借地権付きの家は、地主の譲渡承諾が得られれば売却できます。承諾が取れない場合も、裁判所に許可を求める方法と、借地権と底地をまとめて買い取ってもらう方法が残っています。この記事では、それぞれに何が必要で、売主にどれだけ費用がかかるのかを整理します。
地代だけを払い続けているが使っていない。建物が古くて住めない。相続したものの権利の中身が分からない。そうした状態で止まっている方に向けて書いています。
借地権付きの家が売りにくい理由
まず言葉を整理します。借地権とは、建物を建てて使うために土地を借りている権利のことです。土地そのものは地主のもので、借地人が持っているのは建物と、土地を使う権利です。
一方、貸している側から見た土地の所有権を底地といいます。借地権と底地が別々の人に分かれている状態が、借地の基本形です。
借地権=土地を借りて建物を持っている側の権利。底地=それを貸している地主側の土地所有権。この2つが揃うと、ふつうの所有権の土地に戻ります。
売りにくくなる理由は、大きく3つあります。
1つ目は、譲渡に地主の承諾がいること。 民法612条は、賃借権を譲り渡すには賃貸人の承諾が必要だと定めています。承諾を得ずに譲渡して第三者に使用させると、契約を解除される可能性があります。
2つ目は、買主が住宅ローンを組みにくいこと。 土地が担保に入らないため、金融機関が評価しづらく、そもそも借地権を扱わない金融機関もあります。抵当権の設定に地主の承諾書を求められることもあり、ここでも地主が関わってきます。
3つ目は、建て替えや増改築にも承諾がいる場合が多いこと。 古い家を建て替えて使いたい買主にとって、承諾が取れるかどうかが分からない状態は、そのまま買いにくさになります。
なお、借地権には土地の賃借権と地上権の2種類がありますが、実際に多いのは賃借権のほうです。
| 土地の賃借権 | 地上権 | |
|---|---|---|
| 実際の割合 | 大半がこちら | まれ |
| 譲渡に地主の承諾 | 必要 | 不要 |
| 登記 | されていないことが多い | 登記される |
ご自宅の借地がどちらかは、契約書の表題と、土地の登記事項証明書を見ると分かります。地上権であれば、承諾の問題そのものが起きません。
地主の譲渡承諾はどう取るか
順番を間違えると、話が長引きます。地主に伝えるときは「売りたい」だけでなく、誰に、いつ、どういう条件で譲るのかまで示せる状態にしておくほうが、返事が早くなります。
承諾に関連して求められることがある金銭は、次のとおりです。いずれも法律で額が決まっているわけではなく、あくまで実務上の目安です。
| 名称 | どんなときに | 目安 |
|---|---|---|
| 譲渡承諾料 | 借地権を第三者に譲るとき | 借地権価格の10%程度 |
| 建替承諾料 | 建物を建て替えるとき | 更地価格の3〜5%程度 |
| 条件変更承諾料 | 木造から鉄筋など建物の構造を変えるとき | 借地権価格の10%程度 |
更新の時期が近いと、本来の更新料も加味して請求され、結果として目安より高くなることがあります。金額だけを先に議論せず、誰が負担するのかとセットで決めるのが実務的です。
承諾を得ないまま進めるのは避けてください。無断譲渡は契約解除の事由になり得ます。裁判では「解除を認めるほどの背信的な行為とはいえない特段の事情」が考慮されることもありますが、そこまで争うこと自体が大きな負担です。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
承諾が得られないときは、裁判所に許可を求められる
地主が承諾しない場合に、そこで終わりというわけではありません。借地借家法19条1項は、譲渡しても地主に不利となるおそれがないのに承諾が得られないとき、借地権者の申立てにより、裁判所が承諾に代わる許可を与えられると定めています。これを借地非訟といいます。
申立先は、原則としてその土地の所在地を管轄する地方裁判所です。裁判所は鑑定委員会の意見を聴いたうえで判断し、許可にあたって承諾料に相当する金銭の支払いを条件とすることがあります。
この手続きには、地主が自ら建物と借地権を買い取ると申し立てられる制度(介入権)があります。第三者への譲渡を進めていたつもりが、地主が買い取る結果になることもある、という点は知っておいてください。
制度としては用意されていますが、弁護士に依頼する費用と、判断が出るまでの時間はかかります。先に費用を出したくないという理由で止まっている売主にとって、ここが最初の関門になりやすいところです。
借地権と底地をまとめて引き取るという進め方
ここが、制度の解説記事にはあまり出てこない部分です。
借地権付きの家を買おうとする会社の多くは、借地権だけを買おうとします。すると地主の承諾が唯一の関門になり、地主が首を縦に振らなければ話が止まります。地主の側からすれば、承諾しても手元に残るのは今までと同じ地代だけなので、動く理由が乏しいのです。
そこで、借地権と底地の両方を同じ買主が引き受けるという組み立て方があります。地主にとっては、地代の集金や更新の交渉、将来の相続の心配から離れられる機会になります。底地は単独では買い手がつきにくい資産なので、ここで出口ができる意味は小さくありません。
当社でも、東京都内の借地上の戸建てについて、借地人の方から借地権を、地主から底地を買い取り、所有権に戻した案件があります。決済まで終わっています。売主の側で解体や片付けをしていただく必要はありませんでした。
借地の交渉は「承諾をください」と頼む形だと、地主に得がないため進みにくくなります。相手にも出口を用意すると話が動くことがあります。これは借地権だけを買う会社にはできない進め方です。

もちろん、地主に売る意思がなければ成立しません。その場合は承諾を得る形か、裁判所の許可を求める形に戻ります。すべての借地を引き受けられるわけではなく、個別の判断になります。
話がまとまってからも、条件が動くことがある
