表題部所有者不明土地という言葉は聞き慣れないと思います。登記簿の表題部にある「所有者」の欄に、氏名や住所が書かれていない土地のことです。「氏名なし」「共有者何名」「大字○○」——そんな記録のまま、明治期から百年以上そのままになっている土地が全国にあります。この記事では、なぜそうなるのか、どう確かめるのか、売るには何が要るのかを整理します。
何が「不明」なのか
条文の定義はこうです。
第二条 この法律において「表題部所有者不明土地」とは、所有権(その共有持分を含む。次項において同じ。)の登記がない一筆の土地のうち、表題部に所有者の氏名又は名称及び住所の全部又は一部が登記されていないもの(後略)
ポイントは2つあります。所有権の登記が一度もされていないこと。そして表題部の所有者欄が埋まっていないことです。
登記簿は「表題部」と「権利部」に分かれています。
表題部は土地の物理的な情報(所在・地番・地目・地積)と、最初の所有者。
権利部は所有権や抵当権といった権利の記録です。
表題部所有者不明土地は、権利部そのものが存在しない状態です。

どう記録されているか
記録のされ方は大きく3つに分かれ、それぞれに呼び名が付いています。
| 表題部の所有者欄 | 呼び方 | 内訳の目安 |
|---|---|---|
| 氏名だけで住所が無い(単有・共有) | — | 約85% |
| 「大字○○」など地区の名前 | 字持地(あざもちち) | 約11% |
| 「A外○名」など人数だけ | 記名共有地 | 約4% |
いちばん多いのは住所が書かれていない型です。氏名はあるのに住所が無いため、戸籍や住民票から同姓同名の誰なのかをたどる手がかりがありません。
所有者欄がまるごと空欄のものも、氏名と住所の全部が登記されていないものとして対象に含まれます(同法2条1項)。
規模も分かっています。平成29年9月から平成30年5月にかけて全国の約50万筆を調べた結果、約1%がこの状態でした。珍しい話ではありますが、自分だけの特殊事情ではありません。
内訳の目安は法務省「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の概要」より。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
なぜ、そんな土地が残っているのか
明治時代の地租改正で作られた土地台帳の記載が、そのまま登記簿に引き継がれたことが原因です。当時は集落や共同体の名義で記録されたものもあり、個人が特定できる形になっていません。
- 「共有者何名」とだけ書かれ、名前が無い
- 大字や集落の名前だけが書かれている
- 氏名はあるが住所が無い
所有者に落ち度はありません。そして、代々受け継がれてきた土地なのに、書類の上では誰のものか確定していない、という状態が続いてきました。
そのままでは、売買も担保設定もできない
所有権の登記名義人がいないため、所有権移転の登記ができません。登記ができなければ売買は成立せず、金融機関の担保にもなりません。
固定資産税は現に使っている方や相続人が課税されていることが多いため、負担だけは発生しているのに、動かすことはできないという形になります。
2019年に、探すための制度ができました
長く放置されてきたこの問題に対して、2019年(令和元年)に特別措置法ができました。「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」(令和元年法律第15号)です。所有者を探す仕組みは令和元年11月22日から、探しても分からなかった土地を管理する仕組みは令和2年11月1日から動いています(法務局)。
第三条 登記官は、表題部所有者不明土地(中略)について、当該表題部所有者不明土地の利用の現況、(中略)その他の事情を考慮して、表題部所有者不明土地の登記の適正化を図る必要があると認めるときは、職権で、その所有者等の探索を行うものとする。
——同法第3条第1項
所有者からの申請で始まる制度ではありません。登記官が職権で始めます。
探索には所有者等探索委員が加わり、登記官には調査の権限が与えられています。
探索を始める前には公告されます(同条2項)。
探索の結果、登記官が所有者を特定できれば、元の表題部所有者の登記は職権で抹消され、特定された人の氏名・住所が表題部所有者として登記されます(同法14条・15条)。登記をしたあとは、その旨が公告されます(同法16条)。
登記官に与えられている調査の権限は、条文で具体的に決まっています。
