原野の相続登記はしないとどうなるのか。結論から言うと、固定資産税の通知が来ない土地でも相続登記は義務の対象で、放置すると10万円以下の過料より先に、手放したくても手放せない状態になります。この記事では、義務の範囲、何年も置いたときに起きること、登録免許税が0円になる免税措置など費用を抑える方法、そして登記しても売れない原野の出口を整理します。
親が昔に買った土地の権利証が出てきた、納税通知は来たことがない、どこにあるのかも分からない。原野のご相談はたいていこの状態から始まります。値段がつかない土地ほど「登記しても意味がない」と思われがちですが、実際は逆で、値段がつかない土地ほど登記を整えておかないと動かせません。
通知が来ない原野でも、義務の対象になる
相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務になりました。根拠は不動産登記法76条の2で、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。法務省の案内では、施行前に発生した相続についても令和9年3月31日までが期限とされています(法務省 相続登記の申請義務化について)。
ここで多い誤解が、「固定資産税の通知が来ないから、義務の対象ではない」というものです。義務の範囲は不動産登記法で決まり、課税の有無とは連動していません。
納税通知書が届かないのは、同じ市町村内で持つ土地の課税標準額の合計が30万円未満で、固定資産税の免税点を下回っているためであることが多いです(地方税法351条)。評価の低い原野は、この線の下に入りやすい土地です。

つまり、税金の側では「存在しないも同然」に見えている土地が、登記の側ではきちんと義務の対象として数えられています。この食い違いが、原野の相続登記が後回しにされる一番の理由です。
「通知が来ない=もう自分のものではない」ではありません。同じ市町村に別の土地を持つと合算で免税点を超え、来ていなかった通知が急に届くことがあります。所有者であることも、管理の責任も、登記の義務も、通知の有無で変わりません。
しないまま置くと何が起きるか
罰則から先に書くと、正当な理由がないのに申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象です(不動産登記法164条1項)。ただし実務では、登記官からの催告に応じて申請すれば過料には至らないのが通常です。過料の話は相続登記の義務化と期限に整理してあります。
ご相談を受けていて実際に重いのは、過料ではなく次の3つです。
| 置いた年数 | 起きること | なぜ重いか |
|---|---|---|
| 数年 | 相続人の住所が登記の住所と食い違う | 住所のつながりを証明する書類が増える |
| 10年以上 | 次の相続が起きて相続人が枝分かれする | 遺産分割協議に全員の署名と印鑑証明が要る |
| 数十年 | 古い戸籍や住民票の除票が廃棄されている | 相続人をたどる資料そのものが取れない |
原野は「使わないから」と放置され、祖父母や曽祖父母の名義のままになっていることが珍しくありません。その場合、相続人は数人ではなく十数人、数十人になります。ひとりでも連絡がつかない、判断能力に不安がある、海外に住んでいる、となると協議はそこで止まります。
原野の相続登記で本当に失うのは、お金ではなく「手放す権利」です。
売る、譲る、国に引き取ってもらう、どの出口も名義が現在の相続人になっていることが前提になります。名義が動かないかぎり、固定資産税の通知が来ないままの土地を、次の世代がまた引き継ぎます。
住民票の除票と戸籍の附票の除票は、令和元年6月20日の改正で保存期間が5年から150年に延びました。ただし、それ以前に保存期間を過ぎて廃棄されたものは今から請求しても出てきません。登記の住所が古いほど、この壁に当たります。相続人が何代にもわたる場合は数次相続で未分割になった不動産の売却、後から相続人が判明した場合は相続人が後から出てきたときの進め方もご覧ください。
ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。
費用を抑えて登記する3つの方法
「価値のない土地に司法書士の報酬と税金を払うのか」というのが、次に出てくる疑問です。ここは制度側がかなり手当てをしています。
1. 登録免許税が0円になる免税措置
相続による土地の所有権移転登記には、本来、不動産の価額の1000分の4の登録免許税がかかります。ただし、不動産の価額が100万円以下の土地については、令和9年(2027年)3月31日までに受ける相続登記の登録免許税が免税になります。相続人に対する遺贈も含みます(法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について)。
免税を受けるには、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と法令の条項を書く必要があります(e-Gov法令検索 租税特別措置法)。書かないと免税されません。土地の価額は固定資産評価証明書などで確かめます。原野の評価額は数千円から数万円のことも多く、大半がこの範囲に入ります。
