現況渡しは、片付けも修繕もせずに、いまある状態のまま引き渡す売り方です。残置物が残っていても、雨漏りがあっても、そのまま渡します。「現状渡し」「現況有姿(現状有姿)渡し」と書かれることもありますが、指しているものは同じです。売主にとっては費用をかけずに手放せる方法ですが、「渡してしまえば後は関係ない」というわけではありません。この記事では、特約で消せるものと、消せないものを条文で切り分けます。
現況渡しにすると、何が変わる?
変わるのは売主が引き渡し前に費用をかけるかどうかです。片付けも修繕もしない代わりに、価格はその状態を反映したものになります。
- 残置物を撤去しない
- 傷んだ設備を直さない
- ハウスクリーニングもしない
- そのぶん、価格は状態を反映したものになる
買主はその状態を見たうえで価格を判断します。片付けや修繕にかけた費用が価格に上乗せできるとは限らないので、ごみ屋敷の売却のように残置物が多い物件では、現況渡しのほうが手残りが大きくなることがよくあります。
契約不適合責任は、特約で免責できる?
できます。個人が売主の中古住宅では、免責の特約を付けることが実際によく行われています。ただし売主が宅地建物取引業者や事業者の場合は、特約の効き方が制限されます。
そもそも、引き渡した物が契約の内容に合っていないとき、売主は責任を負います。
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
追完のほかに、代金の減額、損害賠償、契約の解除も求められます。2020年の民法改正前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものです。
この責任は、当事者の合意で負わない形にできます。それが免責の特約です。
「現況渡し」と「責任を負わない特約」は別のものです
ここは混同されやすいところです。現況渡しは「どんな状態で引き渡すか」の取り決めで、免責の特約は「引き渡した後に不適合が見つかったとき、誰が負担するか」の取り決めです。次の節で引く民法572条も、「担保の責任を負わない旨の特約」があることを前提にしています。
契約書に「現況のまま引き渡す」と書いてあることと、「責任を負わない」と合意していることは、同じではありません。免責するつもりなら、その旨と範囲を契約書にはっきり書いてもらってください。文言の詰めは、仲介会社や司法書士・弁護士に確認するのが安全です。
売主の立場によっては、免責の特約が制限されます
| 売主 | 買主 | 免責の特約 |
|---|---|---|
| 個人 | 個人・事業者 | 合意があれば付けられる(ただし民法572条の例外は残る) |
| 宅地建物取引業者 | 宅地建物取引業者でない人 | 通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効(宅地建物取引業法第40条) |
| 事業者(法人・個人事業主など) | 消費者 | 損害賠償責任の全部を免除する条項は無効になることがある(消費者契約法第8条) |
相続した実家を個人として売るのであれば、いちばん上の行にあたります。会社名義の不動産や、事業として貸していた物件を売る場合は、下の行にあたらないかを契約の前に確認してください。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
現況渡しにすれば、売った後の責任はなくなる?
なくなりません。特約で契約不適合責任を負わない形にしても、売主が知りながら告げなかった事実については、責任を免れられません。
第五百七十二条 売主は、(中略)担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
——民法第572条
「知っていたのに言わなかったこと」は、特約があっても責任を免れません。
現況渡しにしたから何も言わなくていい、ではありません。
むしろ逆で、知っていることを全部言ったうえで現況のまま渡すのが、売主にとって最も安全な形です。
伝えるべきものの例です。
- 雨漏り(過去に直したものも含む)
- 建物の傾き、床の沈み
- シロアリの被害
- 給排水の不具合(水が出ない、詰まる)
- 過去の火災・事故・自死(事故物件の売却)
- 近隣との争い(境界、騒音、通行)
- 越境(隣家の屋根や塀が出ている、逆に出している)
言えば値段に反映されるだけで、取引が壊れるわけではありません。むしろ黙っていて後から発覚するほうが、損害賠償や契約解除という形で大きく返ってきます。
告知書(物件状況報告書)には何を書く?
