相続人が複数いる家の売却|名義の決め方から代金の分配まで

三つの湯のみと不動産の書類が並ぶ食卓

相続人が複数いる家は、遺産分割が済むまで相続人全員の共有です。そのため、家を売却するには相続人全員の合意が要り、遺産分割協議書や売買の書類には全員の署名と実印が求められるのが通常です。そのうえで、売値や買主を探す前に「誰の名義で、誰が動くか」を決めておく必要があります。

結論:売って分けるなら、代表者1人の名義で相続登記をしてその人が売り、代金の分配割合は遺産分割協議書に書いておく形が進めやすい方法です。
売れるか:相続人全員の合意と、売主の名義を整える登記があれば進められます。
最初にやること:戸籍で相続人を確定し、家を誰が取るか・売って分けるかを決める。
費用:未登記・境界・越境を直さず、現況のまま相談する道があります(引き受けは物件ごとの判断です)。

この記事は、相続人全員が「売る」ことには同意している前提で書いています。兄弟の同意が取れないときの対処は、共同相続した不動産の売却で書きました。ここでは、同意はあるのに名義の置き方や、未登記の建物・境界の未確定・隣地への越境といった家そのものの条件で止まる場面を扱います。

目次

全体の流れ:相続人確定から代金の分配まで

相続人が複数いる家を売るときの流れは、次の順番です。

順段階やること期限・費用で出典のあるもの
1相続人の確定戸籍を集めて、誰が相続人かを確かめる出典のある数字はなし(集める戸籍の量で変わる)
2遺産分割協議家を誰が取るか、売って代金を分けるかを決め、協議書に全員が署名・実印まとまらないときは家庭裁判所に分割を請求できる(民法907条2項)
3相続登記売主の名義を整える(代表者名義か全員の共有名義)取得を知った日から3年以内(不動産登記法76条の2)。登録免許税は、相続の場合は不動産の価額(固定資産税評価額)の1000分の4(国税庁 No.7191)。一定の土地には免税措置がある
4売却買主を探し、契約・決済。未登記・境界・越境があればこの段階で扱いが問題になる未登記の建物は、取得から1か月以内の表題登記の申請義務がある(同法47条1項)
5代金の分配協議書で決めた割合で、売却代金を分ける譲渡所得は、後述のとおり各相続人が申告する

相続人が複数いると、売却の手続きで増えるのは次のことです。契約書や遺産分割協議書に、全員の署名と実印が要ること。実印の確認のため、全員の印鑑証明書を集めること。決済の日に、全員の対応(立会いか、委任)をそろえること。

期間は、相続人の人数や戸籍の量、買主が見つかるまでの時間で大きく変わるため、一律の目安は書きません。相続登記の前に買主を見つけて契約し、決済までに登記を済ませる進め方もあります。ただし、決済(引渡し)までに売主名義の相続登記が要ります。誰の名義にするかが決まっていないと登記ができず、決済の日程が組めません。

相続人が複数いる家を売る前の順番
名義を決めてから、家の条件の扱いを決める

相続人が複数いる家は、売る前に「誰が取るか」を決める

相続人が数人いるとき、遺産は遺産分割が済むまで相続人全員の共有になります(民法898条)。この状態では、誰の名前で売るのかが定まりません。

共同相続人は、いつでも話し合いで遺産の分割ができます。まとまらないときは家庭裁判所に請求できます(民法907条1項・2項)。家を売りたい場合の話し合いの中身は、おおむね次の3つに分かれます。

話し合いの中身起きること向く場面
1人が家を取るその人の名義にして、その人が売る売る意思を持つ人が1人にまとまっている
売って、代金を分ける(換価分割)売却後の代金を、取り決めた割合で分ける誰も住まず、誰も持ちたくない
1人が取り、他の人に金銭を払う取った人が、他の相続人に代わりの金銭を払う払える資力のある相続人がいる

