると、金額の話に入る前に感情の問題になります。だからこそ、費用の負担を先に決めるか、そもそも先に費用が出ていかない売り方を選ぶかのどちらかを、早い段階で決めておくと話が進みやすくなります。
先に済ませておくと選択肢が残ること
話し合いが長引きそうなときほど、次の2つは先に手を付けておくことをおすすめします。どちらも期限があるためです。
1. 相続登記
2024年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務づけられました。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象になります。遺産分割がまとまらない場合でも、相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」という簡易な手続きで、いったん義務を果たすことができます。
2. 相続開始から10年の期限
相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分での分割になります(民法904条の3)。「親の介護をしたのは自分だ」「兄は生前に援助を受けている」といった事情を反映させたいのであれば、10年以内に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしておく必要があります。
この10年の期限は、2023年4月1日より前に発生した相続にも適用されます(経過措置あり)。「昔の相続だから関係ない」とは限りません。具体的な期限の計算は税理士・弁護士へご確認ください。
3. 相続人が増える前に決めること
話し合いが長引いている間に相続人の1人が亡くなると、その方の配偶者や子が新たに相続人として加わります。これを数次相続といい、合意を取る相手がひと世代分まとめて増えることになります。放置した結果として名義が何十年も動いていない場合の進め方は、未分割のままの不動産を売る手順の記事にまとめています。
なお、相続した空き家の売却全体の流れは別の記事にまとめています。実家をどう畳むかという段取りから考えたい場合は、実家じまいの記事も合わせてご覧ください。
現況のまま、費用を出さずに進める道
当社は訳あり不動産を自社で買い取っています。共同相続の物件でご相談をいただく際に、実務として見ているのは次の点です。
- 相続登記が済んでいるか、共有者が誰かが確定しているか
- 建物の状態と築年数
- 残置物がどの程度あるか(片付けは当社で行うため、量の把握のためです)
- 再建築ができるか(接道の状況、市街化調整区域かどうか)
調査は当社で行います。売主に役所や法務局へ足を運んでいただく必要はありません。また現況のままでお受けするため、片付け・解体・測量をしていただく必要もありません。「片付けの費用を誰が出すか」で止まっている話し合いであれば、その論点自体を外せる場合があります。
ただし、どのようなご相談でもお引き受けできるわけではありません。ご希望額との開きが大きい場合、費用のご負担にご同意いただけない場合、そして相続人の間で売却の合意ができていない場合は、成立しないことがあります。共有者全員の同意が必要という点は、買主が誰であっても変わりません。
まだ合意ができていない段階でも、ご相談いただくことに意味はあります。「この物件を現況のまま手放すとどうなるか」が分かれば、兄弟で話し合う際の材料になるためです。金額と条件がはっきりしないまま話し合っても、結論は出にくいという状態を先に解消できます。
再建築ができない、市街化調整区域にある、残置物が大量に残っているといった事情が重なっていても、それだけを理由に取扱いの対象外とはしていません。ごみ屋敷の売却や再建築不可物件の売却のように、事情が重なった物件を専門に扱っています。
税務や相続手続きの具体的な判断については、税理士・司法書士・弁護士へご確認ください。当社は不動産の取扱いの部分についてお答えします。
よくある質問
兄弟の1人が反対しています。それでも売れますか?
不動産そのものを売るには共有者全員の同意が必要なので、そのままでは売れません。ただし自分の持分だけを売ることや、共有物分割を請求することは1人でもできます。まだ遺産分割が済んでいない段階であれば、家庭裁判所の遺産分割調停という道もあります。進め方は弁護士・司法書士へご相談ください。
連絡が取れない相続人がいます。どうすればよいですか?
反対されている場合とは対処が異なります。2023年4月1日施行の改正民法では、所在等が分からない共有者の持分を、裁判所の決定によって他の共有者が取得したり第三者へ譲渡したりできる制度が設けられました(民法262条の2、262条の3)。まずは戸籍と住民票で追跡し、それでも分からない場合に検討する流れになります。
話し合いが長引いています。急いだほうがよい理由はありますか?
相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分での分割になります(民法904条の3)。また相続登記は、取得を知った日から3年以内の申請が義務づけられています。どちらも早く動くほど選択肢が残ります。
片付けや解体の費用を、誰が出すかで揉めています。
共同相続の話し合いで最も止まりやすいのがここです。費用を誰かが立て替える形にすると、その人の負担感が強くなり合意が遠のきます。現況のまま買い取る会社に相談すれば、片付けや解体を売主側で行わずに済む場合があり、負担の分け方を決めずに前へ進められることがあります。
自分の持分だけを売ると、他の兄弟に迷惑がかかりますか?
法律上は持分の処分は自由ですが、見ず知らずの第三者が共有者に加わることになるため、関係が悪化する可能性はあります。持分の売却は、話し合いが完全に行き詰まったときの最後の手段と考え、先に全員での売却を試すほうが結果的に手残りが多くなる傾向があります。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
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お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp
ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