| できること | 条文 |
|---|---|
| 土地やその周辺の実地調査 | 同法5条 |
| 所有者・占有者などの関係者から事実を聴く/資料の提出を求める | 同法5条 |
| 必要な限度で他人の土地に立ち入る(占有者へ事前に日時・場所を通知) | 同法6条 |
| 市区町村などに所有者の情報の提供を求める | 同法8条 |
所有者等探索委員は、必要な知識と経験を持つ人から法務局長が任命する非常勤の委員で、任期は2年です(同法9条)。調査を終えると登記官に意見を出します(同法13条)。
自分の土地も、探索してもらえるのか
ここがいちばん聞かれるところです。探索は1筆ずつではなく、地域をまとめて選んで行われます。条文が挙げている考慮事情は次のとおりです(同法3条1項)。
- その土地の利用の現況
- 周辺地域の自然的社会的諸条件
- その地域における他の表題部所有者不明土地の分布状況
実際の運用では、地方公共団体等の要望等を踏まえて探索が行われている、と国土交通省の資料に書かれています。道路や公共事業の用地買収で支障になっている地区から進みやすい、ということです。
どの地域で探索しているかは、各法務局のサイトで公表されています。たとえば東京法務局・名古屋法務局は「あらかじめ定めた選定基準に基づいて選定」した実施地域を載せています(東京法務局/名古屋法務局)。土地のある地域を管轄する法務局のページを見れば、対象に入っているかの見当がつきます。対象地域では、法務局の職員や所有者等探索委員から、土地の所有者や周辺の住民に情報の提供をお願いすることがあるとも書かれています。
- 探索を始める公告があったら、利害関係人として登記官に意見や資料を提出できます(同法4条)。古い権利証、集落の名簿、課税の記録などが手がかりになります
- 公告の前でも、地番を持って管轄の法務局に相談することはできます
期間の見通しは立てにくい制度です。国土交通省のサイトに載っている事例では、市の全面的な協力もあって表題部所有者の特定まで約3か月でしたが、これは1つの事案の例です。残っている資料の量によって大きく変わります。
また、その土地の権利関係について訴訟が係属しているときなどは、登記官が手続きを中止できるとされています(同法17条)。中止したときも、その旨が公告されます。
特定されたあと、売るまでに要る登記
見落としやすい点があります。表題部所有者が登記されても、権利部はまだ空のままだということです。売買による所有権移転を登記するには、その前に所有権保存登記(権利部を開く最初の登記)が要ります。
申請できる人は法律で決まっています。
第七十四条 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。
一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
つまり、表題部所有者として登記された人か、その相続人であれば、自分で所有権保存登記を申請して売買へ進めます。相続人が申請する場合は、相続を証する戸籍などが必要です。
登録免許税は不動産の価額の1000分の4です(登録免許税法別表第一 一(一))。価額が100万円とされれば4,000円が目安になります。登記の具体的な進め方と費用は、司法書士にご確認ください。

探しても分からなかったとき
それでも特定できない場合は「所有者等特定不能土地」として登記されます。ここで手が止まるわけではありません。
第十九条 裁判所は、所有者等特定不能土地について、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、(中略)特定不能土地等管理者による管理を命ずる処分(中略)をすることができる。
裁判所が管理者(特定不能土地等管理者)を選任し(同法20条)、その管理者を通じて管理や処分を進める道が用意されています。申立先は、その土地の所在地を管轄する地方裁判所です(同法31条)。時間はかかりますが、永久に動かせない土地ではありません。
ただし、ここから先は自分の手を離れます。
– 土地を管理し処分する権利は管理者に専属します(同法21条1項)。保存行為などの範囲を超える行為には、そのつど裁判所の許可が要ります(同条2項)
– 管理者が売却などで得た金銭は、所有者のために供託することができるとされています(同法28条1項)。申立てをした人が代金を受け取る仕組みではありません
– 管理者の費用の前払いと報酬は、裁判所が定めた額をその土地などから受け取ります(同法27条1項)
