浸水した家のり災証明は、被害の程度によって使える支援が変わります。ところが水害には、地震と決定的に違う点があります。証拠が先に消えるのです。水は引き、泥は片付き、壁は乾く。この記事では、片付ける前に何をしておくべきかを整理します。
証拠が消える順番

地震なら、壊れた状態がしばらく残ります。倒れた壁も、落ちた瓦も、そこにある。
浸水は違います。数日で水が引き、泥を片付け、数週間で乾きます。見た目が戻ってしまう。床下の泥や断熱材の吸水は外から見えないため、軽く判定されやすくなります。
り災証明の申請には、何を撮ればいい?
建物の全体と被害の箇所別のカラー写真、そして定規などを壁に当てて撮った、浸水の高さが分かる写真です。
自治体の案内は具体的です。佐倉市は、り災証明の申請に次を求めています。
- 被害物件の全体が分かるカラー写真
- 被害の箇所別のカラー写真
- 浸水被害の場合は、定規などを壁にあてて撮影した、浸水の高さがわかる写真
「定規を壁に当てる」という一点が、判定を左右します。
どこまで水が来たかを、あとから示す手段はこれしかありません。
メジャーでも、新聞紙でも、身近なもので構いません。高さが分かる形で撮ることです。
そして同市は、こう書いています。
家屋などを修繕する前に、被害状況のわかる写真を撮っておいてください。
片付けるなという意味ではありません。片付けは必要です。その前に記録を残す、ということです。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
撮り方の実務
- 建物の外観を、四方から(浸水の跡が外壁に残っていることがあります)
- 各部屋の全体(どこまで水が来たかが分かる引きの写真)
- 定規を壁に当てて、浸水の高さ(部屋ごとに)
- 床下(点検口が開けられれば。泥が入っているかどうか)
- 水回りと設備(給湯器、エアコンの室外機、ブレーカー、床下の断熱材)
- 被害を受けた家財(家電、畳、家具)
日付が分かる形で残してください。撮影日時が記録されるスマートフォンで撮るのが確実です。
被害の程度は、どう区分される?
全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・準半壊に至らない一部損壊の6区分です。内閣府の災害に係る住家の被害認定基準運用指針に沿って、住家の損害割合をもとに市町村が判定します。
| 区分 | 住家の損害割合 |
|---|---|
| 全壊 | 50%以上 |
| 大規模半壊 | 40%以上50%未満 |
| 中規模半壊 | 30%以上40%未満 |
| 半壊 | 20%以上30%未満 |
| 準半壊 | 10%以上20%未満 |
| 準半壊に至らない(一部損壊) | 10%未満 |
水害では、地震にはない被害が考慮されます。
- 内壁や断熱材が水を吸っている
- 床下に泥が入っている
- 水回りが吸水や泥で汚れて使えなくなっている
これらは外から見えません。だから写真が要ります。
浸水の高さで、区分はどう変わる?
木造戸建ての第1次調査では、床上1.8m以上で大規模半壊、床上1m以上1.8m未満で中規模半壊、床上0.1m以上1m未満で半壊、床下浸水なら一部損壊です。
「定規を当てて撮る」がここまで言われる理由は、指針を読むと分かります。
木造・プレハブの戸建て(1〜2階建て)は、まず第1次調査にかけられます。流失や倒壊が一見して明らかな場合は外観だけで「全壊」ですが、そうでなければ、浸水深だけで区分が決まります。
| 浸水の深さ | 第1次調査での判定 |
|---|---|
| 床上1.8m以上 | 大規模半壊(損害割合40%以上) |
| 床上1m以上1.8m未満 | 中規模半壊(30%以上) |
| 床上0.1m以上1m未満 | 半壊(20%以上) |
| 床上0.1m未満 | 準半壊(10%以上) |
| 床下浸水 | 準半壊に至らない(一部損壊)(10%未満) |
数センチの差が、区分をひとつ動かすことがあります。
「床上0.1m」は、巾木(床際の細い板)の高さを目安に置かれた線です。
指針は、内壁に巾木の汚損以外の損傷が生じていると判断できる場合には、
床上浸水であれば「半壊」と判定して差し支えない、としています。
津波や川の氾濫に伴う水流・がれきの衝突などで外壁と建具が壊れている場合は、別の表が使われます。同じ床上1.8m以上でも、この場合は「全壊」です。
| 浸水の深さ | 外壁・建具が破壊されている場合の判定 |
|---|---|
| 床上1.8m以上 | 全壊(50%以上) |
| 床上1m以上1.8m未満 | 大規模半壊(40%以上) |
| 床上0.5m以上1m未満 | 中規模半壊(30%以上) |
| 床上0.5m未満 | 半壊(20%以上) |
| 床下浸水 | 一部損壊(10%未満) |
戸建ての1〜2階建て以外(マンションや3階建てなど)は、第1次調査を飛ばして第2次調査から始まります。
浸水深だけでは決まらず、部位ごとの損傷を積み上げて損害割合を出す方法になります。
そのうえで、指針にはこう書かれています。
浸水深は玄関内、掃き出し窓等の浸水痕により測定することが考えられる。
スマートフォン等の撮影画像から算出した浸水深を用いることも可能。
痕が消えても、写真に残っていれば測れる、ということです。逆に言えば、写真が無ければ測るものがありません。
地震と水害で、何が違うか
| 地震 | 水害 | |
|---|---|---|
| 証拠 | 壊れた状態がしばらく残る | 数日〜数週間で消える |
| 見えない被害 | 基礎や柱の損傷 | 床下の泥、断熱材や内壁の吸水 |
| 判定の材料 | 現地調査で見て分かる | 写真がないと示せない |
| 急ぐこと | 安全の確保 | 安全の確保+記録を残すこと |
「片付ける前に撮る」が水害だけで強く言われるのは、この違いのためです。
判定に納得できないときは、どうすればいい?