売主にしか分からない物件の履歴や状態を、知っている範囲で書きます。境界確定の状況、増改築や修繕の履歴、建物の傾き・腐食等の存否などが、国土交通省の挙げる記載事項の例です。
口頭で伝えただけでは、後から「聞いていない」と言われたときに示すものがありません。伝えた事実を残す道具が「告知書」です。仲介の現場では「物件状況報告書」「物件状況確認書」といった名前で渡されることもあります。
国土交通省も、売主にしか分からない事項は告知書で買主に渡すことが望ましいとしています。
宅地又は建物の過去の履歴や性状など、取引物件の売主や所有者しか分からない事項に関し、売主等から協力を得られるときにおいて告知書を提出してもらい、これを買主等に渡すことについては、(中略)将来の紛争の防止に役立つなど、宅地又は建物の円滑な流通を促進することが期待されることから、積極的に行うことが望ましい。
同じ文書が、売買の告知書に書く事項の例を挙げています。
| 区分 | 記載事項の例 |
|---|---|
| 土地 | 境界確定の状況、土壌汚染の存否や可能性、過去の所有者と利用状況、周辺の土地の利用状況 |
| 建物 | 増改築・修繕の履歴、石綿(アスベスト)使用の調査の有無、耐震診断の有無、建物の傾き・腐食等の存否や可能性 |
| その他 | 前の所有者から引き継いだ資料、新築・増改築に関わった建設業者 など |
- 書くのは「売主等が知り得る範囲」です。調べ直して完璧にする必要はなく、知っていることを、知っているとおりに書きます
- 分からないことは「不明」と書きます。知らないのに「ない」と書かないことが大切です
- 設備(エアコン、給湯器など)の有無や故障は、「付帯設備表」として別の紙にまとめるのが一般的です
人が亡くなったことは、どこまで伝えるか
国土交通省は2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しています。老衰や病死などの自然死、転倒や誤嚥といった日常生活の中での不慮の死は、原則として告げなくてもよいとされました。一方、「事案発生から概ね3年が経過した後は告げなくてもよい」という目安は賃貸借についてのもので、売買には置かれていません。
このガイドラインは宅地建物取引業者の義務を整理したもので、売主の民事上の責任の範囲を決めるものではありません。
仲介会社は売主に対して、過去に生じた人の死を告知書等に記載するよう求めることになっています。迷うものは書いておき、伝え方を仲介会社と相談するほうが安全です。
線引きの詳しいところは孤独死があった家の告知にまとめています。
買主から責任を問われるのは、いつまで?
買主が不適合を知った時から1年以内に通知がなければ、追完・減額・賠償・解除を求められなくなります。ただし売主が引渡しの時にそれを知っていた場合は、この期間制限は働きません。
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、(中略)することができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
——民法第566条
ただし書きに注意してください。知っていて告げなかった場合は、この1年の制限も働きません。
残置物は、契約書に書いておく
現況渡しでいちばんもめやすいのが残置物です。
| 書き方 | どうなるか |
|---|---|
| 何も書かない | 後から撤去費用を請求されることがある |
| 「現況有姿」とだけ書く | 何が残るのかが曖昧で、争いになりやすい |
| 残るものを一覧にして明記 | 争いになりにくい |
「残置物は撤去せず現況のまま引き渡す」と書き、何が残るのかを一覧にしておく。エアコン、給湯器、物置、庭木、仏壇——これらが残るのか撤去するのかを、はっきりさせておいてください。
まとめ
- 現況渡しは、片付けや修繕をせずに渡す売り方。費用を先に負担しなくて済む
- 契約不適合責任は特約で免責できるが、知っていて告げなかった事実は免れない(民法572条)
- 「現況のまま渡す」と書くことと、「責任を負わない」と合意することは別。免責するなら、その旨を契約書に明記する
- だから、知っていることは全部伝えたうえで現況のまま渡すのが最も安全。伝えた内容は告知書(物件状況報告書)に残す
- 残置物は一覧にして契約書に書く
当社は訳あり不動産を現況のまま買い取っています。片付けや修繕を先にしていただく必要はありません。そのうえで、物件について知っていることは何でもお聞かせください。伝えていただいた内容は、価格の前提として扱います。
残置物の量が多い場合は残置物の処分費用も、家財ごと引き取れるかについてはごみ屋敷・残置物の相談もご覧ください。
よくある質問
現況渡しとは何ですか。
建物や土地を、いまある状態のまま引き渡す売り方です。残置物を片付けず、傷んだところを直さず、そのまま買主に渡します。「現状渡し」「現況有姿(現状有姿)渡し」とも呼ばれ、指すものは同じです。売主が費用をかけずに手放せる一方、買主はその状態を前提に価格を判断します。
現況渡しにすれば、売った後の責任はなくなりますか。
なくなりません。契約不適合責任は特約で負わない形にできますが、民法572条により、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れられません。雨漏り、傾き、過去の事故、近隣とのもめごとなど、知っていることは伝えたうえで現況のまま渡すのが最も安全です。
契約不適合責任とは何ですか。
引き渡した物が契約の内容に適合していないときに、売主が負う責任です。民法562条以下により、買主は修補などの追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除ができます。2020年の民法改正前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものにあたります。
買主から責任を問われる期間はいつまでですか。
民法566条により、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、追完・減額・賠償・解除を求められなくなります。ただし売主が引渡しの時にその不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合は、この期間制限は適用されません。
告知書(物件状況報告書)には何を書きますか。
売主にしか分からない物件の履歴や状態を、知っている範囲で書きます。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、境界確定の状況、増改築や修繕の履歴、建物の傾き・腐食等の存否などを記載事項の例に挙げ、告知書を買主に渡すことは将来の紛争の防止に役立つとしています。分からないことは「不明」と書き、知らないのに「ない」と書かないことが大切です。
残置物を残したまま売っても問題ありませんか。
契約書で残置物の扱いを明記していれば問題ありません。「残置物は撤去せず現況のまま引き渡す」と書き、何が残るかを一覧にしておきます。曖昧にしたまま引き渡すと、後から撤去費用を請求されることがあります。
この記事の監修者
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