2. 戸籍の束は「法定相続情報一覧図」で代える
相続登記には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人の現在の戸籍が要ります。戸籍の謄本は1通450円、除籍や改製原戸籍は1通750円が標準の手数料です(地方公共団体の手数料の標準に関する政令)。
集めた戸籍は一度、法務局に法定相続情報証明制度で提出すると、相続関係を一覧にした図の写しが無料で交付されます。この写しは戸籍の束の代わりに相続登記に使えるほか、金融機関の手続きにも使えます(法務局 法定相続情報証明制度について)。原野が複数の市町村に散らばっている場合、この一枚があると同じ戸籍を何度も出さずに済みます。
3. 自分で申請する
法務局のサイトには、相続の申請書様式と記載例が公開されています(法務局 不動産登記の申請書様式について)。法定相続、遺産分割、数次相続、遺言の場合と分かれているので、当てはまる様式を選びます。
| 費用の項目 | 目安 | 抑える方法 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 価額の0.4% | 価額100万円以下の土地は免税(令和9年3月31日まで) |
| 戸籍・除籍 | 1通450円/750円 | 法定相続情報一覧図を作れば以後は無料の写しで代用できる |
| 登記事項証明書 | 1通600円(オンライン請求は520円) | 地番が分かっていれば誰でも取れる |
| 司法書士の報酬 | 事務所と件数による | 相続人が少なく協議が整っていれば自分で申請する道がある |
戸籍を集めきれない、遺産分割の話がまとまらない、という場合は相続人申告登記(不動産登記法76条の3)で義務だけを先に果たす道があります。単独で申し出られ、相続人全員の確定が要りません。ただし所有者としての登記ではないため、そのままでは売れません。詳しくは相続人申告登記と売却の関係に書いています。
登記しても売れない原野の出口
登記を整えたあとに待っているのが、「それでも買い手がいない」という現実です。原野は用途がなく、道がなく、範囲も分からない土地であることが多く、買主を探して待つ仲介と噛み合いません。出口を、先に自分が払うものの順に並べます。

| 出口 | 先に払うもの | つまずく点 |
|---|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 審査手数料1筆14,000円、承認後に負担金(原野は原則20万円) | 境界が明らかでない土地は申請できない。手数料は不承認でも戻らない |
| 自治体へ寄付 | 打診だけなら無料 | 具体的な使い道がなければ受け取られないのが通例 |
| 隣地の所有者に譲る | 名義変更の費用 | 相手も同じ経緯で買った土地であることが多く、増やしたがらない |
| 仲介で売る | 売れれば仲介手数料 | 買主が現れないと何も動かない |
| 買取・取り扱い | 原則として先払いは無し | 状態によっては引き受けられないこともある |
相続土地国庫帰属制度は、地目が原野なら負担金が面積によらず原則20万円で済み、山林より条件はよく見えます。ただし、境界が明らかでない土地・所有権の範囲に争いがある土地は申請できません(法務省 相続土地国庫帰属制度の概要)。原野は測量図がなく境界標も見つからないことが多く、ここで止まります。制度の全体は相続土地国庫帰属制度にまとめています。
- 登記を済ませないまま「引き取ります」という勧誘に応じる — 名義が亡くなった方のままでは、そもそも譲れません。先に測量費や整地費を求められたら止まってください
- 相続放棄で原野だけを手放そうとする — 相続放棄は預貯金や自宅も含めた全部を放棄する手続きです。原野だけを選べません
- 「そのうち値上がりする」と待つ — 用途のない原野が値上がりした例を、実務では見たことがありません
相続放棄しても管理の責任が残る場合がある点は相続放棄と不動産の管理義務で、寄付が断られる理由は自治体への土地の寄付で扱っています。
「売れます」の電話には、登記の前後を問わず注意する
長く動かなかった原野に、ある日「買い取りたい」という連絡が来ることがあります。原野商法で買った土地を狙った二次被害として、国民生活センターが繰り返し注意喚起している形です。
共通しているのは、売却が決まる前に、こちらが先にお金を出す構造です。測量費・整地費・広告費といった名目で費用だけを支払い、売却は進みません。相続登記を済ませた直後は登記簿の名義が変わるため、新しい名義人あてに勧誘が届くこともあります。手口の見分け方と、支払ってしまったときのクーリング・オフは原野商法で買った土地の処分に書きました。
- 売れる前に費用を求められたら、何の対価かを書面で確認する
- 契約する前に、消費者ホットライン188か最寄りの消費生活センターに相談する