第1次調査の結果で終わりではありません。指針は、被災者から申請があった場合に第2次調査を行う流れを定めています。第2次調査は、浸水深ではなく基礎・外壁・内壁・床・建具・設備といった部位ごとの損傷を見て、損害割合を積み上げる方法です。床下に入った泥や、断熱材・内壁の吸水が効いてくるのは、この段階です。
さらに第2次調査の結果にも納得できない場合、再調査を依頼できます。指針は、依頼の内容を精査したうえで必要に応じて再調査を実施する、としています。
ただし、どの段階でも、片付けや修繕が進んでいるほど当初の被害は示しにくくなります。
第2次調査は部位ごとの損傷を見る調査です。直したあとでは、見るものが残っていません。
市区町村の窓口に、第2次調査と再調査の申請方法・期限を確認してください。
区分がひとつ動くと、金額が変わる
「被害の程度で使える支援が変わる」とは、具体的にこういうことです。
被災者生活再建支援金の支給額は、内閣府の被災者生活再建支援制度の概要に次のように示されています(世帯人数が1人の場合は、各欄の4分の3)。
| 住宅の被害程度 | 基礎支援金 | 加算支援金(補修する場合) |
|---|---|---|
| 全壊/やむを得ず解体/長期避難 | 100万円 | 100万円 |
| 大規模半壊 | 50万円 | 100万円 |
| 中規模半壊 | なし | 50万円 |
| 半壊以下 | なし | なし |
建て替え・購入を選ぶ場合の加算支援金は、全壊・大規模半壊で200万円、中規模半壊で100万円。賃借(公営住宅を除く)は50万円・25万円です。
災害救助法の住宅の応急修理は、もう少し軽い区分から使えます(災害救助法が適用された市町村で、自ら修理する資力がない世帯などが対象)。
- 大規模半壊・中規模半壊・半壊(半焼)の世帯 — 75万7千円以内
- 準半壊の世帯 — 36万7千円以内
「床下浸水」と「床上0.1m」の間に、この差があります。
期限と、前提があります。
被災者生活再建支援金の申請期間は、基礎支援金が災害発生日から13か月以内、加算支援金が37か月以内とされています。
また、この制度が使えるのは10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等で起きた災害に限られます。
すべての浸水被害で支援金が出るわけではありません。使える制度は災害ごと・自治体ごとに変わるため、まず窓口で確認してください。
解体の話になるのは、一部です
浸水した家の多くは、解体ではなく修繕と支援制度の話になります。公費解体は原則として半壊以上が対象であり、床上浸水のすべてが対象になるわけではありません。
まず、り災証明の区分を確定させること。そこから使える制度が決まります。公費解体が対象になる場合の進め方は公費解体は相続が壁になるにまとめました。
災害のあとは、被災した方に近づく事業者が増えます。
急かす、その場で契約を求める、根拠を示さずに金額だけ伝える、
契約前に費用を求める——こうした相手とは、その場で決めないでください。
まず自治体の窓口に相談し、使える制度を先に確かめる。それが順番です。
空き家や別荘が浸水した場合も、支援金は受けられる?