売って代金を分ける場合の、売る前の名義の置き方

換価分割を選んだ場合、売る前の名義の置き方は大きく2通りあります。

  1. 相続人全員の共有名義で相続登記をして、全員が売主になる。契約や決済の書類に全員の署名・実印が要ります。
  2. 代表者1人の名義で相続登記をして、その人が売る。遺産分割協議書に、売却のための換価分割であることと、代金の分配割合を書いておきます。

2の形について国税庁は、遺産分割の調停で換価分割をする事例で、1人の名義での相続登記が単に換価のための便宜であり、代金が調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとしています(国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)。この回答は調停の事例を前提にしているため、協議で進める場合の協議書の書き方は、司法書士・税理士に確認してから作ってください。

換価分割の協議書に書いておく項目

代表者名義で売る場合、協議書に次の項目が抜けていないかを確かめてから、全員に回します。

  • 対象不動産:登記事項証明書のとおりに、土地・建物を特定して書く
  • 換価のための便宜の名義である旨:代表者の名義は売却のためのものであり、代表者が単独で取得するのではないこと
  • 代表者:誰の名義で相続登記をし、誰が売主として契約・決済をするか
  • 分配割合:売却代金を、相続人ごとにどの割合で分けるか
  • 経費の控除方法:仲介手数料・測量費・登記費用などを、売却代金から差し引いてから分けるのか、誰が負担するのか
  • 立替えの精算:代表者などが立て替えた費用を、売却代金からどう精算するか

具体的な文言は、司法書士・税理士に確認してから作ってください。

登記の期限

どれを選んでも、登記の期限は動き続けます。相続で所有権を取得した人は、相続の開始と取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。

さらに、先に法定相続分どおりの相続登記をした後で、遺産分割によって法定相続分を超えて取得した人は、分割の日から3年以内に改めて登記を申請する必要があります(同条2項)。先に相続人申告登記をしておき、その後の遺産分割で取得した場合も、分割の日から3年以内の申請が必要です(同法76条の3第4項)。最初から遺産分割の結果どおりに相続登記をする場合は、この「改めての申請」は生じません。起算点の詳しい数え方は相続登記の義務化にまとめています。

話し合いが長引きそうなときは、相続人申告登記という仮の手当てがあります(不動産登記法76条の3)。期限内に申し出れば、相続登記の義務を果たしたものとみなされます。ただし、これだけでは売るための名義変更になりません。売るには、売主の名義を整える相続登記が別に要ります。

名義が親のままで売れない理由と、登記にかかる費用の順番は、相続登記していない家の売却に書きました。ここで押さえるのは、名義と登記の話を片づけてからでないと、次の3つの問題の「窓口」を誰が担うかが決まらない、という順番です。

売った後の税金:譲渡所得は各相続人が申告する

換価分割で売ったあとの譲渡所得は、相続人がまとめて1人分を申告するのではなく、各相続人が持分に応じて申告します。国税庁の質疑応答事例では、売却時までに換価代金の取得割合を決めている場合はその割合、決めていない場合は法定相続分に応じて申告するとされています。

国税庁は、申告期限までに換価代金の分割が行われていなければ法定相続分で申告することになり、その後に代金が分割されても更正の請求等はできないとしています(国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」)。売る前に、分配割合を協議書に書いておくのはこのためでもあります。

譲渡所得の特例も、相続人ごとに使えるかを検討します。親が住んでいた家を売る場合の「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であることや、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどが要件で、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は控除額の上限が2,000万円になります(国税庁 No.3306)。相続税が課税された人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合は、相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。2つの特例は併用できないなどの制限もあるため、要件に当てはまるか、どちらを使うかの判断は税理士にご確認ください。

ご自身の物件が当てはまるか判断が難しい場合は、個別にお答えします。
物件の所在地さえ分かれば、現況のまま買い取れるかをお伝えできます。

家に未登記・境界・越境の問題もある場合

ここからは、家そのものに未登記の建物・境界の未確定・隣地への越境がある場合の話です。当てはまらない方は、後半の「先に確認する順番と、相談する相手」まで読み飛ばしてかまいません。これらの条件があると、相続人が複数であるほど「誰が動き、誰が払うか」で止まります。個々の売り方は、それぞれの記事に任せ、ここでは相続人が複数のときの論点だけ書きます。