- 「隣の区画も持っていたほうが高く売れる」という話には乗らない
査定で見ているのは、登記より先に「たどり着けるか」
当社が原野のご相談を受けたときに確かめている点を挙げます。登記の状態は最後で、その前に土地そのものを見ています。
- 現地までたどり着けるか。 公道に接しているかだけでなく、実際に通れる道が残っているかを見ます
- 一筆の面積と形。 細長く分筆されていると、単独では何にも使えないことがあります
- 登記の地目と現況。 登記は原野でも、現況は雑木林や竹藪になっているのがふつうです
- 法令の指定。 保安林、農用地区域、自然公園、砂防指定地などを役所で確認します
- 権利関係。 名義が誰か、共有になっていないか、古い抵当権が残っていないか
これらの調査は当社で行い、売主に調べていただくことはありません。手元に権利証も納税通知書もない場合は、土地がありそうな市町村で名寄帳を取ると、その市町村内で亡くなった方が所有していた土地の一覧が分かります。
当社は原野を現況のまま取り扱っています。相続登記は売買の前には必要になりますが、登記を先に済ませてから相談していただく必要はありません。何をどの順で進めればよいかからお話しします。ただし、条件によっては成立しないことがあります。他で断られた物件も、お引き受けできる場合があります。個別の判断になる点はご了承ください。
この記事の要点
- 固定資産税の通知が来ない原野でも、相続登記は義務の対象。期限は知った日から3年、施行前の相続は令和9年3月31日まで
- 放置して失うのは過料より「手放す権利」。世代が下るほど相続人が増え、資料が廃棄される
- 価額100万円以下の土地は登録免許税が免税(令和9年3月31日まで)。申請書への条項の記載を忘れない
- 戸籍の束は法定相続情報一覧図で代えられる。様式は法務局のサイトにある
- 登記しても売れない原野は、国庫帰属は境界で止まりやすい。先に費用を出さない出口から検討する
登記や税務の取り扱いは、司法書士・税理士へご確認ください。所在地と地番、手元にある書類の有無だけ教えていただければ、そこから先は当社で調べます。山林・原野の扱い全体は山林・原野・別荘地の買取・売却相談にまとめています。
よくある質問
固定資産税の納税通知書が届かない原野でも、相続登記は必要ですか。
必要です。相続登記の義務は不動産登記法76条の2に基づくもので、課税されているかどうかとは関係ありません。通知が来ないのは、同じ市町村内で持つ土地の課税標準額の合計が30万円未満で免税点を下回っているためであることが多く、所有者であることも登記の義務も変わりません。
相続登記をしないまま何年も経っています。過料はいくらですか。
正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象です(不動産登記法164条1項)。ただし実務では、登記官からの催告に応じて申請すれば過料には至らないのが通常です。過料より現実に痛いのは、相続人が世代ごとに増えて手続きが動かなくなり、手放したいときに手放せなくなることです。
価値のない原野に登録免許税を払うのは損ではありませんか。
不動産の価額が100万円以下の土地については、令和9年3月31日までに受ける相続による所有権移転登記の登録免許税が免税になります(租税特別措置法84条の2の2第2項)。原野の多くはこの範囲に入ります。申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と書く必要があり、書かないと免税されません。
相続登記を自分で申請できますか。
できます。法務局のサイトに相続の申請書様式と記載例が公開されています。戸籍の束は法定相続情報証明制度を使えば無料の一覧図の写しで代えられます。ただし相続人が多い、数次相続になっている、遺産分割協議がまとまらないという場合は、司法書士へご相談ください。
登記を済ませても売れない原野は、どうすればよいですか。
相続土地国庫帰属制度は原野なら負担金が原則20万円ですが、境界が明らかでない土地は申請できず、原野商法で取得した土地はここで止まることが多いのが実情です。自治体への寄付も使い道がなければ受け取られません。当社は現況のまま取り扱っており、所在地と地番が分かれば調べてお答えします。すべてをお引き受けできるとは限らず、個別の判断になります。
この記事の監修者

森田 太(司法書士・森田司法書士事務所)
司法書士(埼玉司法書士会 第1230号・2010年4月登録)/簡裁訴訟代理等関係業務認定(認定番号 第501576号)。法政大学卒業。東京都中央区の司法書士事務所に4年間勤務したのち、2010年4月に森田司法書士事務所(さいたま市浦和区)を開設。相続・遺言・成年後見のほか、不動産登記(相続・贈与・抵当権抹消)、商業登記を取り扱っています。
事務所サイト:森田司法書士事務所
監修の範囲は登記に関する記述です。記事の執筆と、買取に関する記述はごえん株式会社が行っています。
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