相続土地国庫帰属制度で山林を国に引き取ってもらうことは可能ですが、法務省の統計では山林の申請902件に対し森林として帰属したのは203件(令和8年8月31日現在・速報値)で、宅地より明らかに通りにくい土地です。この記事では、山林が引っかかりやすい却下・不承認の要件を条文と統計で整理し、面積で変わる負担金の実額、申請前に自分で確かめられること、そして通らなかった・申請を諦めた山の次の手を説明します。
制度の全体像(誰が使えるか、手続きの流れ)は相続土地国庫帰属制度の解説に預けます。ここでは山林に固有の壁だけを扱います。
山林の申請は多いのに、帰属まで行く件数は少ない
法務省は運用状況を毎月公表しています。令和8年8月31日現在の数字です。
| 区分 | 全体 | うち山林・森林 |
|---|---|---|
| 申請 | 5,997件 | 山林 902件 |
| 国庫帰属 | 3,119件 | 森林 203件 |
| 参考:宅地 | 申請 2,091件 | 帰属 1,164件 |
(出典: 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」。法務省は「速報値」と注記しています)
法務省の統計は、申請側を「田・畑/宅地/山林」、帰属側を「農用地/宅地/森林」と区分しており、呼び方が違うため単純に割り算はできません。帰属件数には審査中の案件も含まれません。それでも、宅地は申請の半数を超える件数が帰属しているのに、山林は4分の1にも届かないという差は、偶然では説明できない大きさです。
数字の読み方として、却下85件・不承認100件という数は多くありません。しかし取下げが1,139件あり、そのうち405件は「却下・不承認になることが判明した」ためです。窓口の事前相談の段階でふるいにかけられ、申請前に引っ込めている山林が相当数ある、と読むのが実態に近いです。
山林が引っかかりやすい要件——条文と統計を重ねる
要件は2段階です。審査に入る前に書類ではねられる却下要件(法2条3項)と、審査で土地の状態を見て判断される不承認要件(法5条1項)。山林はどちらにも当たりやすい要件があります。
| 段階 | 要件(条文) | 山林で起きやすい状態 | 統計(令和8年8月31日現在) |
|---|---|---|---|
| 却下 | 境界が明らかでない土地(法2条3項5号) | 境界杭が見つからない。隣地の所有者と立会いができない | 却下85件のうち境界不明23件 |
| 却下 | 他人による使用が予定される土地(法2条3項3号・令2条) | 現に通路として使われている山道、ため池、水路が筆の中にある | 却下85件のうち通路利用中22件 |
| 不承認 | 崖がある土地(法5条1項1号・令4条1項) | 勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖 | 不承認100件のうち崖7件 |
| 不承認 | 地上に管理を妨げる有体物(法5条1項2号) | 倒木、放置車両、古い作業小屋、投棄されたごみ | 不承認100件のうち地上工作物46件 |
| 不承認 | 追加的に造林・間伐・保育が必要な森林(法5条1項5号・令4条3項3号) | 長年手入れをしていない人工林。市町村森林整備計画に合っていない | 不承認100件のうち森林追加整備必要37件 |
森林に固有の不承認要件は、施行令に書かれています。
三 主に森林(中略)として利用されている土地のうち、その土地が存する市町村の区域に係る市町村森林整備計画(中略)に定められた同条第二項第三号及び第四号に掲げる事項に適合していないことにより、当該事項に適合させるために追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要があると認められるもの
「手入れをしていないから国に返したい」という山ほど、この要件に当たりやすいという構造です。国は、管理の手間がかからない状態にしてから引き取る制度だと理解しておく必要があります。

崖の基準は「勾配30度以上、かつ高さ5m以上」と施行令で決まっています。斜面のある山林でも、この両方に当たらなければ崖の要件では不承認になりません。逆に、敷地の一部にこの規模の崖があれば、残りが平らでも「通常の管理に過分の費用」と見られることがあります。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
負担金は山林だと面積で変わる
宅地や原野は基本20万円ですが、森林は面積に応じて算定されます。施行令5条の算定式です。
| 地積の区分 | 算定式 | 例(1,000円未満切捨て) |
|---|---|---|
| 750㎡以下 | 地積×59円+210,000円 | 750㎡ → 254,000円 |
| 750㎡超 1,500㎡以下 | 地積×24円+237,000円 | 1,500㎡ → 273,000円 |
| 1,500㎡超 3,000㎡以下 | 地積×17円+248,000円 | 3,000㎡ → 299,000円 |
| 3,000㎡超 6,000㎡以下 | 地積×12円+263,000円 | 6,000㎡ → 335,000円 |
| 6,000㎡超 12,000㎡以下 | 地積×8円+287,000円 | 10,000㎡(1ヘクタール) → 367,000円 |
| 12,000㎡超 | 地積×6円+311,000円 | 50,000㎡(5ヘクタール) → 611,000円 |
(出典: 同施行令 第5条第1項第3号。例は当記事で計算したもの)

面積が広いほど1㎡あたりの単価は下がりますが、総額は上がります。山林は1筆で数千㎡から数ヘクタールになることが珍しくないため、「20万円で国に返せる」という前提は山林には当てはまらないことが多いです。
隣接する2筆以上の土地が同じ種目なら、一筆とみなして負担金を算定する申出ができます(施行令6条)。複数の筆に分かれた山では、合算のほうが総額が下がることがあるので、申請前に試算してください。負担金のほかに、審査手数料が一筆あたり14,000円かかり(施行令3条)、却下・不承認でも返ってきません。
