分収林契約が付いた山林を相続して、手放したいのに動かせない——そういうご相談があります。契約の相手は都道府県の森林公社や森林研究・整備機構、あるいは国で、契約期間は数十年に及びます。土地は自分のものなのに、自分だけでは決められない。この記事では、なぜそうなるのか、解約できるのか、土地だけ売れるのかを、条文にあたって整理します。
分収林契約が付いた山林は、契約が残っている状態のまま、手放す方法を相談できます。契約書が見当たらない場合は、所在地と地番だけでも構いません。
分収林契約とは何か
土地の所有者が土地を提供し、別の人が木を植えて育て、育った木が売れたときの収益を、決めた割合で分け合う——それが分収林契約です。根拠は分収林特別措置法にあります。
第一条 この法律は、分収方式による造林及び育林を促進し、もつて林業の発展と森林の有する諸機能の維持増進とに資することを目的とする。
同法2条は、分収林契約を大きく2つに分けています。
| 分収造林契約(2条1項) | 分収育林契約(2条2項) | |
|---|---|---|
| 始まり | これから木を植える土地について結ぶ | すでに植えられている木の保育・管理について結ぶ |
| 当事者 | 造林地所有者・造林者・造林費負担者 | 育林地所有者・育林者・育林費負担者 |
| 土地所有者の義務 | 造林者のために、土地を造林の目的で使う権利を設定する | 育林者のために、土地を育林の目的で使う権利を設定する |
どちらも、当事者は3者の場合と、そのうち2者の場合があります。森林整備センターの「二者契約」「三者契約」という呼び方はここから来ています。相続した山林で多いのは、土地だけを提供して、植林から先を相手に任せた分収造林契約です。
戦後の造林政策のなかで結ばれたものが多く、当時契約した方が亡くなり、事情を知らないまま相続しているというケースが少なくありません。
土地は自分、木は相手との共有
ここが分かりにくいところなので、条文で押さえます。同法2条1項は、契約に次の内容が入っていることを求めています。
- 1号……土地の所有者は、造林する側のためにその土地を造林の目的で使う権利を設定する義務を負う
- 5号……植栽された樹木は、各契約当事者の共有とする
- 6号……各共有者の持分の割合は、収益を分ける割合と等しいものとする

つまり、土地は自分のものだが、上に生えている木は相手との共有であり、しかも相手には土地を使う権利があるという状態です。
「共有なら、分割を求めて抜ければいい」とはなりません。
同法4条は、分収造林契約・分収育林契約に係る共有樹木について、
民法256条1項(共有物の分割請求)の規定を適用しないと定めています。
通常の共有持分と同じつもりで考えると、行き止まりになります。
6号のとおり、自分の持分がどれくらいかは、分収割合がそのまま答えになります。その割合は、契約の相手と結んだ時期によって違います。
| 契約の相手・形 | 造林地所有者の取り分 |
|---|---|
| 森林研究・整備機構(森林整備センター)/二者契約 | 50(所有者兼造林者50:センター50) |
| 同/三者契約 | 40(造林者10:センター50) |
| 都道府県の森林公社/三者契約 | 契約した年度が新しいほど下がる例がある(40→35→30 など) |
数値は森林研究・整備機構 森林整備センターのQ&Aと、公社が公表している分収割合の一覧によります。ご自身の割合は契約書に書かれた数字が優先します。
これは、借地の底地とよく似た構造です。
土地の名義は自分。でも上に他人の権利が乗っていて、自由に使えない。
共有持分・借地・底地の買取相談で扱っている問題と、実質的に同じ形です。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
途中でやめられるのか
契約書の定めによります。そして多くの場合、土地所有者の都合だけで一方的に終わらせられる形にはなっていません。
- 契約期間は数十年に及ぶ(樹種によるが、長いものは80年程度)
- 期間の途中で終える場合、それまでにかかった造林の費用の精算を求められることがある
- 木の共有持分をどう扱うかも、あわせて決める必要がある
まず契約書を探してください。見当たらなくても諦める必要はありません。