自分がその土地の所有者だと証明できる場合は、話が変わります。
所有権が自分に帰属することを証明したときは、その人の申立てにより、裁判所は管理命令を取り消さなければならないとされています(同法29条2項)。古い権利証や課税の記録が残っていないか、先に探す価値があります。
なお、探索の結果「集落のような法人でない社団のものだと分かったが、代表者も選ばれておらず構成員も特定できない」という土地は「特定社団等帰属土地」として扱われ、同じように管理者を選任できます(同法30条)。字持地で起きやすい形です。
登記の所有者欄に氏名がない土地について、手放せるかを知りたいときは、所在地と地番をお知らせください。引き受けられるかは、土地ごとに確認してお答えします。
確かめる順番
- 登記事項証明書を取る(法務局の窓口かオンライン。地番が分かれば誰でも取れます)
- 表題部の「所有者」欄を見る。氏名と住所が両方あれば該当しません
- 欄が空、氏名だけ、地区名だけ——のときは、地番を持って法務局に相談する
- 探索が始まっているか、始められるかを聞く
- 特定不能と登記されている場合は、管理者の選任を検討する
2で終わることが大半です。「もしかして」と思ったら、まず登記を見てください。
当社は訳あり不動産を現況のまま扱っています。登記が整っていない土地についても、整えてから持ってきていただく必要はありません。ただし表題部所有者不明土地は、所有者の確定に時間がかかるため、すぐに売買へ進めないことがあります。まず所在地と登記の状況をお知らせいただければ、何が要るかを整理してお答えします。
同じように登記が現実に追いついていない物件については、未登記建物の売却や地図混乱地域の土地の売却、未登記・私道・境界の買取相談もご覧ください。
よくある質問
表題部所有者不明土地とは、どういう土地ですか。
所有権の登記が一度もされていない土地のうち、表題部の所有者欄に氏名や住所の全部または一部が書かれていないものです(表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律2条1項)。「氏名なし」「共有者何名」「大字○○」といった記録のされ方をしています。明治期の土地台帳の記載がそのまま引き継がれたものが大半です。
自分の土地がそれに当たるか、どうすれば分かりますか。
登記事項証明書を取り、表題部の「所有者」欄を見てください。氏名と住所が両方書かれていれば該当しません。空欄だったり、氏名だけ・地区名だけだったりする場合は該当する可能性があります。法務局の窓口で地番を伝えて聞くこともできます。
そのままでは売れないのですか。
所有権の登記名義人がいないため、そのままでは所有権移転の登記ができず、売買が成立しません。担保に入れることもできません。まず所有者を確定させて登記する必要があります。
所有者を探す手続きは、誰が申し込むのですか。
同法3条により、登記官が職権で探索を始めます。所有者からの申請で始まる仕組みではありません。ただし法務局に事情を伝えることはできますので、地番を持って相談してください。探索が始まる前に公告されます。
表題部所有者が登記されれば、すぐ売れますか。
もう一段あります。表題部所有者の登記だけでは権利部が空のままなので、売買による所有権移転を登記する前に所有権保存登記が必要です。申請できるのは表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人に限られます(不動産登記法74条1項1号)。登録免許税は不動産の価額の1000分の4です。具体的な手続きは司法書士にご確認ください。
探しても所有者が分からなかった場合はどうなりますか。
「所有者等特定不能土地」として登記されます。その場合、同法19条により利害関係人の申立てで裁判所が管理者を選任でき、20条で選ばれた管理者を通じて管理や処分を進める道があります。時間はかかりますが、動かせない土地ではありません。
この記事の監修者
登記や境界が整っていなくても、売れるか
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測量や登記を先にしていただく必要はありません。現況のまま確認します。
お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp
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