申請前に自分で確かめられること
法務局の事前相談は費用がかかりません。相談の前に、次の4点を自分で確かめておくと、見込みの当たりが早く付きます。
- 境界……公図・林地台帳・現地写真で、隣接地との境界点を示せるか。示せなければ入口で止まる
- 通路・水路……筆の中に、現に使われている山道・ため池・水路が含まれていないか(公図と航空写真で当たりを付ける)
- 地上の物……倒木、放置車両、作業小屋、ごみが残っていないか。片付けは申請者の費用
- 森林整備計画との適合……市町村の林務担当課に、自分の山が市町村森林整備計画に照らして追加の造林・間伐・保育が必要と見られるかを聞く
4点目は見落とされがちです。市町村森林整備計画は市町村が定めており、林務担当課に聞けば「この林班は間伐が必要とされている区域か」が分かります。そこで「整備が必要」と言われた山は、統計上2番目に多い不承認理由(地上の工作物に次ぐ37件)に当たる可能性があります。
事前相談で見込みが薄いと分かれば、測量費も片付け費も手数料も出さずに引き返せます。順番は「壊す・測る・片付ける」より先に「相談」です。山林の場所そのものが分からない場合は、先に公図と林地台帳で地番と位置を押さえてください。
通らなかった・申請を諦めた山の次の手
境界を確定させ、倒木を片付け、間伐をして、負担金を納める——これを全部やれば通る山は多いはずです。ただ、その費用の合計が「山を持ち続けるコスト」を上回るなら、制度に乗せる意味は薄れます。
| 出口 | 山林で通れる条件 | 先に出す費用 |
|---|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 境界明確・崖なし・地上物なし・整備計画に適合 | 測量費・片付け費・整備費・手数料・負担金 |
| 自治体への寄付 | 自治体に使い道がある山に限られる | 少ないが、受け入れ自体が少ない |
| 隣地所有者・林業事業体に譲る | 相手が受け取る意思を持つこと。境界未確定は敬遠されやすい | 相手側に贈与税・登記費用 |
| 買取で手放す | 場所・状態による。境界未確定・倒木ありでも検討の対象 | 原則なし |
寄付の壁は自治体への土地の寄付、山林の固定資産税と放棄の関係は山林の固定資産税を止めるに書いています。宅地と山林が一緒に相続された場合は、山林だけ残さないよう宅地と山林をまとめて手放すも参照してください。
当社は山林・原野を現況のまま取り扱っています。国庫帰属の事前相談で見込みが薄いと言われた山、境界杭が見つからない山、倒木や小屋が残っている山についても、調査は当社で行い、売主様に測量・片付け・間伐をお願いすることはありません。ただし場所や状態、権利関係によっては成立しないこともあり、個別の判断になります。
山林の売り方の全体像は山林・原野の売却方法にまとめています。
判断の順番
- 地番と位置を押さえる(公図・林地台帳)
- 境界点を示せるかを確かめる……示せなければ国庫帰属は入口で止まる
- 市町村の林務担当課に、森林整備計画との適合を聞く……「整備が必要」なら不承認要因
- 負担金を算定式で試算する……複数筆なら合算も試す
- 法務局の事前相談……ここまでの材料を持って行けば、その場で見込みが分かる
- 見込みが薄ければ、費用を出す前に、国以外の相手に渡す道を比べる
この記事の統計は法務省が公表する速報値で、毎月更新されます。申請時には最新の数字と、ご自身の土地の所在する法務局の運用を確かめてください。相続登記の扱いは司法書士へ、境界は土地家屋調査士へご確認ください。
よくある質問
山林は相続土地国庫帰属制度の対象外ですか。
対象外ではありません。法務省の統計(令和8年8月31日現在・速報値)では山林の申請が902件あり、森林として帰属した土地も203件あります。ただし宅地(申請2,091件・帰属1,164件)と比べると通りにくい傾向がはっきり出ています。境界が明らかでない、崖がある、倒木や放置車両が残っている、森林の整備が足りないといった要件に山林は当たりやすいためです。
山林の負担金はいくらですか。
森林は面積に応じて算定されます。施行令5条の算定式では、750㎡以下は面積×59円+21万円、3,000㎡超6,000㎡以下は面積×12円+26万3千円、12,000㎡超は面積×6円+31万1千円などです。たとえば1ヘクタール(10,000㎡)なら面積×8円+28万7千円で36万7千円になります。隣接する同じ種目の土地は一筆とみなして合算する申出ができます。
境界杭が見つからない山でも申請できますか。
境界が明らかでない土地は法2条3項5号の却下要件に当たり、審査に入る前に却下されます。統計でも却下85件のうち「境界不明」が23件を占めています。申請には隣接地との境界点が分かる写真を添えるため、杭や目印を確認できない状態では申請そのものが成り立ちません。事前相談で見込みを聞いてから、測量に費用をかけるかを決めてください。
「森林の整備が必要」という理由で不承認になるのはどういう場合ですか。
施行令4条3項3号で、市町村森林整備計画に定められた事項に適合しておらず、適合させるために追加的に造林・間伐・保育が必要と認められる森林は不承認とされています。統計では不承認100件のうち「森林追加整備必要」が37件で、地上の工作物に次いで多い理由です。長年手入れをしていない人工林は、この要件に当たる可能性があります。
国庫帰属が通らなかった山林は、もう手放せませんか。
国以外の相手に渡す道が残っています。当社は山林・原野を現況のまま取り扱っており、境界未確定・倒木あり・手入れなしの山でも、調査は当社で行い、売主様に測量や整備をお願いすることはありません。ただし場所や状態によっては成立しないこともあり、個別の判断になります。宅地と山林をまとめて手放す形が取れる場合もあります。
この記事の監修者
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