都道府県の森林公社、森林研究・整備機構(森林整備センター)、林野庁の森林管理署などに
所在地と地番を伝えれば、契約の有無と内容を確認できることが多いです。
固定資産税の課税明細と登記事項証明書を手元に用意しておくと、話が早く進みます。
契約書が無くても、登記から手がかりが出ることがあります。森林研究・整備機構は、分収造林契約に基づいて契約地に地上権を設定し、立木の所有権を明確にしていると説明しています。地上権が登記されていれば、登記事項証明書の権利部(乙区)に相手方の名前が載ります。
地上権=他人の土地を使うために設定される権利のこと。登記できる権利なので、
設定されていれば登記事項証明書に出てきます。「土地を使う権利」を具体的な形にしたものが地上権です。
合意していないのに、契約の中身が変わることがある
ここは2026年時点で押さえておくべき点です。2016年(平成28年)の法改正で、契約当事者全員の合意がなくても契約条項を変更できる特例ができました。分収林特別措置法11条から15条がそれにあたります。
農林水産省は改正の背景を、木材価格の下落と労賃の上昇により契約で定めた時期に伐採しても適正な収益が得られず、契約期間の延長、分収割合の変更を行う必要が生じていること、しかし不在村化が進んで全員の合意が得られないケースがあること、と説明しています。
分収林契約について契約当事者全員の合意がなくても、1/10を超える異議がないことをもって、契約条項を変更できるようにする。

つまり、契約期間が延び、取り分が減る変更が、自分が賛成しないまま成立することがあるということです。そして、期間内に誰も異議を述べなければ、全当事者が承認したものとみなされます(13条)。届いた封筒を開けずに置いておく、が最も不利になります。
異議を述べた人には、抜ける道が用意されています。
異議のある当事者の分収割合の合計が10分の1を超えないときは、提案者からその旨の通知が届き、
通知の日から1か月以内に、収益を分収する権利を買い取るよう請求できます(14条1項・2項)。
買取額の下限も同条3項に定めがあります。解約を探している方にとって、
法律上はっきり書かれている数少ない出口です。
買取りを請求できるのは「分収する権利」であって、土地そのものではありません。
買取りの後も土地の所有者は自分のままで、固定資産税もかかり続けます。
14条4項3号は、土地所有者が抜ける場合でも、効力発生日までにその土地に
造林の目的で使用する権利が設定されることを条件にしています。
山を手放したい、という目的とは別の話です。
なお、異議のある当事者の分収割合の合計が10分の1を超えるときは、変更そのものが効力を生じません(15条)。締切と割合の2つで結論が変わるため、通知が届いたら日付から確認してください。
土地だけを売ることはできる
所有権は自分にあるので、売ること自体はできます。ただし2つ、知っておくべきことがあります。
1つは、買主が契約を引き継ぐこと。土地所有者が変わる場合、旧所有者との契約を解約し、新所有者と新たに契約を結び直す扱いになるのが一般的です。相手方への事前の連絡が要ります。黙って売って後から発覚する形は避けてください。
もう1つは、値が付きにくいこと。買った側も同じ制約を引き継ぎ、自由に使えないためです。これも底地と同じ理屈です。
土地だけを手放すときは、買主や譲受人が契約を引き継ぐ形になります。相手方への事前の連絡が要るかどうかも含めて、進め方を答えます。
国に引き取ってもらう制度は、契約が続く間は使えない
相続した土地を手放す方法として、相続土地国庫帰属制度を思い浮かべる方も多いと思います。ただ、分収林契約が付いたままの山林は、この制度の入口で止まります。
承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。
二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
分収林契約では、土地所有者は相手方のために土地を造林・育林の目的で使う権利を設定する義務を負います(分収林特別措置法2条1項1号・2項1号)。森林整備センターの契約のように地上権が設定されていれば、まさに「使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地」にあたると考えられます。