  • 未登記の建物:表題登記のない建物の所有権を取得した人には、取得から1か月以内の申請義務があり、怠ると10万円以下の過料の対象です(不動産登記法47条1項・164条1項)。相続人が複数のとき、誰がどう申請するかは事情で変わるため、土地家屋調査士に確認してください。登記の費用の目安と、登記せずに手放す道は未登記建物の売却にあります
  • 境界の未確定:買主から測量を求められることがあります。測量の段階と、しないで売る条件は境界未確定の土地の売却にあります。相続人が複数のときは、隣地との立会いに誰が出るか、確認書に誰が署名するかを決めておきます。名義を先に整えておくと、誰が署名するかで迷わずに進められます
  • 越境:覚書で扱いを決めるのが一般的で、売主側の当事者が定まっていないと結べません。覚書の内容は越境している土地の売却にあります。隣の枝や根の越境は、民法233条で切り取れる場合があります(2023年4月1日施行の改正)

知っている越境や境界の争いを、買主に告げずに売ると、後から責任を問われることがあります。「現況のまま、責任を負わない」という特約をつけても、売主が知りながら告げなかった事実の責任は免れません(民法572条)。相続人のうち、現地の事情を知っている人が告げる役割を担うと、話が早くなります。

窓口役を決めておく:委任の範囲・立替え・遠方の相続人

3つの問題に共通して効くのが、窓口役を1人決めておくことです。決めておく内容は次のとおりです。

  • 委任の範囲:窓口役に任せるのが、日程の調整だけなのか、売買契約まで含むのかを、書面ではっきりさせる。売買の手続きまで任せる場合は、委任状を出す形がとられる。書式は司法書士に確認してから回す
  • 立替え費用の精算:測量や登記の費用を窓口役が立て替えた場合、売却代金からどう精算するかを、協議書に書いておく。あとで揉めやすいのは、口頭で済ませた部分
  • 遠方・高齢の相続人:全員が一堂に会する必要はない。協議書は、窓口役が作った書面を郵送で回し、各自が署名・実印の押印をして、印鑑証明書を添えて返送する形で進めるのが一般的。郵送の往復には日数がかかるので、回す順番と返送の期限を、最初に全員へ伝えておく

3つの問題を並べて見る

ここまでの3つを、「相続人が複数だと増える作業」の視点で並べます。

3つの問題で誰が動くか
どの問題も、窓口になる人を決めておくと進みやすい
問題直して売る場合に動く人現況のまま渡す場合
未登記の建物申請者と費用の出し手が要る登記せずに引き渡せるかを、引き受ける先に確認する
境界の未確定立会い・署名の窓口が要る測量をしないまま引き受けてもらえるかを確認する
越境売主側の当事者が要る越境の事実を伝えたうえで、扱いを相談する

直して売る道は、費用と時間を先に出せる相続人がいてはじめて成り立ちます。誰も出せない、あるいは出す人を決められないとき、現況のまま引き受ける道が選択肢に入ります。

先に確認する順番と、相談する相手

相続人が複数いるときは、次の順番で確認すると、手戻りが少なくなります。

相談する相手は、内容ごとに違います。

相談の内容相談先の例
相続登記・遺産分割協議書司法書士
話し合いがまとまらない・紛争になりそう弁護士
表題登記・測量・境界の確認土地家屋調査士
売却したときの税金税理士

どの士業に何を頼めるかは、事務所ごとに異なります。最初の電話で、自分の状況を伝えて確かめてください。

相続人が複数いる家を、現況のまま手放すという選択

直す費用を誰が出すかで揉めたり、遠方の相続人が現地に来られなかったりするときは、未登記・境界・越境を直さずに、現況のまま引き受ける会社に相談する道があります。

当社は訳あり不動産を現況のまま取り扱っています。未登記・私道・境界の相談も受けており、片付け・解体・測量を売主様に先にしていただく必要はありません。土地の調査も当社で行います。相続登記や抵当権の抹消は、提携する司法書士と連携して進められます。遠方の売主様でも、現地にお越しいただかずに契約から決済まで進められます。