借地の交渉で実際に起きやすいのが、一度合意したはずの条件が後から変わることです。悪意があるとは限りません。親族に相談した、税金の扱いを確認した、他の土地の話と絡んだ、といった事情で、地主側の考えが動くことは珍しくありません。
ただ、売主にとっては予定が立たなくなります。備え方は決まっています。
- 決まった条件は、その都度書面に残す。口頭のままにしない
- 承諾の範囲(譲渡・建替え・抵当権設定のどこまでか)と、いつまでに出してもらうかを先に確定する
- 条件が動いたときは、価格や引き渡し時期にどう反映するかをその場で決める
- 期限を切らずに待たない。動かないまま数か月が過ぎるのがいちばん損
こうした交渉を売主自身が担うのは負担が大きいところです。買取であれば、買主側が地主との窓口を持つ形も取り得ます。遠方の実家の売却と同じで、現地に行かずに進められるかどうかは、誰が交渉を持つかで決まります。

旧法か新法かで、残っている期間が変わる
契約した時期によって、適用される法律が違います。借地借家法は1992年8月1日に施行され、それより前に設定された借地権には、今も旧借地法が実質的に適用されます。
| 旧借地法(1992年7月31日以前) | 借地借家法(1992年8月1日以降) | |
|---|---|---|
| 当初の期間 | 堅固な建物30年・その他20年以上 | 建物の構造を問わず30年以上 |
| 期間の定めがない場合 | 堅固60年・その他30年 | 30年 |
| 更新後の期間 | 堅固30年・その他20年 | 1回目20年以上、2回目以降10年以上 |
| 更新のない借地権 | なし | 定期借地権がある |
古い借地ほど期間が長く、更新も繰り返されているため、残っている期間は思っているより長いことが多いです。契約書が見つからない場合でも、地代の記録と建物の登記から、いつごろ始まった借地かをある程度たどれます。
また、更新されずに契約が終わるときは、建物を時価で買い取るよう地主に請求できる制度があります(借地借家法13条)。ただし地代の滞納などで解除された場合には使えません。住宅ローンが残っている家の売却と同じく、契約がどう終わるかによって使える手が変わります。
相続した借地権は、承諾なしで引き継げる
相続で借地権を引き継ぐ場合、地主の承諾は原則として不要です。相続は自分の判断で第三者に渡す「譲渡」ではなく、借りていた立場がそのまま相続人に移るためです。承諾料や名義書換料を求められても、支払う根拠は基本的にありません。
相続したときにやること
- 地主に、相続で立場が移ったことと連絡先を伝える
- 地代の支払いを止めない(滞納は解除事由になり得ます)
- 建物の相続登記をする。2024年4月から、取得を知った日から3年以内の登記が義務化されています
- 売るかどうかを決める。売る段階になって初めて、譲渡承諾の話が出てきます
建物が古く、住む予定もない場合、相続した空き家の売却と同じ判断になります。ただし借地の場合は、解体費用が払えない空き家よりさらに注意が必要です。建物を壊すと借地契約の前提が変わるため、先に解体するのはおすすめしません。
相続人が複数いて借地権を共有している場合は、共有持分の売却の考え方も関わってきます。建物が未登記建物の売却の状態になっていることもあり、その場合は登記の整理が先に必要です。
- 承諾を得ないまま買主と契約を進める
- 地代を止めて交渉材料にする
- 「どうせ売れない」と考えて地代だけ払い続ける
税務や登記の扱いは個別の事情で変わります。相続税の評価や譲渡所得の計算については税理士へ、登記については司法書士へご確認ください。
借地というだけで断られた、地主と話が進まない、という状態であれば、状況をお聞かせください。再建築不可物件の売却や売れない土地の処分と同じく、現況のまま引き受けられる場合があります。
よくある質問
借地権付きの家は、地主の承諾がなくても売れますか?
土地の賃借権であれば、原則として地主の承諾が必要です。承諾を得ないまま譲渡して第三者に使わせると、契約を解除される可能性があります。ただし承諾が得られない場合でも、裁判所に承諾に代わる許可を求める手続きが用意されていますし、借地権と底地をまとめて買主が引き受ける形なら地主の側にも利点が生まれるため、話が進むことがあります。
譲渡承諾料はいくらくらいかかりますか?
借地権価格の10%程度が一つの目安とされていますが、法律で決まった額ではありません。契約内容や地域、更新時期との重なり方によって幅があります。誰がその費用を負担するかは売買条件の中で決めるものなので、金額だけを先に議論せず、負担者とあわせて詰めるほうが揉めにくくなります。
借地権を相続しました。地主に承諾料を払う必要がありますか?
相続による承継は「譲渡」にあたらないため、地主の承諾は原則として不要で、承諾料や名義書換料の支払い義務もないと考えられています。ただし地代の支払いは続きますし、建物の相続登記は必要です。実際の取り扱いは契約内容によるため、司法書士や税理士にもご確認ください。
建物が古くて住めません。解体してから売ったほうがよいですか?
先に解体する判断は慎重にしたほうがよい場面が多いです。借地契約は建物を所有する目的で結ばれているため、建物がなくなると立場が変わりますし、解体費を売主が先に負担することになります。買主が現況のまま引き受けられるのであれば、壊さずに手放すほうが持ち出しは少なく済みます。
地代を滞納しています。この状態でも手放せますか?
滞納が続くと契約を解除される事由になり得るため、放置せず早めに動くことをおすすめします。滞納があるまま買い取りの相談をいただくこと自体は珍しくなく、精算の方法を含めて条件を組み立てることになります。金額や期間によっては引き受けが難しい場合もあるため、個別の判断になります。
この記事の監修者
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