国庫帰属制度を検討するのは、契約を終わらせてからの話です。
契約の解約・満了で権利がなくなっても、登記に地上権が残っていれば抹消の手続きも要ります。
そのうえで境界・樹木・負担金など、制度のほかの要件も別に満たす必要があります。
山林でこの制度を使う場合の壁は相続土地国庫帰属制度で山林は通る?にまとめています。
相続税では、土地の評価が下がる
分収林契約が付いた山林を相続したとき、土地は契約の無い山林と同じ評価にはなりません。国税庁の財産評価基本通達52は、分収林契約に基づいて地上権または賃借権が設定されている山林の評価方法を定めています。
分収林契約に係る山林の価額=(自用地としての価額 × 山林所有者の分収割合)+(自用地としての価額 − 地上権または賃借権の価額)×(1 − 山林所有者の分収割合)
言い換えると、自分の取り分にあたる部分は通常どおり、相手の取り分にあたる部分だけ、権利の負担を差し引いて評価するという考え方です。分収割合が50%なら、土地の半分ぶんについて減額が効きます。地上権の価額は、残存期間などに応じて別に計算します(通達53〜55)。
この評価は、契約に基づく地上権または賃借権が設定されていることが前提です。
契約書と登記事項証明書(乙区)で権利の設定を確かめたうえで、申告は税理士に相談してください。評価が下がることと、売れるかどうかは別の話です。相続税の評価額は、買い手が見つかる価格を示すものではありません。
収益をあてにしないほうがよい
「いずれ木が売れれば収入になる」と説明されて契約したという話をよく聞きます。しかし木材価格は当時の想定から大きく下がっており、見込みどおりの分収にならなかった例が各地で報告されています。
収益を待つより、いま何の負担が発生しているかを確かめるほうが現実的です。
- 固定資産税は、使っていなくても土地所有者にかかり続けます
- 境界が不明なまま相続が重なると、いずれ誰も動かせなくなります
- 契約の相手方も、担当者が代替わりしていることがあります
契約書に書かれた相手が、もう存在しないこともあります。神奈川県は、社団法人かながわ森林づくり公社が平成22年4月5日に解散したことに伴い、県が分収林契約上の権利義務を承継したと公表しています。名前で検索して出てこなくても、都道府県の林務担当部署に地番を伝えれば、引き継ぎ先にたどり着けることがあります。
満期が近い契約もあります。同じく神奈川県は、承継した分収林について平成29年度から順次、
契約の満了を迎えていると公表しています。契約期間の残りが短ければ、待つという選択も出てきます。
まず自分の契約の期間を確かめるところからです。
山林・原野・別荘地を手放したいでも書きましたが、使っていない山林は、持ち続けるほど選べる手が減っていきます。
進め方の順番
- 登記事項証明書と固定資産税の課税明細を取る(地番を確定させる)
- 登記事項証明書の権利部(乙区)に地上権が入っていないかを見る。入っていれば相手方の名前が分かる
- 契約書を探す。見つからなければ、都道府県の森林公社・林務担当部署・森林整備センター・森林管理署に地番を伝えて照会する
- 契約の相手・期間・分収割合・中途解約の条項を確認する。満了までの残り年数もここで分かる
- 過去に契約条項の変更の通知が来ていなかったか、書類を見返す
- 相手方に、いま手放したい意向があることを伝えて扱いを聞く
- そのうえで、解約して手放すのか、契約ごと引き継いでもらうのかを決める。相続税の申告が控えている場合は、分収割合と地上権の有無を税理士に伝える
3で止まる方が多いのですが、ここは電話1本で進むことがあります。
当社は訳あり不動産を現況のまま扱っています。分収林契約が付いた山林についても、契約を先に整理してから持ってきていただく必要はありません。ただし契約の内容と相手方の意向によって、お引き受けできるかは変わります。まず所在地と、分かる範囲の状況をお知らせください。
山林に関わる他の詰まり方は、山林・原野・別荘地の買取相談にまとめています。境界が分からないまま止まっている場合は、地図混乱地域の土地の売却もあわせてご覧ください。
よくある質問
分収林契約は途中で解約できますか。