受けられません。被災者生活再建支援制度は、被災時に現に居住していた世帯が対象とされているためです。住んでいなかった建物は、扱いが変わります。
内閣府の被災者支援に関する各種制度の概要(令和8年6月1日現在)は、被災者生活再建支援制度について
「被災時に現に居住していた世帯が対象となりますので、空き家、別荘、他人に貸している物件などは対象になりません」と明記しています。
また、居住用でない建物については、り災証明ではなく「被災証明」を交付するとしている自治体もあります(京都市など)。
それでも、記録を残す意味はなくなりません。火災保険や共済の請求、公費解体の可否、税の減免の相談——どれも被害の程度を示すところから始まります。住んでいない家であっても、片付ける前に撮っておいてください。
手放すことを考える場合
修繕の費用が出せない、遠方に住んでいて管理できない——そうした事情で手放すことを考える場合、知っておいていただきたいことが2つあります。
1つは、浸水の事実を買主に伝える必要があること。民法572条により、売主が知りながら告げなかった事実については、契約不適合責任を負わない特約をしていても責任を免れられません。黙って売ると、後から返ってきます。
もう1つは、それでも売れるということ。宅地建物取引業法施行規則の改正により、2020年8月28日から水害ハザードマップ上の物件の位置を重要事項として説明することが義務づけられています。つまり水害リスクは、取引の前提として扱われるようになっています。伝えたうえで価格に反映する、という形が実務として成立しています。
修繕してから売る必要もありません。現況のまま引き受ける買い手であれば、費用を先に負担せずに済みます。考え方は現況渡しとはにまとめました。
いまやること
- 片付ける前に写真を撮る(全体・箇所別・定規を当てた浸水の高さ)
- 市区町村の窓口で、り災証明の申請方法と期限を確認する
- 判定に納得できなければ、第2次調査を申請する(さらに再調査も依頼できる)
- 区分が確定してから、使える支援制度と申請期限を確認する
- 手放すことを考える場合も、り災証明を先に取っておく
1が最優先です。制度を調べるのは後からでもできますが、写真は今しか撮れません。
よくある質問
り災証明の申請に写真は必要ですか。
自治体によりますが、必要とされることが多くあります。たとえば佐倉市は「被害物件の全体及び被害の箇所別」のカラー写真を求めており、浸水被害の場合は「定規などを壁にあてて撮影した、浸水の高さがわかる写真」が必要としています。まず、ご自身の市区町村の案内を確認してください。
片付けてから申請してもいいですか。
片付ける前に撮ってください。佐倉市は「家屋などを修繕する前に、被害状況のわかる写真を撮っておいてください」と案内しています。水が引き、泥を片付け、壁が乾くと、どれだけの被害だったかを示す手段が失われます。片付け自体は必要ですが、その前に記録を残してください。
被害の程度はどう区分されるのですか。
住家の損害割合により、全壊(50%以上)、大規模半壊(40%以上50%未満)、中規模半壊(30%以上40%未満)、半壊(20%以上30%未満)、準半壊(10%以上20%未満)、準半壊に至らない一部損壊(10%未満)の6区分に分かれます。内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」に沿って市町村が判定します。
床下浸水でもり災証明は取れますか。
申請自体はできますが、区分は「準半壊に至らない(一部損壊)」になるのが原則です。運用指針の第1次調査では、木造・プレハブの戸建て(1〜2階建て)について、床下浸水は損害割合10%未満とされています。床上0.1m以上1m未満なら半壊、床上1m以上1.8m未満なら中規模半壊です。数センチの差が区分を動かすため、浸水の高さが分かる写真を残してください。
判定に納得できない場合はどうすればいいですか。
運用指針は、被災者から申請があった場合に第2次調査を行う流れを定めています。第2次調査は浸水深ではなく、基礎・外壁・内壁・床・建具・設備など部位ごとの損傷から損害割合を積み上げる方法です。さらに納得できない場合は再調査を依頼できます。ただし片付けや修繕が進むほど当初の被害は示しにくくなるため、最初の写真が重要になります。
空き家や別荘が浸水した場合も支援金は受けられますか。
被災者生活再建支援金は受けられません。内閣府の資料は「被災時に現に居住していた世帯が対象となりますので、空き家、別荘、他人に貸している物件などは対象になりません」としています。また居住用でない建物は、り災証明ではなく被災証明の扱いとする自治体もあります。ただし保険の請求や公費解体の可否は被害の程度が起点になるため、記録は残してください。
浸水した家を売るとき、その事実は伝える必要がありますか。
伝えてください。民法572条により、売主が知りながら告げなかった事実については、契約不適合責任を負わない特約をしていても責任を免れられません。また宅地建物取引業法施行規則の改正により、2020年8月28日から、水害ハザードマップ上の物件の位置を重要事項として説明することが義務づけられています。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
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ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