ただし、すべての物件を引き受けられるわけではありません。希望額との開き、お引き受けへのご同意(買取とは別の形です)、そして相続人どうしの合意が整っているかどうかで、話が成り立たない場合もあります。名義と合意の状況を教えていただければ、調べたうえで、できることとできないことを率直にお答えします。

売却益の税金や、遺産分割の法的な判断は、個別の事情で変わります。税理士・司法書士・弁護士にご確認ください。

出典:

  • 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
  • 国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告…」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/09/01.htm
  • 民法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 不動産登記法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
  • 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/13/01.htm
  • 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
  • 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm

よくある質問

相続人が複数いる家を売るには、まず何をすればよいですか。

遺産分割の前は相続人全員の共有なので、売るには相続人全員の合意が要ります。最初は相続人の確定です。戸籍を集めて、誰が相続人かを確かめます。そのうえで遺産分割の話し合いをして、誰がその家を取るのか、売って代金を分けるのかを決めます。話し合いがつかないときは、家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。先に買主を探して契約する進め方もありますが、決済(引渡し)までに売主名義の相続登記が要ります。

相続人申告登記をしておけば、家を売れますか。

売れません。相続人申告登記は、相続登記の義務を果たしたものとみなす制度です(不動産登記法76条の3第2項)。ただし、これで売るための名義変更が済むわけではありません。売却には、売主の名義を整えた相続登記が別に要ります。

未登記の建物がある場合、誰が登記を申請するのですか。

表題登記のない建物の所有権を取得した人に、取得から1か月以内の申請義務があります(不動産登記法47条1項)。怠ると10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。相続人が複数いる場合に誰がどう申請するかは、事情で変わります。土地家屋調査士に確認してください。

境界が決まっていない家でも、相続人が複数いても売れますか。

売れる場合があります。測量をして境界を確定させる方法のほかに、境界が未確定のまま売る方法もあります。ただし、買主に境界が未確定であることを伝える必要があります。相続人が複数いる場合は、立会いの日程と確認書への署名をだれが担うかを先に決めておくと、手続きが止まりにくくなります。

隣の木の枝や根が自分の土地に越境しているのは、自分で切ってよいのですか。

枝は、まず所有者に切除を催告し、相当の期間内に切除されないときなどに切り取れます。根は、境界線を越えていれば自分で切り取れます(民法233条、2023年4月1日施行の改正)。建物や塀など枝・根以外の越境は、別の問題です。覚書で扱いを決めるのが一般的です。

この記事の監修者

小笠原 りえ(ごえん株式会社 代表取締役)

不動産業界10年。2010年創業のごえん株式会社で、相続した空き家・ごみ屋敷・再建築不可・市街化調整区域など、他社で断られた不動産の買取を全国で行っています。

ごえん株式会社/茨城県知事免許(4)第0006708号

このような物件のご相談は、未登記・私道・境界の買取相談のページへ。

登記や境界が整っていなくても、売れるか

どこも引き受けない「訳あり不動産」を現況のまま買い取る、全国対応の買取再販会社です。

相続した空き家、ごみ屋敷、再建築不可、市街化調整区域、共有持分、未登記——他社で断られた物件こそご相談ください。全国対応です。

片付け・解体・測量を、先に済ませていただく必要はありません。建物が建ったまま、家財が残ったままの現況で査定します。役所調査も現地確認も当社が行いますので、遠方にお住まいでも、現地に行かずに手続きを終えられます。資料が手元になくても、物件の所在地さえ分かればお答えできます。

測量や登記を先にしていただく必要はありません。現況のまま確認します。

お電話はこちら → 029-879-5683 / メール info@goen-fudosan.co.jp

ごえん株式会社(茨城県知事免許(4)第0006708号)/300-0045 茨城県土浦市文京町4-8

目次