契約書に定めがあればその条項に従いますが、多くは長期の契約で、土地所有者の都合だけで一方的に解約できる形にはなっていません。まず契約書を確認し、相手方(都道府県の森林公社、森林研究・整備機構、国など)に現在の扱いを問い合わせるのが最初の一歩です。契約期間の途中で終える場合、それまでの造林費用の精算を求められることがあります。
土地だけを売ることはできますか。
所有権は自分にあるので売ること自体はできます。ただし買主が契約をそのまま引き継ぐ形になり、自由に使えないため値が付きにくくなります。土地所有者が変わる場合は、旧所有者との契約を解約し、新所有者と新たに契約を結び直す扱いになるのが一般的です。相手方への事前の連絡が要ります。
木は自分のものではないのですか。
分収林特別措置法2条1項5号は、植栽された樹木を契約当事者の共有とすると定めています。同項6号により、共有持分の割合は収益を分ける割合と同じです。つまり土地は自分のものでも、上に生えている木は自分ひとりのものではありません。
相続したのですが、契約があることを知りませんでした。
珍しくありません。契約書が見当たらない場合でも、都道府県の森林公社や森林整備センターに所在地と地番を伝えれば、契約の有無と内容を確認できることが多いです。固定資産税の課税明細と登記事項証明書を手元に用意しておくと話が早く進みます。
契約期間を延ばしたいという通知が届きました。断れますか。
2016年(平成28年)の法改正で、当事者全員の合意がなくても契約条項を変更できる特例ができました(分収林特別措置法11条〜15条)。異議を述べた当事者の分収割合の合計が10分の1を超えなければ変更は成立し、期間内に誰も異議を述べなければ全員が承認したものとみなされます。異議を述べたうえで、通知の日から1か月以内に、収益を分収する権利の買取りを請求できる場合があります。通知に書かれた期限を先に確認してください。
契約書に書かれている相手方が、いまは存在しない法人です。
都道府県の公社が解散し、県が分収林契約上の権利義務を承継している例があります。神奈川県は、かながわ森林づくり公社が平成22年4月5日に解散したことに伴い県が承継したと公表しています。法人名で見つからない場合は、都道府県の林務担当部署に所在地と地番を伝えて照会してください。
分収林契約が付いた山林は、相続税でどう評価されますか。
国税庁の財産評価基本通達52により、契約に基づく地上権または賃借権が設定されている山林は、自分の分収割合にあたる部分を自用地として、残りの部分を地上権等の価額を差し引いて評価し、その合計額とします。契約の無い山林より評価は下がりますが、権利の設定状況によって扱いが変わるため、申告は税理士に確認してください。
分収造林と分収育林はどう違いますか。
分収林特別措置法2条で、分収造林契約はこれから木を植える土地について、分収育林契約はすでに植えられている木の保育・管理について結ぶ契約と定められています。どちらも土地所有者は相手のために土地を使う権利を設定する義務を負い、木は当事者の共有になります。
分収林契約が付いた山林は、相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえますか。
契約が続いている間は難しいと考えられます。相続土地国庫帰属法2条3項2号は、使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地について承認申請ができないと定めています。分収林契約では土地所有者が相手方のために土地を使う権利を設定するため、まず契約の終了と、登記されている地上権の抹消が先になります。
収益が入る見込みはありますか。
主伐の時期が来て木材が売れれば、契約で定めた割合で分収されます。ただし木材価格の下落により、当初の見込みどおりにならない例が各地で報告されています。収益をあてにするより、いま何の負担が発生しているかを確かめるほうが現実的です。
この記事の監修者
小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)
不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。
ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号
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